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072 気付き
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「だから、次期国王にはお姉さまの方が相応しいの……」
はらはらと涙を流しながら語るエレオノーレ。誰にも言えなかった心情を吐露したためか、その顔は吹っ切れたような綺麗な笑顔を浮かべていた。
「エル……ごめんなさい。わたくしのせいでここまで貴女を追い込んでしまっていたのね……」
「お姉さま……ッ!?」
クラウディアはソファーから立ち上がると、エレオノーレを正面から抱きしめる。普段はエレオノーレの方が背が高く姉のように見えるというのに、今はちゃんとクラウディアの方が姉らしく見えた。
「重かったでしょう、辛かったでしょう、悔しかったでしょう……。ごめんなさい。本来ならばわたくしが背負うべき重荷を貴女に持たせてしまいました。本当にごめんなさい……」
「お姉さま……」
「これまでの貴女のがんばりを無にしてはいけません。あなたは国王になるべきです」
「ですが……。お姉さまはそれで本当にいいのですか……?」
クラウディアがエレオノーレの顔を見ながら悲しそうな表情を浮かべてエレオノーレの頭を撫でた。
「わたくしはもう国母を担える器ではありません」
「お姉さま……?」
「エレオノーレは今まで国王になるべく厳しい教育を受けてきたのでしょう? 邪神の呪いに蝕まれたわたくしの体は、その教育を乗り切ることができませんでした。わたくしは、国王となるべき教育を受けていないのです……」
「それは……ッ!? ですが、貴族たちはお姉さまが即位することを望んでいます」
「ですからわたくしの方から王位継承権を放棄するのです。貴族の中には、貴女が王になることを望んでいる人も居るのでしょう? 国を二つに割ってはいけません」
「お姉さま……」
「わたくしは心からエレオノーレが次期国王になることを望んでいるのです。その心に嘘はありません。ですから、エルも自信を持って」
「ですが……」
「エル、国母に相応しい女性か否かは血で決まるものではありません。その女性の持つ知識や教養で決まるべきだとわたくしは思っています。エルは正しい王位継承者なのです」
「お姉さま……。少し、少しだけ考えさせてください……」
「ええ。どうか貴女のこれまでの努力を無にしないで。エルが笑顔でいられる選択をしてください。貴女はわたくしにとってかわいい妹なのですから」
「お姉さま……。はい……」
目の前で起こったクラウディアとエレオノーレの姉妹の会話。たぶん王族なんてオレの想像以上に厳しく躾けられているのだろう。それこそ、自分の素直な感情を吐露することも自由にできないはずだ。
きっとエレオノーレの激情の吐露も、クラウディアの告白も、余人が居ない学院の個室だからできたのだろう。
オレとコルネリアは、この会話を聞いてもよかったのか?
とくにクラウディアが王位継承権を放棄するなんて国がひっくり返るくらいビッグニュースだぞ!?
「お兄さま……」
「ああ……」
隣に座ったコルネリアが、オレにもたれかかってきた。おそらくコルネリアも事の重大さに気が付いたのだろう……。ん?
コルネリアがオレの体に手を回して、ゆるく抱き付いてきた。どうしたんだ?
「んー」
コルネリアを見下ろすと、ちょっと不満そうなコルネリアと目が合った。
ひょっとして、抱き合ってるクラウディア、エレオノーレ姉妹にあてられたのか?
「ん」
オレは疑問を感じながらもコルネリアを抱き返すと、コルネリアはニッコリと満足げに頷いた。
かわいいなーもう!
◇
その夜。オレは一人、男子寮の自室で唸っていた。
クラウディアが王位継承権を放棄することへの影響を考えていたのだ。
「とりあえず、次期国王はゲーム通りにエレオノーレに戻った……。この盤面、どう変化する?」
クラウディアの登場で不透明になっていた次期国王はエレオノーレが内定した形だ。それ自体は喜ばしいことだが、事はそんな簡単に片付くものだろうか?
貴族たちの動きを見ていると、そう簡単なものだとは思えない。
教室に居るクラスメイトは、貴族の子どもたちだ。当然、親の思惑が行動として現れるに違いない。
それを見ていると、多くの貴族がクラウディアの次期国王即位を望んでいることが窺える。
クラウディアは王位継承権を放棄すると言っていたが、すんなり放棄できるかどうか……。場合によっては本人の意思とは無関係に放棄することが許されない状況になるかもしれない。
それによるゲームのシナリオへの影響は?
この先、どれだけゲームの知識が役に立つ?
「アイテムの入手は可能だろう。しかし、あまり取り過ぎると主人公に悪影響がある……。問題は邪神による被害をどうやって凌ぐかだが……。あ!?」
そういえば居たわ。超重要人物。しかもオレにどうにかできそうなのが。
「アルトマイヤー将軍……」
こいつ、初登場の時点で死にかけで、なんの活躍もすることなく死ぬ。かなり影の薄いモブキャラだが、この国の国防の要、軍のトップである将軍だ。
対邪神軍の指揮を執るはずが、邪神によるモンスターの進軍の直前に死に、その影響で諸侯軍との連携不足や一部貴族の暴走を引き起こし、第一次邪神包囲網に穴を作ってしまう。
ぶっちゃけ居ない方がマシなモブキャラなのだが、こいつの健康が万全な状態なら、もしかしたら最初から邪神に勝てるんじゃないか?
はらはらと涙を流しながら語るエレオノーレ。誰にも言えなかった心情を吐露したためか、その顔は吹っ切れたような綺麗な笑顔を浮かべていた。
「エル……ごめんなさい。わたくしのせいでここまで貴女を追い込んでしまっていたのね……」
「お姉さま……ッ!?」
クラウディアはソファーから立ち上がると、エレオノーレを正面から抱きしめる。普段はエレオノーレの方が背が高く姉のように見えるというのに、今はちゃんとクラウディアの方が姉らしく見えた。
「重かったでしょう、辛かったでしょう、悔しかったでしょう……。ごめんなさい。本来ならばわたくしが背負うべき重荷を貴女に持たせてしまいました。本当にごめんなさい……」
「お姉さま……」
「これまでの貴女のがんばりを無にしてはいけません。あなたは国王になるべきです」
「ですが……。お姉さまはそれで本当にいいのですか……?」
クラウディアがエレオノーレの顔を見ながら悲しそうな表情を浮かべてエレオノーレの頭を撫でた。
「わたくしはもう国母を担える器ではありません」
「お姉さま……?」
「エレオノーレは今まで国王になるべく厳しい教育を受けてきたのでしょう? 邪神の呪いに蝕まれたわたくしの体は、その教育を乗り切ることができませんでした。わたくしは、国王となるべき教育を受けていないのです……」
「それは……ッ!? ですが、貴族たちはお姉さまが即位することを望んでいます」
「ですからわたくしの方から王位継承権を放棄するのです。貴族の中には、貴女が王になることを望んでいる人も居るのでしょう? 国を二つに割ってはいけません」
「お姉さま……」
「わたくしは心からエレオノーレが次期国王になることを望んでいるのです。その心に嘘はありません。ですから、エルも自信を持って」
「ですが……」
「エル、国母に相応しい女性か否かは血で決まるものではありません。その女性の持つ知識や教養で決まるべきだとわたくしは思っています。エルは正しい王位継承者なのです」
「お姉さま……。少し、少しだけ考えさせてください……」
「ええ。どうか貴女のこれまでの努力を無にしないで。エルが笑顔でいられる選択をしてください。貴女はわたくしにとってかわいい妹なのですから」
「お姉さま……。はい……」
目の前で起こったクラウディアとエレオノーレの姉妹の会話。たぶん王族なんてオレの想像以上に厳しく躾けられているのだろう。それこそ、自分の素直な感情を吐露することも自由にできないはずだ。
きっとエレオノーレの激情の吐露も、クラウディアの告白も、余人が居ない学院の個室だからできたのだろう。
オレとコルネリアは、この会話を聞いてもよかったのか?
とくにクラウディアが王位継承権を放棄するなんて国がひっくり返るくらいビッグニュースだぞ!?
「お兄さま……」
「ああ……」
隣に座ったコルネリアが、オレにもたれかかってきた。おそらくコルネリアも事の重大さに気が付いたのだろう……。ん?
コルネリアがオレの体に手を回して、ゆるく抱き付いてきた。どうしたんだ?
「んー」
コルネリアを見下ろすと、ちょっと不満そうなコルネリアと目が合った。
ひょっとして、抱き合ってるクラウディア、エレオノーレ姉妹にあてられたのか?
「ん」
オレは疑問を感じながらもコルネリアを抱き返すと、コルネリアはニッコリと満足げに頷いた。
かわいいなーもう!
◇
その夜。オレは一人、男子寮の自室で唸っていた。
クラウディアが王位継承権を放棄することへの影響を考えていたのだ。
「とりあえず、次期国王はゲーム通りにエレオノーレに戻った……。この盤面、どう変化する?」
クラウディアの登場で不透明になっていた次期国王はエレオノーレが内定した形だ。それ自体は喜ばしいことだが、事はそんな簡単に片付くものだろうか?
貴族たちの動きを見ていると、そう簡単なものだとは思えない。
教室に居るクラスメイトは、貴族の子どもたちだ。当然、親の思惑が行動として現れるに違いない。
それを見ていると、多くの貴族がクラウディアの次期国王即位を望んでいることが窺える。
クラウディアは王位継承権を放棄すると言っていたが、すんなり放棄できるかどうか……。場合によっては本人の意思とは無関係に放棄することが許されない状況になるかもしれない。
それによるゲームのシナリオへの影響は?
この先、どれだけゲームの知識が役に立つ?
「アイテムの入手は可能だろう。しかし、あまり取り過ぎると主人公に悪影響がある……。問題は邪神による被害をどうやって凌ぐかだが……。あ!?」
そういえば居たわ。超重要人物。しかもオレにどうにかできそうなのが。
「アルトマイヤー将軍……」
こいつ、初登場の時点で死にかけで、なんの活躍もすることなく死ぬ。かなり影の薄いモブキャラだが、この国の国防の要、軍のトップである将軍だ。
対邪神軍の指揮を執るはずが、邪神によるモンスターの進軍の直前に死に、その影響で諸侯軍との連携不足や一部貴族の暴走を引き起こし、第一次邪神包囲網に穴を作ってしまう。
ぶっちゃけ居ない方がマシなモブキャラなのだが、こいつの健康が万全な状態なら、もしかしたら最初から邪神に勝てるんじゃないか?
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