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089 クロエの報告
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「今日で五日目か……」
オレは、ご自慢のヘヴィークロスボウを構え、周囲を警戒しながら零す。
ここは、360度を緑に覆われた深い森の中。レベル3ダンジョン『白狼の森林』の中、その最深部にほど近い場所だ。
先程、自身が零した言葉の通り、『白狼の森林』に潜り始めて、今日で五日目となる。
初めに設定した『白狼の森林』の攻略期間も、今日で折り返しだ。これまでの間に様々な問題やトラブルが起きたが、クロエたちは、その度に知恵を絞りながら克服してきた。
そのおかげだろう。クロエたちは以前よりも逞しくなった。それは戦闘力や、小手先の技術だけではない。彼女たちは、精神的にも強くなった気がする。
たしかに肉体的、技術的にはまだまだ拙い部分は多々ある。しかし、自身よりも圧倒的に大きいモンスター、ここ『白狼の森林』のボス、白狼との戦闘を通して、胆力と言うべきものが鍛えられているのだろう。彼女たちの精神的な成長は目を瞠るものがある。
以前にも言ったが、デカいというのはそれだけで脅威だ。それは物理的な意味でも、そして、精神的な意味でもそうだ。デカいというのは、それだけで威圧感があり、恐怖を感じさせる。
クロエたちは、白狼戦を通して、恐怖を飼い慣らす術を学びつつあるのだろう。
それは、冒険者には必須の技能だ。高レベルのダンジョンのモンスターは、皆デカいからな。この白狼戦を通して、自分よりもデカいモンスター相手の戦術の初歩を学んでもらえたらいい。
「やれやれ……」
最初は、クロエたちにデカいモンスターに対する心構えができればそれでいいと思っていたが、クロエたちの成長速度がオレの想定以上のものであったため、欲が出てきてしまった。
他人の期待というのは、重い。
オレはクロエたちにそんな余計な重荷など背負わせたくはなくて、自由にやらせているつもりだったが……。どうしても彼女たちに期待するのを止められそうにない。困ったものだ。
期待するボーダーを下げて、決して高望みしないように気を付けないとな。
「ん?」
そうして自分を戒めていると、前方から黒く細い小柄な人影が見えた。ピッチリと体に貼り付くような黒の装備を身に着けた、闇に紛れるその姿。クロエだ。偵察に出ていたクロエが帰ってきた。
「お疲れさん。無事でよかった」
クロエには、単身での偵察を命じていた。一応、なにかあった時に知らせるための笛を渡してはいるが、当然ながら、たったそれだけで完全にクロエが安全になるわけではない。
本当なら、クロエには単独で偵察なんて危険なマネはさせたくないが、本人であるクロエが、アサシンとしての成長を望んでいる。
もちろん、俺だってクロエの成長を望んでいる。しかし、クロエに危険なマネをさせるのは……。オレは一人で板挟みになりながらも、クロエの意思を優先することにした。
まだ低レベルのダンジョンだから、なんとかなるだろうという安易な考えもあった。問題の先延ばしとも言う。
できれば、オレが心配しなくなるほどクロエの技術が上達することが一番いいのだが……。まだまだ時間がかかりそうだな。
いつもはオレたちの姿を見つけると、ホッとしたような表情を見せるクロエが、今回は難しい表情を浮かべたままだった。
なにか問題でもあったのか?
オレは、手に握るヘヴィークロスボウを強く握りしめていた。
「クロエ、まずは報告だ。なにがあった?」
「うん……。叔父さん、ボスがおかしいの。真っ黒なの」
「真っ黒?」
オレはクロエの言葉に一つの可能性を導き出していた。まさか……。
「それって……」
「なになに? ベルベル知ってるのー?」
「なにか、よくないことなのでしょうか?」
「んー……?」
どうやら、イザベルにも思い当たる節があるようだ。相変わらず、イザベルの知識の深さには驚かされる。
まずは、イザベルの導き出した答えを聞いてみよう。
「イザベル、分かるか?」
イザベルは腕を組んで、右手を俯き気味の顎に当てた思案顔で答える。
「おそらくだけど……。色違い……かしら? いえ、でも……」
「色違い?」
「それってなにー?」
イザベルの出した答えに聞き覚えが無かったのか、クロエとジゼルが疑問の声を上げた。まぁ、珍しい現象だからな。クロエたちが知らなくても無理はない。
「たぶん正解だ、イザベル。オレも色違いが出たんだと思う」
「ッ!」
オレがイザベルの言葉を肯定すると、イザベルは弾かれたように顔を見上げ、目を見開いてみせた。自分で答えを出しながらも、半信半疑だったのだろう。オレが肯定したことに驚いたようだ。
「その、お二人とも、色違いとは何なのでしょう? 浅学なわたくしに教えてはいただけませんか?」
「んっ……」
エレオノールとリディもオレを見上げて説明をせがんでくる。
「いいか? 色違いってのは、そのまんま普通とは違う色をしたモンスターのことだ。気を付けなくちゃならねぇのは、色違いのモンスターは、通常よりもはるかに強いとこだな。だいたい2レベルくらいは違うと言われている。相手はレベル3のダンジョンのボスだから、今回はレベル5ダンジョンのボスくらいの強さってとこだな」
「それって……」
「ひえー……マジ……?」
「そんな危険な存在が……」
「こわ、い……」
クロエをはじめ、ジゼルも、エレオノールも、普段は表情の動かないリディさえも、怯えたような顔を浮かべていた。
オレは、ご自慢のヘヴィークロスボウを構え、周囲を警戒しながら零す。
ここは、360度を緑に覆われた深い森の中。レベル3ダンジョン『白狼の森林』の中、その最深部にほど近い場所だ。
先程、自身が零した言葉の通り、『白狼の森林』に潜り始めて、今日で五日目となる。
初めに設定した『白狼の森林』の攻略期間も、今日で折り返しだ。これまでの間に様々な問題やトラブルが起きたが、クロエたちは、その度に知恵を絞りながら克服してきた。
そのおかげだろう。クロエたちは以前よりも逞しくなった。それは戦闘力や、小手先の技術だけではない。彼女たちは、精神的にも強くなった気がする。
たしかに肉体的、技術的にはまだまだ拙い部分は多々ある。しかし、自身よりも圧倒的に大きいモンスター、ここ『白狼の森林』のボス、白狼との戦闘を通して、胆力と言うべきものが鍛えられているのだろう。彼女たちの精神的な成長は目を瞠るものがある。
以前にも言ったが、デカいというのはそれだけで脅威だ。それは物理的な意味でも、そして、精神的な意味でもそうだ。デカいというのは、それだけで威圧感があり、恐怖を感じさせる。
クロエたちは、白狼戦を通して、恐怖を飼い慣らす術を学びつつあるのだろう。
それは、冒険者には必須の技能だ。高レベルのダンジョンのモンスターは、皆デカいからな。この白狼戦を通して、自分よりもデカいモンスター相手の戦術の初歩を学んでもらえたらいい。
「やれやれ……」
最初は、クロエたちにデカいモンスターに対する心構えができればそれでいいと思っていたが、クロエたちの成長速度がオレの想定以上のものであったため、欲が出てきてしまった。
他人の期待というのは、重い。
オレはクロエたちにそんな余計な重荷など背負わせたくはなくて、自由にやらせているつもりだったが……。どうしても彼女たちに期待するのを止められそうにない。困ったものだ。
期待するボーダーを下げて、決して高望みしないように気を付けないとな。
「ん?」
そうして自分を戒めていると、前方から黒く細い小柄な人影が見えた。ピッチリと体に貼り付くような黒の装備を身に着けた、闇に紛れるその姿。クロエだ。偵察に出ていたクロエが帰ってきた。
「お疲れさん。無事でよかった」
クロエには、単身での偵察を命じていた。一応、なにかあった時に知らせるための笛を渡してはいるが、当然ながら、たったそれだけで完全にクロエが安全になるわけではない。
本当なら、クロエには単独で偵察なんて危険なマネはさせたくないが、本人であるクロエが、アサシンとしての成長を望んでいる。
もちろん、俺だってクロエの成長を望んでいる。しかし、クロエに危険なマネをさせるのは……。オレは一人で板挟みになりながらも、クロエの意思を優先することにした。
まだ低レベルのダンジョンだから、なんとかなるだろうという安易な考えもあった。問題の先延ばしとも言う。
できれば、オレが心配しなくなるほどクロエの技術が上達することが一番いいのだが……。まだまだ時間がかかりそうだな。
いつもはオレたちの姿を見つけると、ホッとしたような表情を見せるクロエが、今回は難しい表情を浮かべたままだった。
なにか問題でもあったのか?
オレは、手に握るヘヴィークロスボウを強く握りしめていた。
「クロエ、まずは報告だ。なにがあった?」
「うん……。叔父さん、ボスがおかしいの。真っ黒なの」
「真っ黒?」
オレはクロエの言葉に一つの可能性を導き出していた。まさか……。
「それって……」
「なになに? ベルベル知ってるのー?」
「なにか、よくないことなのでしょうか?」
「んー……?」
どうやら、イザベルにも思い当たる節があるようだ。相変わらず、イザベルの知識の深さには驚かされる。
まずは、イザベルの導き出した答えを聞いてみよう。
「イザベル、分かるか?」
イザベルは腕を組んで、右手を俯き気味の顎に当てた思案顔で答える。
「おそらくだけど……。色違い……かしら? いえ、でも……」
「色違い?」
「それってなにー?」
イザベルの出した答えに聞き覚えが無かったのか、クロエとジゼルが疑問の声を上げた。まぁ、珍しい現象だからな。クロエたちが知らなくても無理はない。
「たぶん正解だ、イザベル。オレも色違いが出たんだと思う」
「ッ!」
オレがイザベルの言葉を肯定すると、イザベルは弾かれたように顔を見上げ、目を見開いてみせた。自分で答えを出しながらも、半信半疑だったのだろう。オレが肯定したことに驚いたようだ。
「その、お二人とも、色違いとは何なのでしょう? 浅学なわたくしに教えてはいただけませんか?」
「んっ……」
エレオノールとリディもオレを見上げて説明をせがんでくる。
「いいか? 色違いってのは、そのまんま普通とは違う色をしたモンスターのことだ。気を付けなくちゃならねぇのは、色違いのモンスターは、通常よりもはるかに強いとこだな。だいたい2レベルくらいは違うと言われている。相手はレベル3のダンジョンのボスだから、今回はレベル5ダンジョンのボスくらいの強さってとこだな」
「それって……」
「ひえー……マジ……?」
「そんな危険な存在が……」
「こわ、い……」
クロエをはじめ、ジゼルも、エレオノールも、普段は表情の動かないリディさえも、怯えたような顔を浮かべていた。
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