愛して欲しいと言えたなら

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霧の中のささやき

霧の中のささやき・・・その4

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「ふふっ、きっと今の愛奈ちゃんには理解するのが難しいかもしれないわね」

「そうなんですか?」

「ええ・・・。でも、そういう私もどう説明したらいいのか分からないし。ただ、もし今の私に、それを口にする許しがあるのだとしたなら、きっと、今の私に言える言葉はこれしかないのかもしれないわね。誰かの想いを守りたくて愛そうとする愛は、その人が誰かに愛されたいと願う想いを封印してしまうのかもしれない。とはいっても、私自身、この歳になって何となくその意味が分かるようになってきたのかもしれないけどね」

愛奈は裕子の言う言葉に、自分の知らない大人の世界の広さと奥深さを垣間見たように感じでいた。

「う~ん・・・やっぱり、今の私には難しいかもしれないです」

「ふふっ・・・。そんなに落ちくむことはないわよ。愛奈ちゃんならきっと分かる時が来るから」

「そうかな?でも、やっぱり夏樹さんの言った二人の秘密の意味が、裕子さんになら分かるような気がしました」

「二人の秘密の意味?」

「はい。夏樹さんって意味のない事は言わないんじゃないかなって?思うんです」

確かに、愛奈ちゃんが言うように、夏樹さんって昔から意味のない事は言わない人だけど・・・
でも、それが今の愛奈ちゃんには分かるって、正直、ちょっと驚いちゃうわ。
やっぱり、雪子の遺伝子を色濃く受け継いでいるって事なのかしら?
そういえば、雪子もそうだったわね。
誰かれの価値観や物差しではなく、自分自身の価値観や物差しで物事を見ていたものね。

「それで、夏樹さんとの二人の秘密っていうのは、どんな秘密なの?」

「それがですね、夏樹さんはもう一軒、お家を手に入れなければならないって」

「もう一軒・・・?」

「はい。それでですね。お家というよりアトリエって言ってました」

「アトリエ・・・?今のお店以外に、もう一軒アトリエを?」

「はい。そう言っていました」

「でも、どうしてなのかしら?今ある、あのお店だけじゃダメなのかしら?」

「夏樹さんが言うには、最後のピースがそろわないからって」

「最後のピース・・・?」

「それで、これは、お母さんも知らないって言ってました」

「雪子も知らない・・・?」

「はい、そう言っていました」

「そう・・・」

「それでですね、問題はその後なんですけど・・・」

「その後・・・?まだ、何かあるの?」

「はい。実はここまでは、ふむふむって聞いていたんですけどね。その後の言葉が私としてはちょっと驚いたって言いますか、近づけたと思っていた夏樹さんっていう人が、やっぱり、私の手の届かない人なんだな~っていうか、お母さんってすごいな~ていうか・・・夏樹さんとお母さんの間には誰も入れないっていうか・・・どう言ったらいいのかちょっと分からないっていうか・・・」

「ふふっ。その後に続く夏樹さんの言葉って、愛奈ちゃんがそう考えてしまう程の言葉だったの?」

「はい。でも、なぜか嬉しいっていうか、そんでもって、その嬉しさが表現出来ないような嬉しさだったりとか・・・」

「表現できないような嬉しさ・・・?」

「はい。ちょっと変かもしれないんですけど、そうだったんですよ」

なんか愛奈ちゃんの言葉って支離滅裂みたいな感じがするけど
でも、愛奈ちゃん程の子がそんな風に感じてしまう言葉って、いったい・・・。

「それで、夏樹さんはその後にどんな言葉を続けたの?」

「はい。それがですね、もう一軒欲しいっていうアトリエなんですけどね、そのアトリエの名前はもう決まってるのよって。もち、女言葉で」

「名前が、もう決まってる・・・?」

「はい、そうなんです」

「でも、アトリエって言うくらいだから、名前があっても不思議じゃないんじゃない?」

「はい。でも、実はその、夏樹さんが付けようとしている名前がちょっと・・・なんです」

「名前が・・・?それで、夏樹さんは何ていう名前を付けようとしてるの?」

「はい。夏樹さんが付けようしているアトリエの名前は「奈津美のアトリエ」っていう名前って」

「奈津美のアトリエ・・・?」

「はい。でね、名前の漢字まで決まってるみたいなんです。しかも、ずっと前から決めてたみたいなんです」

「名前の漢字・・・?もしかして、愛奈ちゃん、愛里ちゃんの他にもう一人考えていたのかしら?」

「いえ・・・問題はその後なんです」

「えっ?まだ続きがあるの?」

「はい・・・。それで、その「奈津美」っていう名前は、お母さんが付けたかった名前なのよって」

「雪子が・・・?」

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