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001 足りないもの
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「アレクサン、お前このパーティ抜けろ」
…え?
それはダンジョン50階層のボスである『笑う狂気』を討伐した後の出来事だった。
街に戻り、パーティの拠点である家に帰り、盛大に祝い、ぶっ倒れるまで飲んだその後。オレはパーティリーダーであるゲオルギアにミーティング室へ呼び出された。
ミーティング室には他の仲間も勢ぞろいだ。
パーティの最大火力。攻撃魔法も弱体魔法もお手の物。パーティの知恵袋でもある魔法使いのヘンリー・カザルド。
元騎士という異色の経歴。罠の発見や弓も得意な凄腕の盗賊。グレゴリオ・ニットウェイ。
以上二人に、聖騎士のオレと大剣使いのゲオルギアを入れた4人が、冒険者パーティ『蒼天』のフルメンバーだ。
男ばかりのむさ苦しいパーティだが、異性混合のパーティはよく恋愛沙汰で揉めるらしいからね、仕方ないね。
ヘンリーとグレゴリオの二人は、ゲオルギアの寝言を聞いても、何とも言えない顔で沈黙を守っている。
え?なんで?どうして?Why?どうして何も言ってくれないのよ?
「えっと、何だ?よく分かんねぇな……。何だこれ?皆酔ってるのか?それともドッキリか何かか?」
リーダーのゲオルギアはよく突拍子も無い事を言い出す。だけど、今回のは冗談にしてはあまりに質が悪い。
「そんなわけねぇだろ!」
両の拳をテーブルに叩きつけ、ゲオルギアが吠える。とても冗談や演技には見えない。え?マジなの?
「アレク、お前は良い奴だし、オレから見ても十分強ぇ、あの<不落城塞>エルロバートにも負けてねぇと思ってる!」
ゲオルギアが今度はオレをべた褒めする。でも<不落城塞>に匹敵するってのは言い過ぎだ。相手は特一級冒険者、この街のトップである。漸く3級に上がったばっかりのオレじゃ手が届かない。今はまだ…な。
「そいつはありが…」
「でも……!」
ゲオルギアがオレのお礼を遮って話す。急にゲオルギアの顔が曇った。
「…オレは気が付いちまったんだ。アレク…お前には何かが足りない。オレにも何かは分からねぇ、でも足りねぇんだ」
ゲオルギアがよく分からないことを言い出した。やっぱり酔ってるんじゃないか?
「だからな、アレク。お前このパーティ抜けろよ」
「いやいやいや!そこが分かんねぇよ。え?何でだ?何でそういう話になる?オレ達やっと50階層を攻略できたんだぜ?漸く上級冒険者の仲間入りだ。これからって時にどうして?」
「こんな時だからだ。お前も<余者>ホフマンの話は知ってるだろ?アレだ」
<余者>ホフマンってアレか?パーティをクビにされたホフマンが奮起して一級冒険者になったっていう……。でもあの話は、ホフマンの才能を見抜けなかったパーティの落ち度を皮肉る話だ。
パーティをクビにされたホフマンは、自分の才能を正しく理解してくれる仲間に出会えて、遂には一級冒険者に登り詰めた。
一方、ホフマンの才能を見抜けなかったパーティの評価は散々だ。ホフマンを手放したことをバカにされ、遂にはパーティを解散してしまった。噂では冒険者を辞めてしまったとかなんとか。
この話から得られる教訓は、人を見る目を養いましょうってところか?その話がどうしたんだ?
「どうして今ホフマンの話が出てくるんだよ?」
「ホフマンはパーティを追い出されて奮起したんだ。そしてその才能を開花させた」
ホフマンには元々才能があったらしいけど、まぁそういう見方もできるかもしれない。
「お前も同じだ。お前の才能はこんなもんじゃないハズだ。奮起しろ、アレク!その才能を開花させるんだ!」
ゲオルギアの目を見て分かった。ゲオルギアは本気だ。本気で言っている。ゲオルギアはオレの才能を認めているんだ。そしてオレにはまだ先があると言っている。ゲオルギアほどの人物にここまで言われると素直に嬉しくなる。頑張ろうってそう思える。
「だからアレク、お前はクビだ」
「いや、そこが分かんねぇよ。お前がオレを信じて発破をかけてくれるのは嬉しいけどよ。なにもクビはないんじゃないか?」
ゲオルギアの話は分かったけど、話が飛び過ぎだろ。なにもクビにしなくても良いじゃん?
「分かんねぇか?追放だ。パーティの追放がホフマンを強くしたんだ。だからアレク、お前も追放する」
いやそんな、追放されれば誰もが強くなるなんて事は無いんだぞ?お前頭大丈夫か?
「……私は、賛成だ」
「はぁ!?」
今まで沈黙を守っていたグレゴリオが、いきなりゲオルギアに賛成する。背中を撃たれた気分だ。
「リーダーの言う事にも一理ある。私は前々からアレクサンの剣には誇りが無いと思っていたのだ」
確かに前に言われたことがある。グレゴリオは元騎士だったからか、盗賊のクセに誇りだとかよく分からないものを信仰している。オレにまで同じ信仰を強要されても正直困るぞ?
「僕としては、アレクに抜けられるのは困るな。ただでさえ、ウチは少数精鋭だからね。これ以上の戦力低下は看過できない。だけど、リーダーの意思は固いようだ。どうしたものか……」
良かった。反対意見はあるんだ。オレはヘンリーに必要とされて嬉しかった。
しかし、ヘンリーが迷う理由も分かる。パーティリーダーであるゲオルギアは、時々突拍子も無い事を言うが、その常識に囚われない自由な発想に、何度も命を救われてきたのだ。今回のこれも、酔っ払いの寝言と切り捨てて良いものかどうか……。
「とにかく!アレクはクビだ!リーダーであるオレの決定だ!」
ゲオルギアが何度もテーブルを叩きながら吠える。
「悔しいだろ?アレク。その悔しさをバネにしろ!奮起しろ!アレク。そしてオレ達を見返して見せろ!オレは期待してるぜ、またお前と冒険できるのをよ」
そう言ってゲオルギアが部屋を出ていく。あの野郎、言うだけ言いやがって行っちまいやがった。
「え?オレ、マジでクビなの?」
こうしてオレは、パーティから追い出された。いや、これって追い出されたって言うのか?
…え?
それはダンジョン50階層のボスである『笑う狂気』を討伐した後の出来事だった。
街に戻り、パーティの拠点である家に帰り、盛大に祝い、ぶっ倒れるまで飲んだその後。オレはパーティリーダーであるゲオルギアにミーティング室へ呼び出された。
ミーティング室には他の仲間も勢ぞろいだ。
パーティの最大火力。攻撃魔法も弱体魔法もお手の物。パーティの知恵袋でもある魔法使いのヘンリー・カザルド。
元騎士という異色の経歴。罠の発見や弓も得意な凄腕の盗賊。グレゴリオ・ニットウェイ。
以上二人に、聖騎士のオレと大剣使いのゲオルギアを入れた4人が、冒険者パーティ『蒼天』のフルメンバーだ。
男ばかりのむさ苦しいパーティだが、異性混合のパーティはよく恋愛沙汰で揉めるらしいからね、仕方ないね。
ヘンリーとグレゴリオの二人は、ゲオルギアの寝言を聞いても、何とも言えない顔で沈黙を守っている。
え?なんで?どうして?Why?どうして何も言ってくれないのよ?
「えっと、何だ?よく分かんねぇな……。何だこれ?皆酔ってるのか?それともドッキリか何かか?」
リーダーのゲオルギアはよく突拍子も無い事を言い出す。だけど、今回のは冗談にしてはあまりに質が悪い。
「そんなわけねぇだろ!」
両の拳をテーブルに叩きつけ、ゲオルギアが吠える。とても冗談や演技には見えない。え?マジなの?
「アレク、お前は良い奴だし、オレから見ても十分強ぇ、あの<不落城塞>エルロバートにも負けてねぇと思ってる!」
ゲオルギアが今度はオレをべた褒めする。でも<不落城塞>に匹敵するってのは言い過ぎだ。相手は特一級冒険者、この街のトップである。漸く3級に上がったばっかりのオレじゃ手が届かない。今はまだ…な。
「そいつはありが…」
「でも……!」
ゲオルギアがオレのお礼を遮って話す。急にゲオルギアの顔が曇った。
「…オレは気が付いちまったんだ。アレク…お前には何かが足りない。オレにも何かは分からねぇ、でも足りねぇんだ」
ゲオルギアがよく分からないことを言い出した。やっぱり酔ってるんじゃないか?
「だからな、アレク。お前このパーティ抜けろよ」
「いやいやいや!そこが分かんねぇよ。え?何でだ?何でそういう話になる?オレ達やっと50階層を攻略できたんだぜ?漸く上級冒険者の仲間入りだ。これからって時にどうして?」
「こんな時だからだ。お前も<余者>ホフマンの話は知ってるだろ?アレだ」
<余者>ホフマンってアレか?パーティをクビにされたホフマンが奮起して一級冒険者になったっていう……。でもあの話は、ホフマンの才能を見抜けなかったパーティの落ち度を皮肉る話だ。
パーティをクビにされたホフマンは、自分の才能を正しく理解してくれる仲間に出会えて、遂には一級冒険者に登り詰めた。
一方、ホフマンの才能を見抜けなかったパーティの評価は散々だ。ホフマンを手放したことをバカにされ、遂にはパーティを解散してしまった。噂では冒険者を辞めてしまったとかなんとか。
この話から得られる教訓は、人を見る目を養いましょうってところか?その話がどうしたんだ?
「どうして今ホフマンの話が出てくるんだよ?」
「ホフマンはパーティを追い出されて奮起したんだ。そしてその才能を開花させた」
ホフマンには元々才能があったらしいけど、まぁそういう見方もできるかもしれない。
「お前も同じだ。お前の才能はこんなもんじゃないハズだ。奮起しろ、アレク!その才能を開花させるんだ!」
ゲオルギアの目を見て分かった。ゲオルギアは本気だ。本気で言っている。ゲオルギアはオレの才能を認めているんだ。そしてオレにはまだ先があると言っている。ゲオルギアほどの人物にここまで言われると素直に嬉しくなる。頑張ろうってそう思える。
「だからアレク、お前はクビだ」
「いや、そこが分かんねぇよ。お前がオレを信じて発破をかけてくれるのは嬉しいけどよ。なにもクビはないんじゃないか?」
ゲオルギアの話は分かったけど、話が飛び過ぎだろ。なにもクビにしなくても良いじゃん?
「分かんねぇか?追放だ。パーティの追放がホフマンを強くしたんだ。だからアレク、お前も追放する」
いやそんな、追放されれば誰もが強くなるなんて事は無いんだぞ?お前頭大丈夫か?
「……私は、賛成だ」
「はぁ!?」
今まで沈黙を守っていたグレゴリオが、いきなりゲオルギアに賛成する。背中を撃たれた気分だ。
「リーダーの言う事にも一理ある。私は前々からアレクサンの剣には誇りが無いと思っていたのだ」
確かに前に言われたことがある。グレゴリオは元騎士だったからか、盗賊のクセに誇りだとかよく分からないものを信仰している。オレにまで同じ信仰を強要されても正直困るぞ?
「僕としては、アレクに抜けられるのは困るな。ただでさえ、ウチは少数精鋭だからね。これ以上の戦力低下は看過できない。だけど、リーダーの意思は固いようだ。どうしたものか……」
良かった。反対意見はあるんだ。オレはヘンリーに必要とされて嬉しかった。
しかし、ヘンリーが迷う理由も分かる。パーティリーダーであるゲオルギアは、時々突拍子も無い事を言うが、その常識に囚われない自由な発想に、何度も命を救われてきたのだ。今回のこれも、酔っ払いの寝言と切り捨てて良いものかどうか……。
「とにかく!アレクはクビだ!リーダーであるオレの決定だ!」
ゲオルギアが何度もテーブルを叩きながら吠える。
「悔しいだろ?アレク。その悔しさをバネにしろ!奮起しろ!アレク。そしてオレ達を見返して見せろ!オレは期待してるぜ、またお前と冒険できるのをよ」
そう言ってゲオルギアが部屋を出ていく。あの野郎、言うだけ言いやがって行っちまいやがった。
「え?オレ、マジでクビなの?」
こうしてオレは、パーティから追い出された。いや、これって追い出されたって言うのか?
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