愛して欲しいと言えたなら

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あなたの声が好き

あなたの声が好き・・・その2

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「京子が不憫・・・?」

「ええ・・・やっぱり、そう思ってしまいます」

「変な言い方だけど、そういうところって、やっぱり京子なのよね」

「そういうところって言いますのは?」

「可哀そう・・・。京子って、そういう風に思われやすいのよ」

「ちょっと、夏樹さん?そういう言い方って・・・」

「あんまりかしら?」

「んもう~・・・分かってて、あえて言うんですから、それってちょっとですよ?」

「だけど・・・裕子は違ったの・・・」

「えっ・・・?」

「裕子ってね、誰からも同情されないの・・・」

「誰からも?・・・裕子さんが?」

夏樹の言葉に、反射的に言葉を口にした直美だったが、ふいに夏樹の視線と交差する瞬間、
触れてはいけない何かに触れてしまったと感じた直美の脳裏には、忘れていたはずの記憶と、
戻るはずなどあり得ない後悔の疑念が、突然、視界を奪っていくのを感じた。

夏樹さんが言葉にした、愛せない感情・・・。
そして、拒絶さえ許さない、非情に刻まれていくだけの人生の記憶・・・。

「それは、裕子さんの人生の刻まれてしまった夏樹さんという、裕子さんにとってはただ一人の特別な存在が、裕子さんの心を傷つけていくのを見つめ続けていかなければならない雪子さんを守りたかったから・・・。いえ、その苦しみから雪子さんを助けてあげたかったから・・・?」

どこか無気力で虚ろな瞳を、諦めとは違う寂しさの中で遊ばせていく夏樹が呟くように言葉を使う。

「裕子の人生に刻まれていくあたしの裏切りの記憶・・・。そして、裕子の心の寂しさを傷つけ続けていく雪子の略奪と背徳の記憶。」

返す言葉が見つからない直美は、夏樹の次の言葉の中に何かの答えを見つけたかった。

「あたしと雪子って、しょっちゅうケンカしてたって言ったでしょ?」

「あっ・・・はい・・・」

「最初のうちは、猫が戯れ合うみたいに雪子があたしに絡んで遊んでいたの」

「戯れ合うみたいに・・・?」

「だけど、それは長くは続かなかったわ。次第にお互いがお互いを傷つけあうようになっていったの」

「どうしてですか・・・?どうして、傷つけあうようになってしまうんですか?」

「雪子を守りたかったわ。死ぬほど守りたかったの・・・。でも、あの頃のあたしにはその術が分からなかったの。だから、気がつくとね、いつも雪子を傷つけてばかり。そうしながら雪子の心の中を覗いていたのよ。」

「雪子さんの心の中を?」

「そう・・・。いつか雪子の姿が見えなくなる日が来るのかもしれない。いつか雪子に捨てられるんじゃないかってね。雪子が裕子への背徳の罪に傷ついていくのが分かっていたのに、それでも雪子を失いたくなかったの。雪子を守りたいのに、守りたくて守りたくて仕方がなかったはずなのに、それなのに気がついたら、会う度に雪子の心を傷つけている自分が居るの。そして、そんな日々を繰り返していくうちに、いったい自分が何をしたいのかさえ分からなくなっていったのよ・・・」

「夏樹さんが・・・ですか?ちょっと信じられないっていうか・・・」

「ふふっ・・・あたしだって若い頃はどこにでもいる、ただの夢見るおバカだったのよ」

「夏樹さんが、夢見るおバカ?」・・・直美が不思議な笑みで変に納得しているようである。

しかし、そんな直美でも、京子に対してのこれからの自分に何が待っているのか?
それが分からない程、鈍感でもなければ軽薄な性格でもない。
これから直美に待ち受けるであろう一秒の境界線の重大さは、夏樹が話す内容がそれを伝えている。

普通なら、誰にも話すなどありえない夏樹と雪子の別れまでの心模様と、語られるはずがない真相
ただ、夏樹と雪子の別れの真相が、京子のこれからに、どう繋がっていくのか?
今の直美には、まだ、その先が見えていない・・・。
ただ、京子への漠然とした不安と、夏樹の直美への信頼度が直美自身を拘束し始めていくのである。

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