愛して欲しいと言えたなら

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あなたの声が好き

あなたの声が好き・・・その8

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「そう言えば、あたし、前に言ったわよね?あたしにとって京子はあたしの全てだったって?」

「あっ、はい・・・」

「それから、これも言ったわよね?あたしがそんな適当な女と結婚するわけないでしょ?って」

「ええ・・・確かに・・・」

「今度、京子に会った時に、この二つの言葉を京子に言ってあげなさい」

「あっ、はい。・・・でも・・・あの・・・」

続きの言葉を口にしようとする直美の少しのためらいを流すように夏樹が言葉を口にする。

「京子とは会わないわよ・・・」

「でも・・・それじゃ、京子は・・・」

「京子が、どうかしたの?」

あっ、やっぱり・・・間違っていないわ。
夏樹さんの口調が変わってる・・・前の夏樹さんだったら、違う言葉で切り返してきたはず。

「あの、実は、前に京子に言った事があるんです」

「京子に・・・?」

「はい。京子は夏樹さんとちゃんと(さよなら)をしたの?って・・・」

「ふふっ・・・。京子は答えなかったでしょ?」

「あっ、はい。というか、どうして分かるんですか?あっ、ではなくて、あの、どうして・・・」

「そう思うの?って・・・訊きたいの?」

う~ん・・・そこを、(かしら)を付けないで、あえて(の)で止める夏樹さんが怖いぞな。

「ええ・・・まあ・・・う~ん・・・」

「ふふっ・・・」

いえ・・・あの・・・ふふっ、って、微笑まれましても答えになっていないような・・・
不思議な声で手を繋いでいるような笑みを浮かべて遊ばせながら夏樹はコーヒーを口にする。

「あの・・・」

「その質問に答えられるのはあたしだけなの。あたしだけにしか答えられないのよ」

「えっ?・・・でも・・・あの・・・」

「ふふっ・・・。きっと、京子には届いているはずよ。」

「いえ、あのですね・・・。私にはさっぱりというか、何ていうか・・です。はい!」

「京子と最後に交わした視線よ!」

「へっ・・・?」

「京子ってね、他に人に対してはね、きっちりとした態度を取ったり望んだりするんだけどね。あたしの前では借りてきた猫みたいになっちゃうの・・・・知ってた?」

「へっ?マジですか?・・・というか、知りませんでした。ホントなんですか?」

「普段はけっこう強気な態度を取るくせにさ、そういう大事な場面になるとね、モジモジしちゃったりウジウジしちゃうのよね!京子ってさ・・・ふふっ」

「う~ん・・・信じられないというか、私の知らない京子がもう一人いるみたいかも?」

「その答えは、あんたが京子に渡したヒコーキの飾り物・・・」

「えっ?ヒコーキのって、あの、動物園での?・・・ですか?」

「そうよ。あの時、ヒコーキの飾り物を手にした時の京子ってどうだったかしら?」

そういえば・・・あの時・・・確か、京子・・・?

「さよならの言葉がなければ前に進めない事を知っていても、それを聞けないくらい臆病な子。それが京子なのよ・・・」

信じられない・・・夏樹の言葉を聞いても、今の直美には、そんな言葉しか思い浮かばない・・・。
京子とは、長い付き合いだったし、私も、京子を親友だと思っていたけど・・・でも

私の知らない京子・・・。私には見えない京子・・・。私の知らない世界で生きていた京子。
まるで、もう一人の京子が夏樹さんの居る世界にだけ存在しているみたいに思えてしまう。

確かに、人には、友達や親友の前とは違う、恋人の前だけで見せる姿があるのは分かるけど。
でも、それとは違うっていうか・・・何ていうか・・・。正直、怖いって思ってしまう。

あれほど、夏樹さんの悪口を言って、あんなにも夏樹さんを憎んで恨んで忌み嫌って・・・
それなのに、それとはまったく違う、別の考え方をしていた別の京子がいたとでもいうのかしら?
ちょっと信じられないけど、私の知らない別人格のもう一人の京子が存在していたって事なの?

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