愛して欲しいと言えたなら

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あなたの声が好き

あなたの声が好き・・・その19

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「でも、お母さんって、本当にそんなにも変わっちゃうんですか?」

「ふふっ、お母さんに限らず、女性ってね、好きな男性でいくらでも変わるものなのよ」

「いいですか、裕子さん?」

「な~に・・・?」

「それって、あんまりにも旦那さんが可哀そうにならないですか?」

「旦那さんって、うちの?」

「はい、そうですよ!」

「あら?愛奈ちゃんは、どうして、そんな風に思うの?」

「だって、前に夏樹さんに会いに行った時に・・・ですよ?」

「ふふっ、でもね、それはどうしようもないのよ。私が何をどうしようがどうにもならないの」

「う~ん・・・」

「ふふふっ・・・。今は分からなくても、きっと愛奈ちゃんにも分かる時が来るわ」

「う~ん・・・そういうもんなのかな?私としては、いつか分かるなら、今、分かりたいと思っちゃいます」

「ふふっ・・・。過ぎていく季節と時間の中でしか知る事が出来ない感情もあるのよ」

「しかし、やっぱり不思議ですよね?」

「不思議って・・・?」

「裕子さんって大人だし、優しいし、今みたいに上手に表現だって出来ちゃうし。お母さんとは大違いだと思うんですよね?」

「でもね、それだけなのよ?それだけの事なの・・・」

裕子は呟くように言葉をコーヒーの香りに乗せながら、街の景色が映る大きな窓ガラスに視線を移す。

「ほらっ!また!」

「ん・・・?」

「今の裕子さんの仕草って男性じゃなくてもドキッとしちゃいますよ?」

「ふふっ・・・。愛奈ちゃんは、どうしても、お母さんの魅力を知りたいみたいね?」

「夏樹さんを知っちゃったら、尚更、知りたくなってしまうんですよね」

「あの人と、どんな話をしたの?」

「えっ・・・?」・・・愛奈は裕子の話す声に、また、ドキッとしてしまった。

今の裕子さんの話す声、ありふれた言葉なのに、その話し方っていうのかな?やっぱり、全然違う。

「愛奈ちゃん、今の自分が魅力がない女性に思えてしまっているんじゃない?」

「えっ・・・?」

「だから知りたいんでしょ?なぜ、夏樹さんが雪子を選んだのかを?違うかしら?」

「そうなのかな?自分ではよく分からないですけど・・・」

「愛奈ちゃんは、自分はお母さんには敵わない。でも、それが分からない?違う?」

「それはなぜ?とは訊かないんですね?」

「なぜ?は標的が見えているけけど、何も見えない深い霧の中にポツンと一人迷い込んでしまうとね、全ての方向感覚が分からなくなってしまう・・・。今の愛奈ちゃんはそんな感じなんじゃない?」

「たぶん・・・そうかもしれません。でも、どうして、それが分かっちゃうんですか?」

「その何かは違っても、私も、今の愛奈ちゃんと同じだったから」

「今の私と同じ・・・?あの、それって、もしかして・・・」

「前に話した事があったでしょ?あの人が私を選ばなかったって?」

「はい・・・。あの・・・もしかして、その、あの人って?」

「そう・・・夏樹さんよ・・・」

「えええ===っ?いえ、あの、へっ?それってもしかして三角関係とかって?」

「ふふっ・・・。私は三角関係にも入れてもらえなかったわ」

「へっ・・・?」

「雪子には敵わない・・・でも、それが分からなかったの。なぜ敵わないのかじゃなくて、何が敵わないのかがね・・・。」

「なぜ?ではなくて、何が・・・?」

「そう・・・私のどこが?ではなく、何が?だったの・・・」

「あっ、あの・・・それで、今は分かるんですか?その、何がというのが?」

「そうね・・・今は・・・それが正解かもしれないわね」

「あの・・・それって・・・?」

「それが分かったのは、つい最近なの・・・」

「つい最近・・・ですか?」

「意外でしょ?」

「はい・・・」

「今まで分からなかったその何かが、分かるきっかけになったのが、去年の大晦日なの」

「去年の大晦日・・・?あっ、あの、それって?」

「そう・・・雪子が夏樹さんに会いに行った日・・・」

「もしかして、その日に何かあったんですか?」

「ううん・・・。何もなかったわ」

「何もなかった?それじゃ、どうして何もなかったのに分かるきっかけになったんですか?」

「ふふっ・・・。何もなかったから・・・。夏樹さんと雪子、そのふたりの34年の空白を責める罪が、そこには何もなかったから。・・・」

そう呟く裕子の声は、寂しくもなく悲しくもなく、何かを諦めたわけでもなく・・・
きっと、裕子にしか分からない、あの日、分からなかった何かを懐かしむように消えていく。
少し俯き加減にコーヒーを一口飲むと、音もなく姿を見せるように裕子は言葉を声に乗せてみる。

「もしかして夏樹さん、こう言ってたんじゃない?雪子は今、何処にいるのか。知ってるって?」

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