愛して欲しいと言えたなら

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あなたの声が好き

あなたの声が好き・・・その4

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ちょっとお洒落な木目模様のトレーにコーヒーカップを2セット乗せてカウンターの方へ歩いていく夏樹の後ろ姿を眺めていた直美は、妙に不思議な納得の中でうっとりした視線で眺めている。

さっきは緊張してて気がつかなかったけど、今日の夏樹さん、セミロングのスカートだったんだわ。
あまり横に広がらないタイプのフレアスカートみたいだけど、しかし・・・しかしである。
黒いスカートから見える足首から流れるようにのぼる生足ってどう見ても女性の生足よね?
しかも、色っぽいっていうか、艶めかしいっていうか。いやらしいっていうか・・・ん?

カウンターの中へ入ってコーヒーを作りながら、冴子とクマのぬいぐるみ?と、
楽しそうに話をしている夏樹の周りに広がる優しい空間を見ている直美が無意識に呟いてしまう。

夏樹さんたちがいるあの空間には、もう、今の京子たちが入る場所はないのかもしれない・・・。
そして、もうすぐ、あの中へ雪子さんが入っていく・・・いえ、きっと、雪子さんしか入れない。

まもなくして夏樹が新しく入れたコーヒーをトレーに乗せて戻ってきた。

「どうしたの?ぼんやりしちゃって?」

「いえ、そんなことはないですけど・・・。う~ん・・・ダメですね。やっぱり」

「京子たちが哀れに思えてしまうんでしょ?」

「そう言ってしまったら身も蓋もないんですけど・・・。でも、やっぱり・・・」

「それもこれも京子たちが選んだのよ?冷たい言い方かもしれないけどね」

「確かに冷たい言い方だと思います。はい。です。・・・でも・・・」

「でも?な~に?・・・そんなあたしも哀れに見えてきちゃう?」

「いえ、あの、それは・・・」・・・(たち)を入れなかった。

夏樹さんは、(たち)を入れないで(あたしも)と言った・・・。

「あたしの知っている京子を全て知ってしまった今のあんたには、あたしも京子と同じように見えてしまうんでしょ?」

「・・・正直、どうして?って、思ってしまいます」

「どうして、こうなってしまったの?・・・かしら?」

「ええ・・・。そんな言葉しか思い浮かばないんです・・・やっぱり」

「だから言ったでしょ?あたしが京子の人生を台無しにしてしまったって。」

「でも・・・それは・・・」

「それは?な~に?京子にも非があるって思うの?」

「ええ・・・。だって、夏樹さんとお付き合いしたのだって、結婚したのだって、その全部を夏樹さんが強制的に強要したわけではないんだし、京子が自分で考えて自分で決めた事だと思うんです」

「だから、痛み分けって言いたいのかしら?」

夏樹さんの話し方が変わった?
私の勘違いかもしれないけど、いつもの夏樹さんの話し方とは違うような気がする。

「ふふっ・・・。別に変っていないわよ?」

だ~か~ら~・・・どうして分かるんですか?

「あたしの話し方が変わったんじゃなくて、もう、あんたに隠す必要がなくなっただけ」

「私に隠す・・・?京子の・・・?」

「そうよ・・・。だから、タネが見えないマジックのような話し方をする必要がなくなったの」

「やっぱり、私が感じた事は間違っていないんですね?」

「きっとね!今のあんたの顔を見てればよく分かるわ」

「1秒の・・・」

「ん・・・?」

「これが・・・1秒の境界線・・・なんですね」

「あら?よく知ってたわね?その言葉」

「ええ・・・京子が前に言っていたので・・・」

「そう・・・京子が・・・」

あれ?やっぱり、そうだわ!・・・。夏樹さんは変わっていないっていうけど・・・
以前の夏樹さんだったら、こんな風には返してこなかったはずだけど・・・う~ん。

「あははっ!う~んって。あんたって本当に面白いのね。」

「ん、もう~・・・そういう問題ではないですよ」

直美は自分では気がついていないみたいではあるが、夏樹の視線に映る直美は、幼な子がおやつの配分で納得が出来ないぞ?みたいに映ってしまうみたいで、どうしても笑みがこぼれてしまうのである。

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