愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
378 / 386
あなたの声が好き

あなたの声が好き・・・その17

しおりを挟む
直美が夏樹の言葉にうっとり?の時空に浮いている間に、夏樹は冴子の祖母に、直美を送っていくのに冴子と一緒に行って来る事を伝えて戻って来ると、冴子はクマのぬいぐるみと少しのお菓子といつもの絵本を持って夏樹の座っていた椅子にちょこんと座って待っていた。

「冴ちゃん、おばあちゃんに伝えてきたから大丈夫よ!」

「はいです!」

「途中に動物園があるから寄ってみようね!」

「クマさんもいるですか?」

「おっきなクマさんはいないと思うけどツキノワグマさんはいるわよ」

夏樹と冴子の会話を聞いていると、直美はやはりどこか寂しく感じてしまうのである。
冴子と話をしている夏樹はとても優しく、そして、とても幸せそうに見えてしまうから
その姿に京子と幼かった頃の亜晃や省吾と過ごしたはずの夏樹の面影を探してしまう。
まだ夏樹と京子が夫婦だった頃が遠い昔に終わりを告げた出来事なのだと分かってはいても・・・

まだ幼い冴子の人生の中に、優しさを抱きしめながら新しい記憶を刻みこもうとする夏樹。
夏樹の記憶の中に刻まれている夏樹と生きていた自分の記憶を消そうとしている京子。
夏樹と京子、二人はいつから歩く人生の道が違っていたのだろうか?

「ほら、行くわよ!」

ひとり妄想の中で溺れかけている直美の瞳の中に優しい笑みで入り込んでくる夏樹である。

直美が夏樹と冴子に送られて帰ってきたその夜、愛奈は裕子といつものレストランに来ていた。
夕方遅くになるのだが、愛奈が夏樹に連絡をしてみた時の会話の内容が内容だったので
とにかく急いで裕子に話しておかなければと思い、裕子に連絡をしてみたのである。

「でも、愛奈ちゃん、いつも夏樹さんと連絡を取り合ってるの?」

「いえ、そんな普通に電話が出来るようなお相手ではないですよ!」

「あら?どうして?」

「またまたまた~裕子さんったら・・・」

「ん・・・?」

「裕子さん・・・?」

「な~に?」

「今から夏樹さんに連絡してみます?」

「夏樹さんに・・・?」

「はい!裕子さんの方から・・・」

「えっ・・・?私?えっ?いえ・・・それはちょっと、というか、別にっていうか・・・」

「へへへっ・・・。ほ~ら、裕子さんだって」

「ん、もう~。愛奈ちゃんったら・・・」

裕子はテーブルに運ばれてきたコーヒーに軽く唇で触れながら笑みを浮かべてみる。

「でも、どうして愛奈ちゃんまで?私っていうのなら分かるけど」

「夏樹さんに・・・ですか?」

「そう・・・」

「でも、ちょっと、今でも信じられないですね!」

「信じられないって?何が信じられないの?お母さん?それとも夏樹さん?」

「違いますよ・・・。今、私の目の前で美味しそうにコーヒーを飲んでいる美人さんですよ」

「美人さんだなんて~ふふっ。ってか、えっ・・・?私・・・?」

「はい・・・そうですよ!」

「そうですよって・・・私の何が信じられないの?」

「またまた~・・・」

「ん・・・?」

「夏樹さんですよ!な・つ・き・さん!」

「へっ・・・?」

「まさか、裕子さんが夏樹さんと・・・だったなんて・・・」

愛奈の突然の奇襲に驚く事もなく、優しい笑みを浮かべながら視線を宙に浮かべている。
まるで、視線だけを過去にタイムスリップでもしているように懐かしんでいる裕子である。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

元妻

Rollman
恋愛
元妻との画像が見つかり、そして元妻とまた出会うことに。

処理中です...