愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
365 / 386
あなたの声が好き

あなたの声が好き・・・その4

しおりを挟む
ちょっとお洒落な木目模様のトレーにコーヒーカップを2セット乗せてカウンターの方へ歩いていく夏樹の後ろ姿を眺めていた直美は、妙に不思議な納得の中でうっとりした視線で眺めている。

さっきは緊張してて気がつかなかったけど、今日の夏樹さん、セミロングのスカートだったんだわ。
あまり横に広がらないタイプのフレアスカートみたいだけど、しかし・・・しかしである。
黒いスカートから見える足首から流れるようにのぼる生足ってどう見ても女性の生足よね?
しかも、色っぽいっていうか、艶めかしいっていうか。いやらしいっていうか・・・ん?

カウンターの中へ入ってコーヒーを作りながら、冴子とクマのぬいぐるみ?と、
楽しそうに話をしている夏樹の周りに広がる優しい空間を見ている直美が無意識に呟いてしまう。

夏樹さんたちがいるあの空間には、もう、今の京子たちが入る場所はないのかもしれない・・・。
そして、もうすぐ、あの中へ雪子さんが入っていく・・・いえ、きっと、雪子さんしか入れない。

まもなくして夏樹が新しく入れたコーヒーをトレーに乗せて戻ってきた。

「どうしたの?ぼんやりしちゃって?」

「いえ、そんなことはないですけど・・・。う~ん・・・ダメですね。やっぱり」

「京子たちが哀れに思えてしまうんでしょ?」

「そう言ってしまったら身も蓋もないんですけど・・・。でも、やっぱり・・・」

「それもこれも京子たちが選んだのよ?冷たい言い方かもしれないけどね」

「確かに冷たい言い方だと思います。はい。です。・・・でも・・・」

「でも?な~に?・・・そんなあたしも哀れに見えてきちゃう?」

「いえ、あの、それは・・・」・・・(たち)を入れなかった。

夏樹さんは、(たち)を入れないで(あたしも)と言った・・・。

「あたしの知っている京子を全て知ってしまった今のあんたには、あたしも京子と同じように見えてしまうんでしょ?」

「・・・正直、どうして?って、思ってしまいます」

「どうして、こうなってしまったの?・・・かしら?」

「ええ・・・。そんな言葉しか思い浮かばないんです・・・やっぱり」

「だから言ったでしょ?あたしが京子の人生を台無しにしてしまったって。」

「でも・・・それは・・・」

「それは?な~に?京子にも非があるって思うの?」

「ええ・・・。だって、夏樹さんとお付き合いしたのだって、結婚したのだって、その全部を夏樹さんが強制的に強要したわけではないんだし、京子が自分で考えて自分で決めた事だと思うんです」

「だから、痛み分けって言いたいのかしら?」

夏樹さんの話し方が変わった?
私の勘違いかもしれないけど、いつもの夏樹さんの話し方とは違うような気がする。

「ふふっ・・・。別に変っていないわよ?」

だ~か~ら~・・・どうして分かるんですか?

「あたしの話し方が変わったんじゃなくて、もう、あんたに隠す必要がなくなっただけ」

「私に隠す・・・?京子の・・・?」

「そうよ・・・。だから、タネが見えないマジックのような話し方をする必要がなくなったの」

「やっぱり、私が感じた事は間違っていないんですね?」

「きっとね!今のあんたの顔を見てればよく分かるわ」

「1秒の・・・」

「ん・・・?」

「これが・・・1秒の境界線・・・なんですね」

「あら?よく知ってたわね?その言葉」

「ええ・・・京子が前に言っていたので・・・」

「そう・・・京子が・・・」

あれ?やっぱり、そうだわ!・・・。夏樹さんは変わっていないっていうけど・・・
以前の夏樹さんだったら、こんな風には返してこなかったはずだけど・・・う~ん。

「あははっ!う~んって。あんたって本当に面白いのね。」

「ん、もう~・・・そういう問題ではないですよ」

直美は自分では気がついていないみたいではあるが、夏樹の視線に映る直美は、幼な子がおやつの配分で納得が出来ないぞ?みたいに映ってしまうみたいで、どうしても笑みがこぼれてしまうのである。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

夫は平然と、不倫を公言致しました。

松茸
恋愛
最愛の人はもういない。 厳しい父の命令で、公爵令嬢の私に次の夫があてがわれた。 しかし彼は不倫を公言して……

処理中です...