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017 イザベル
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オレたちは東門から王都の中に戻ってきていた。東門前の広場は、所狭しと屋台や露店が並び、人も馬車も大いに行き交っている。むあっと熱気すら感じるほど賑わっていた。
「ここじゃなんだ。ちょっと奥に入るぞ」
オレは、周囲の人の声に負けないように大声でクロエたちに言う。クロエたちが頷くのを確認すると、オレたちは騒音を避けるように大通りから小道に入っていった。
辿り着いたのは、井戸のある広場みたいな所だった。井戸の周りには、近所の奥様方がペチャクチャ世間話をしながら洗い物やら洗濯に精を出しているのが見える。朝食も終わって、朝の仕事前のお片付けってとこかな。
ここなら、声が掻き消されることもないだろう。
「で、だ」
オレは、柄にもなく緊張していた。オレにとって、若い女の子ってのは理解が難しい生き物だ。なにが原因で嫌われるか分かったもんじゃない。どういう態度で接するのが正解か、まったく分からない。
4人の少女たちの視線を真っ向から受け止める。ふむ。見たところ嫌悪の情を浮かべている奴はいないようだが……さて、これからどうなるか……。
「えっと、改めて紹介するわね。こっちが、あたしの叔父さんのアベル叔父さん。で、こっちがあたしたちのパーティ『五花の夢』のメンバーよ」
クロエがクルリとオレの方を向いて、腕を広げてみせる。まるで大事な宝物を紹介するような、誇らしさがその笑顔から見て取れた。いい笑顔だな。このクロエの笑顔が曇ることのないように。オレはそう願わずにはいられなかった。
「……クロエから聞いてるかもしれねぇが、オレがクロエの叔父のアベルだ。“さん”付けなんて変に畏まったりせずにアベルって呼んでくれ」
オレは、少し考えたがいつも通りの調子でいくことにした。変に猫かぶっても、いつかボロが出るだろうからな。一緒に命の危険があるダンジョンに潜ることになるんだ。格好つけてる余裕なんて無い。
「よろしくお願いしますねぇ。アベル」
「よろしくね、アベるん!」
既に自己紹介を済ませたエレオノールと、笑顔を浮かべてジゼルがオレに手を振る。オレは、軽く手を上げて二人に応えた。
「改めて、私はイザベルよ。貴方があの“育て屋”アベルね。よろしくお願いするわ」
「ほぅ」
どうやらイザベルはオレのことを知っていたらしい。オレの二つ名まで知っているのだから、他にもいろいろと知っているのだろう。
尻を隠すほどある黒いロングヘアー。丁寧に梳かしたのだろう。その長い黒髪は真っすぐと伸び、ツヤツヤに輝いている。同色の綺麗に整えられた眉の下には、不思議な双眸があった。
「精霊眼か……」
「ッ!?」
オレの呟きに、イザベルが驚いたようにビクリと大袈裟に反応する。その大きく見開かれた黒い瞳は、まるで油膜を張ったように虹色に輝いて見えた。
【精霊眼】とは、本来、人の目には映らないはずの精霊の姿が、その瞳に映るようになる特別なギフトの名だ。
極稀にエルフやドワーフなど、精霊と共に暮らす種族に与えられるギフトのはずだが……。なんの間違いか、人間のイザベルにも与えられたようだ。もしかしたら、歴史上初めてのことかもしれない。
ん? イザベルは人間だよな? もしかすると、ハーフという可能性もあるか?
一度イザベルを頭のてっぺんから足のつま先までよくよく観察する。
キラリと輝く輪を浮かべる黒髪の下にあるのは、エルフと見間違うばかりの端正に整った顔立ち。耳は尖ってないが……エルフとのハーフか? しかし……胸を見ると、薄汚れた布地がエレオノール程ではないが大きく膨らんでいるのが分かる。
エルフの女は、貧乳と呼ぶより無乳と呼んだ方が正しいほど胸が無い。ハーフエルフでもその特徴は変わらず、純血のエルフよりはあるが、よく発育してやっと貧乳と呼べる程度だ。これほど大きな胸のハーフエルフは見たことが無い。
となると、ハーフドワーフか? しかし、イザベルの身長は人間の女の平均くらいある。ハーフドワーフでは無理があるほどイザベルの身長は高い。ボロの靴を見る限り、盛ってるわけじゃなさそうだ。
となると、やっぱりハーフエルフだろうか? しかし、それだと胸の大きさが矛盾する。
じゃあ人間かとなると、歴史上初めての【精霊眼】のギフトを賜った人間ということになるが……そんな人間に出会うなんてどんな確率だよ。まだ胸が異常発達したハーフエルフという可能性の方が高いだろう。その可能性も随分と低いが……。
その時、オレの脳裏でなにかが繋がったような感じがした。まさか、盛ってるんじゃないだろうな……?
イザベルの大きな胸さえなければ、ハーフエルフということで納得できるんだ。もし、その胸が偽装されたものだとしたら?
エルフの胸はまったく無い。無乳だ。実はハーフエルフであるイザベルも、胸の小ささに劣等感を抱いていたのでは?
そして、その劣等感が爆発し、胸を巨乳に偽装しているとしたらどうだ?
ありえるな……。
少なくとも、歴史上初めての人間や胸が異常発達したエルフに出会う確率より余程高い。
これしかないな。
オレは確信を込めてイザベルに問う。
「その胸は詰め物だな?」
「助けてもらった身でこういうことはあまり言いたくないけど……人のことジロジロと見ておいて、開口一番それってどうなのかしら?」
イザベルが憤怒も生ぬるいとばかりにオレを怖い顔で睨んでいた。
「ここじゃなんだ。ちょっと奥に入るぞ」
オレは、周囲の人の声に負けないように大声でクロエたちに言う。クロエたちが頷くのを確認すると、オレたちは騒音を避けるように大通りから小道に入っていった。
辿り着いたのは、井戸のある広場みたいな所だった。井戸の周りには、近所の奥様方がペチャクチャ世間話をしながら洗い物やら洗濯に精を出しているのが見える。朝食も終わって、朝の仕事前のお片付けってとこかな。
ここなら、声が掻き消されることもないだろう。
「で、だ」
オレは、柄にもなく緊張していた。オレにとって、若い女の子ってのは理解が難しい生き物だ。なにが原因で嫌われるか分かったもんじゃない。どういう態度で接するのが正解か、まったく分からない。
4人の少女たちの視線を真っ向から受け止める。ふむ。見たところ嫌悪の情を浮かべている奴はいないようだが……さて、これからどうなるか……。
「えっと、改めて紹介するわね。こっちが、あたしの叔父さんのアベル叔父さん。で、こっちがあたしたちのパーティ『五花の夢』のメンバーよ」
クロエがクルリとオレの方を向いて、腕を広げてみせる。まるで大事な宝物を紹介するような、誇らしさがその笑顔から見て取れた。いい笑顔だな。このクロエの笑顔が曇ることのないように。オレはそう願わずにはいられなかった。
「……クロエから聞いてるかもしれねぇが、オレがクロエの叔父のアベルだ。“さん”付けなんて変に畏まったりせずにアベルって呼んでくれ」
オレは、少し考えたがいつも通りの調子でいくことにした。変に猫かぶっても、いつかボロが出るだろうからな。一緒に命の危険があるダンジョンに潜ることになるんだ。格好つけてる余裕なんて無い。
「よろしくお願いしますねぇ。アベル」
「よろしくね、アベるん!」
既に自己紹介を済ませたエレオノールと、笑顔を浮かべてジゼルがオレに手を振る。オレは、軽く手を上げて二人に応えた。
「改めて、私はイザベルよ。貴方があの“育て屋”アベルね。よろしくお願いするわ」
「ほぅ」
どうやらイザベルはオレのことを知っていたらしい。オレの二つ名まで知っているのだから、他にもいろいろと知っているのだろう。
尻を隠すほどある黒いロングヘアー。丁寧に梳かしたのだろう。その長い黒髪は真っすぐと伸び、ツヤツヤに輝いている。同色の綺麗に整えられた眉の下には、不思議な双眸があった。
「精霊眼か……」
「ッ!?」
オレの呟きに、イザベルが驚いたようにビクリと大袈裟に反応する。その大きく見開かれた黒い瞳は、まるで油膜を張ったように虹色に輝いて見えた。
【精霊眼】とは、本来、人の目には映らないはずの精霊の姿が、その瞳に映るようになる特別なギフトの名だ。
極稀にエルフやドワーフなど、精霊と共に暮らす種族に与えられるギフトのはずだが……。なんの間違いか、人間のイザベルにも与えられたようだ。もしかしたら、歴史上初めてのことかもしれない。
ん? イザベルは人間だよな? もしかすると、ハーフという可能性もあるか?
一度イザベルを頭のてっぺんから足のつま先までよくよく観察する。
キラリと輝く輪を浮かべる黒髪の下にあるのは、エルフと見間違うばかりの端正に整った顔立ち。耳は尖ってないが……エルフとのハーフか? しかし……胸を見ると、薄汚れた布地がエレオノール程ではないが大きく膨らんでいるのが分かる。
エルフの女は、貧乳と呼ぶより無乳と呼んだ方が正しいほど胸が無い。ハーフエルフでもその特徴は変わらず、純血のエルフよりはあるが、よく発育してやっと貧乳と呼べる程度だ。これほど大きな胸のハーフエルフは見たことが無い。
となると、ハーフドワーフか? しかし、イザベルの身長は人間の女の平均くらいある。ハーフドワーフでは無理があるほどイザベルの身長は高い。ボロの靴を見る限り、盛ってるわけじゃなさそうだ。
となると、やっぱりハーフエルフだろうか? しかし、それだと胸の大きさが矛盾する。
じゃあ人間かとなると、歴史上初めての【精霊眼】のギフトを賜った人間ということになるが……そんな人間に出会うなんてどんな確率だよ。まだ胸が異常発達したハーフエルフという可能性の方が高いだろう。その可能性も随分と低いが……。
その時、オレの脳裏でなにかが繋がったような感じがした。まさか、盛ってるんじゃないだろうな……?
イザベルの大きな胸さえなければ、ハーフエルフということで納得できるんだ。もし、その胸が偽装されたものだとしたら?
エルフの胸はまったく無い。無乳だ。実はハーフエルフであるイザベルも、胸の小ささに劣等感を抱いていたのでは?
そして、その劣等感が爆発し、胸を巨乳に偽装しているとしたらどうだ?
ありえるな……。
少なくとも、歴史上初めての人間や胸が異常発達したエルフに出会う確率より余程高い。
これしかないな。
オレは確信を込めてイザベルに問う。
「その胸は詰め物だな?」
「助けてもらった身でこういうことはあまり言いたくないけど……人のことジロジロと見ておいて、開口一番それってどうなのかしら?」
イザベルが憤怒も生ぬるいとばかりにオレを怖い顔で睨んでいた。
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