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第二章
073 リビングアーマー②
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時は少し戻る。
「反転攻勢! ハルトたちは右を!」
ブォンッ!
僕の宣言と同時に響いた音がある。空気を切り裂く野太く重い音。へヴィークロスボウの音だ。
マルギットの撃ったへヴィークロスボウのボルトは、ガキュリ! と音を立てて左のリビングアーマーの胸を穿つ。ボルトはリビングアーマーの胸の赤い宝石を僅かに右に逸れ、鎧に穴を開ける。ただのクロスボウが、レベル7ダンジョンのモンスターの装甲を貫いたのだ。その一事を持って、このへヴィークロスボウの並外れた威力が分かると思う。敵に回すと厄介だけど、味方となるととても頼もしい。
「これ! おねがい!」
惜しくもリビングアーマーのコアを外したマルギットが、僕に撃ち終わったへヴィークロスボウを寄こすと、別のへヴィークロスボウを手に取り構えた。残すへヴィークロスボウは3つ。あと3回は射撃のチャンスがある。できれば、その3発で決めてほしい。リビングアーマーの装甲を貫けたということは、威力は十分のはずだ。
「了解!」
僕はマルギットから渡されたへヴィークロスボウを受け取ると、戦況を見つめながら、へヴィークロスボウに備え付けの巻き上げ機を回して弦を引いていく。僕は今回パーティリーダーを任されている。戦闘の指示を出さないといけないけど、僕に細かな指示なんて出せない。僕に出せるのなんて“攻撃開始”の合図くらいだ。細かなところは各々の判断に任せている。
戦闘において、僕にできることはもうほとんど無い。固いへヴィークロスボウの巻き上げ機を回しながら、それでも前を向いて戦況の推移を見守る。なぜか。それは、“撤退”の合図を出すのも僕だからだ。
『融けない六花』は強い。極大の戦力である【勇者】を3人も擁しているのだから、その戦力は冒険者の中でもトップクラスだろう。並みのダンジョンなら、事前情報など無くても、その戦力でゴリ押して攻略できてしまえるほどだ。
しかし、今回挑むのはレベル7ダンジョン『万魔の巨城』。『融けない六華』にとって、初めての高レベルダンジョンだ。しかも、レベル5、レベル6のダンジョンをすっ飛ばしての挑戦。正直、正気の沙汰じゃない。『融けない六華』のメンバーが、【勇者】の力に振り回されているだけならば、攻略は難しいだろう。
『融けない六華』は、今年の秋に成人を迎えたメンバーで作られたばかりの未だ幼い雛鳥のようなパーティだ。百何年と代を重ねて受け継がれてきた老舗パーティのような蓄えも無ければ、培った経験や知識も無い。まだまだ未熟なパーティと云える。その不足した部分を補うのが今回の僕の役目だ。
『融けない六花』の実力が通用しないなら、ダンジョンの攻略も諦める。それを決定するだけの権限を僕は預けられていた。
「ツヴァイン! ぶちまけなさい!」
イザベルの指示が飛び、リビングアーマーへと大量の水が襲いかかる。リビングアーマーは、大質量の水がぶつかり、その衝撃に動きを止めた。
「アインス! ドライア! 放ちなさい! フォイアボルト!」
続けざまにイザベルが契約している精霊に指示を出し、リビングアーマーに向けられたその指先から雷のように焔が走る。焔は赤い宝石を掠め、リビングアーマーの右胸に命中した。ゴウッと白い煙を立てて、リビングアーマーの体が激しく燃え上がる。
【エレメンタラー】であるイザベルの十八番“フォイアボルト”だ。一度命中すれば体が雷に痺れ、燃え上がり、身動きも取れず息絶える。かなり殺傷能力の高い精霊魔法である。
しかし、リビングアーマーは動きを鈍らせることなく漆黒の大剣を振りかぶった。リビングアーマーは中身の無い動く鎧だ。雷に痺れることもなければ、炎に怯むこともない。
リビングアーマーがその大剣を振りかぶると同時に、勢いよく燃え上がっていたフォイアボルトの炎がかき消える。本来ならフォイアボルトの効果時間はまだあるはず。リビングアーマーが、イザベルの精霊魔法を“レジスト”したのだ。
ブォンッ!
左隣からまた重々しい空気を切り裂く音が聞こえる。マルギットの操るへヴィークロスボウの発射音だ。高速で射出されたボルトは、金属同士が削れ合う不快な甲高い音を響かせて、リビングアーマーの右胸を穿つ。
普通なら致命傷ものだけど、今回は相手が悪い。リビングアーマーは痛みも感じている様子もなければ怯みもしなかった。振り上げた漆黒の大剣を横薙ぎに振るう。その狙いはリリーだ。このままではリリーが……!
「あんたの相手はあたしよッ!」
今にもリリーに襲いかからんと横薙ぎに振るわれた大剣が、突如としてその軌道を真上へと変えた。ルイーゼだ。ルイーゼが左手のバックラーでリビングアーマーの大剣を真上に弾いたのだ。
リビングアーマーは大きく体勢を崩し、その弱点である胴のコアをさらけ出す。
「フォイアボルト!」
ブォンッ!
その好機を見逃す2人ではなかった。イザベルの精霊魔法と、マルギットの撃ったボルトがリビングアーマーのコア目掛けて襲いかかる。
「やったか?」
僕はリビングアーマーの討伐を半ば以上確信した。後ろに仰け反るように大きく体勢を崩したリビングアーマーに、2人の攻撃を避けきれるとは思えなかったのだ。
「反転攻勢! ハルトたちは右を!」
ブォンッ!
僕の宣言と同時に響いた音がある。空気を切り裂く野太く重い音。へヴィークロスボウの音だ。
マルギットの撃ったへヴィークロスボウのボルトは、ガキュリ! と音を立てて左のリビングアーマーの胸を穿つ。ボルトはリビングアーマーの胸の赤い宝石を僅かに右に逸れ、鎧に穴を開ける。ただのクロスボウが、レベル7ダンジョンのモンスターの装甲を貫いたのだ。その一事を持って、このへヴィークロスボウの並外れた威力が分かると思う。敵に回すと厄介だけど、味方となるととても頼もしい。
「これ! おねがい!」
惜しくもリビングアーマーのコアを外したマルギットが、僕に撃ち終わったへヴィークロスボウを寄こすと、別のへヴィークロスボウを手に取り構えた。残すへヴィークロスボウは3つ。あと3回は射撃のチャンスがある。できれば、その3発で決めてほしい。リビングアーマーの装甲を貫けたということは、威力は十分のはずだ。
「了解!」
僕はマルギットから渡されたへヴィークロスボウを受け取ると、戦況を見つめながら、へヴィークロスボウに備え付けの巻き上げ機を回して弦を引いていく。僕は今回パーティリーダーを任されている。戦闘の指示を出さないといけないけど、僕に細かな指示なんて出せない。僕に出せるのなんて“攻撃開始”の合図くらいだ。細かなところは各々の判断に任せている。
戦闘において、僕にできることはもうほとんど無い。固いへヴィークロスボウの巻き上げ機を回しながら、それでも前を向いて戦況の推移を見守る。なぜか。それは、“撤退”の合図を出すのも僕だからだ。
『融けない六花』は強い。極大の戦力である【勇者】を3人も擁しているのだから、その戦力は冒険者の中でもトップクラスだろう。並みのダンジョンなら、事前情報など無くても、その戦力でゴリ押して攻略できてしまえるほどだ。
しかし、今回挑むのはレベル7ダンジョン『万魔の巨城』。『融けない六華』にとって、初めての高レベルダンジョンだ。しかも、レベル5、レベル6のダンジョンをすっ飛ばしての挑戦。正直、正気の沙汰じゃない。『融けない六華』のメンバーが、【勇者】の力に振り回されているだけならば、攻略は難しいだろう。
『融けない六華』は、今年の秋に成人を迎えたメンバーで作られたばかりの未だ幼い雛鳥のようなパーティだ。百何年と代を重ねて受け継がれてきた老舗パーティのような蓄えも無ければ、培った経験や知識も無い。まだまだ未熟なパーティと云える。その不足した部分を補うのが今回の僕の役目だ。
『融けない六花』の実力が通用しないなら、ダンジョンの攻略も諦める。それを決定するだけの権限を僕は預けられていた。
「ツヴァイン! ぶちまけなさい!」
イザベルの指示が飛び、リビングアーマーへと大量の水が襲いかかる。リビングアーマーは、大質量の水がぶつかり、その衝撃に動きを止めた。
「アインス! ドライア! 放ちなさい! フォイアボルト!」
続けざまにイザベルが契約している精霊に指示を出し、リビングアーマーに向けられたその指先から雷のように焔が走る。焔は赤い宝石を掠め、リビングアーマーの右胸に命中した。ゴウッと白い煙を立てて、リビングアーマーの体が激しく燃え上がる。
【エレメンタラー】であるイザベルの十八番“フォイアボルト”だ。一度命中すれば体が雷に痺れ、燃え上がり、身動きも取れず息絶える。かなり殺傷能力の高い精霊魔法である。
しかし、リビングアーマーは動きを鈍らせることなく漆黒の大剣を振りかぶった。リビングアーマーは中身の無い動く鎧だ。雷に痺れることもなければ、炎に怯むこともない。
リビングアーマーがその大剣を振りかぶると同時に、勢いよく燃え上がっていたフォイアボルトの炎がかき消える。本来ならフォイアボルトの効果時間はまだあるはず。リビングアーマーが、イザベルの精霊魔法を“レジスト”したのだ。
ブォンッ!
左隣からまた重々しい空気を切り裂く音が聞こえる。マルギットの操るへヴィークロスボウの発射音だ。高速で射出されたボルトは、金属同士が削れ合う不快な甲高い音を響かせて、リビングアーマーの右胸を穿つ。
普通なら致命傷ものだけど、今回は相手が悪い。リビングアーマーは痛みも感じている様子もなければ怯みもしなかった。振り上げた漆黒の大剣を横薙ぎに振るう。その狙いはリリーだ。このままではリリーが……!
「あんたの相手はあたしよッ!」
今にもリリーに襲いかからんと横薙ぎに振るわれた大剣が、突如としてその軌道を真上へと変えた。ルイーゼだ。ルイーゼが左手のバックラーでリビングアーマーの大剣を真上に弾いたのだ。
リビングアーマーは大きく体勢を崩し、その弱点である胴のコアをさらけ出す。
「フォイアボルト!」
ブォンッ!
その好機を見逃す2人ではなかった。イザベルの精霊魔法と、マルギットの撃ったボルトがリビングアーマーのコア目掛けて襲いかかる。
「やったか?」
僕はリビングアーマーの討伐を半ば以上確信した。後ろに仰け反るように大きく体勢を崩したリビングアーマーに、2人の攻撃を避けきれるとは思えなかったのだ。
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