67 / 189
067 教会からの手紙
しおりを挟む
「旦那様、また教会からこのようなものが」
「教会? またか……」
王都のバウムガルテン邸の執務室。一週間で溜まった手紙などを読んでいると、クラウスが豪華な作りの手紙を持ってきた。
実は教会からは今までに何度も手紙を貰っている。教会に所属しないか? という内容だ。聖者のギフトを持つオレを教会に所属させ、オレを使って怪我や病の治療をして、教会の威信を上げようというのだろう。
今の教会には、高レベルの治癒の使い手が居ないのか、教会を頼って高いお布施を払っても怪我や病が治らないなんてこともあるからな。教会としては面目丸つぶれだ。
そこでオレに目を付けたんだろうが……。オレはどうも教会のことが好きになれなくて教会に所属していなかった。
一応、教会に所属すると何割か教会に天引きされるが、教会の依頼で治療を行った際は金が入るようだ。
しかし、教会に所属してしまえば、今までのように自由に人を癒せない場合もある。オレが貴族たちを癒している行為がそれだ。オレに依頼したかったら教会を通してねと断ることになる。
金が欲しければ教会に所属するのが手っ取り早いが、今のオレは金に困っていない。もう教会にはなんの魅力も感じないな。
「まぁ、一応読んでみるか。これを読んだら休憩にしよう。リビングでお茶を飲むから準備してくれ」
「かしこまりました、旦那様」
「なになに……」
さてさて、何が書いてあるのやら。教会への所属の催促か? それとも勝手に貴族たちの治療をしたことへの文句か?
「ふむ……」
相変わらずのお堅い文だな。目が滑る滑る。頭が痛くなりそうだ。
「なんだこれ……」
「旦那様?」
「ああ、読んでみろ。わけがわからん」
「よろしいのですか?」
「かまわん」
教会からの手紙を読んだクラウスは、難しそうな顔をしてオレを見た。
「どう思う?」
「旦那様を将来の教皇候補生として教会に迎え入れる準備があるとのことですが……。教会はそれだけ旦那様のご活躍を重く見たということではないでしょうか?」
「オレの活躍?」
オレはべつになにか特別なことをした覚えはないが……?
「貴族様方を治療なされたではないですか。いずれも教会では完治できなかった方々です。それらは教会よりも旦那様の方が優れていることの証明です。教会としては、もうなりふり構わず旦那様を教会の所属にしたいのでしょう」
「なるほどな……」
「それと同時に今回の旦那様の陞爵《しょうしゃく》のタイミングを考えますと……」
「王国はオレの教会の所属に反対か……」
「おそらくは」
つまり、王国と教会がオレの所属を巡って綱引きしているのだ。
王国としては、今のまま教会に所属させず、オレを自由に動かしたい。オレが教会の所属となれば、教会にお伺いを立てなくてはならないからな。
そして、教会としても優れた治癒魔法の使い手であるオレを是が非でも確保したいのだ。もう教会に所属する者たちよりもオレの方が優れていることを証明してしまったからな。教会の威信を保つ意味でもオレの教会の所属は成し遂げたいところだろう。
「それで、どうなさいますか?」
「オレは教会には所属しない。少なくとも今はその時ではない。オレと国の関係は今のところ上手くいっているからな」
それに、これは国から無茶を言われた時にいいカードになってくれる気がする。ここで切るのはもったいない。
「教会には断りの手紙を書いておいてくれ。さて、休憩しよう。リビングに行くぞ」
「かしこまりました、旦那様」
◇
リビングにはコルネリアとリリー、二人のメイドの姿もあった。どうやら今はお茶会の作法の勉強中のようだ。練習の為だろう。二人とも古ぼけた袖の広いドレスを着ている。
二人が着ているのは、死んだオレとコルネリアの母親が花嫁道具として一緒に持ってきたものだ。古ぼけてるのも当たり前だね。
「精が出るな」
「ディー」
「お兄さま! お仕事はもうよろしいのですか?」
「ああ。さあ、二人ともお勉強を続けて」
「えー……」
「こら、リリー。貴族の淑女になるには必要なことですよ?」
「うー……」
「お勉強が終わったら、買い物にでも行くか。だからリリーもリアもがんばって」
「お買い物?」
「まあ! よろしいのですか?」
「ああ。子爵に上がった時に貰った祝い金がたんまりあるからね。それに、マヨネーズの売り上げも絶好調だしな。金の心配はしなくてもいい。なんでも欲しいものを買うといいよ」
「やった」
「ありがとうございます、お兄さま」
「なに、妹たちを着飾らせるのも兄の務めだよ」
そう言って、オレはお茶を片手にリリーの淑女教育を見守るのだった。
リリーは口では文句を言うが、教育を受ける姿勢は真剣そのものだ。たぶん、できなかったらあとで恥をかくのは自分だということをわかっているのだろう。
意外にもコルネリアは人に教えるのが上手いし、いいコンビなのかもしれないね。
二人へのプレゼントは奮発しよう。
この時のオレは、そんな暢気なことを考えていた。
まさか、少女たちとの買い物があんなにたいへんなものだったとは……。
「教会? またか……」
王都のバウムガルテン邸の執務室。一週間で溜まった手紙などを読んでいると、クラウスが豪華な作りの手紙を持ってきた。
実は教会からは今までに何度も手紙を貰っている。教会に所属しないか? という内容だ。聖者のギフトを持つオレを教会に所属させ、オレを使って怪我や病の治療をして、教会の威信を上げようというのだろう。
今の教会には、高レベルの治癒の使い手が居ないのか、教会を頼って高いお布施を払っても怪我や病が治らないなんてこともあるからな。教会としては面目丸つぶれだ。
そこでオレに目を付けたんだろうが……。オレはどうも教会のことが好きになれなくて教会に所属していなかった。
一応、教会に所属すると何割か教会に天引きされるが、教会の依頼で治療を行った際は金が入るようだ。
しかし、教会に所属してしまえば、今までのように自由に人を癒せない場合もある。オレが貴族たちを癒している行為がそれだ。オレに依頼したかったら教会を通してねと断ることになる。
金が欲しければ教会に所属するのが手っ取り早いが、今のオレは金に困っていない。もう教会にはなんの魅力も感じないな。
「まぁ、一応読んでみるか。これを読んだら休憩にしよう。リビングでお茶を飲むから準備してくれ」
「かしこまりました、旦那様」
「なになに……」
さてさて、何が書いてあるのやら。教会への所属の催促か? それとも勝手に貴族たちの治療をしたことへの文句か?
「ふむ……」
相変わらずのお堅い文だな。目が滑る滑る。頭が痛くなりそうだ。
「なんだこれ……」
「旦那様?」
「ああ、読んでみろ。わけがわからん」
「よろしいのですか?」
「かまわん」
教会からの手紙を読んだクラウスは、難しそうな顔をしてオレを見た。
「どう思う?」
「旦那様を将来の教皇候補生として教会に迎え入れる準備があるとのことですが……。教会はそれだけ旦那様のご活躍を重く見たということではないでしょうか?」
「オレの活躍?」
オレはべつになにか特別なことをした覚えはないが……?
「貴族様方を治療なされたではないですか。いずれも教会では完治できなかった方々です。それらは教会よりも旦那様の方が優れていることの証明です。教会としては、もうなりふり構わず旦那様を教会の所属にしたいのでしょう」
「なるほどな……」
「それと同時に今回の旦那様の陞爵《しょうしゃく》のタイミングを考えますと……」
「王国はオレの教会の所属に反対か……」
「おそらくは」
つまり、王国と教会がオレの所属を巡って綱引きしているのだ。
王国としては、今のまま教会に所属させず、オレを自由に動かしたい。オレが教会の所属となれば、教会にお伺いを立てなくてはならないからな。
そして、教会としても優れた治癒魔法の使い手であるオレを是が非でも確保したいのだ。もう教会に所属する者たちよりもオレの方が優れていることを証明してしまったからな。教会の威信を保つ意味でもオレの教会の所属は成し遂げたいところだろう。
「それで、どうなさいますか?」
「オレは教会には所属しない。少なくとも今はその時ではない。オレと国の関係は今のところ上手くいっているからな」
それに、これは国から無茶を言われた時にいいカードになってくれる気がする。ここで切るのはもったいない。
「教会には断りの手紙を書いておいてくれ。さて、休憩しよう。リビングに行くぞ」
「かしこまりました、旦那様」
◇
リビングにはコルネリアとリリー、二人のメイドの姿もあった。どうやら今はお茶会の作法の勉強中のようだ。練習の為だろう。二人とも古ぼけた袖の広いドレスを着ている。
二人が着ているのは、死んだオレとコルネリアの母親が花嫁道具として一緒に持ってきたものだ。古ぼけてるのも当たり前だね。
「精が出るな」
「ディー」
「お兄さま! お仕事はもうよろしいのですか?」
「ああ。さあ、二人ともお勉強を続けて」
「えー……」
「こら、リリー。貴族の淑女になるには必要なことですよ?」
「うー……」
「お勉強が終わったら、買い物にでも行くか。だからリリーもリアもがんばって」
「お買い物?」
「まあ! よろしいのですか?」
「ああ。子爵に上がった時に貰った祝い金がたんまりあるからね。それに、マヨネーズの売り上げも絶好調だしな。金の心配はしなくてもいい。なんでも欲しいものを買うといいよ」
「やった」
「ありがとうございます、お兄さま」
「なに、妹たちを着飾らせるのも兄の務めだよ」
そう言って、オレはお茶を片手にリリーの淑女教育を見守るのだった。
リリーは口では文句を言うが、教育を受ける姿勢は真剣そのものだ。たぶん、できなかったらあとで恥をかくのは自分だということをわかっているのだろう。
意外にもコルネリアは人に教えるのが上手いし、いいコンビなのかもしれないね。
二人へのプレゼントは奮発しよう。
この時のオレは、そんな暢気なことを考えていた。
まさか、少女たちとの買い物があんなにたいへんなものだったとは……。
41
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる