愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
357 / 386
愛せない感情

愛せない感情・・・その17

しおりを挟む
「でも、その事が、どうして夏樹さんを憎む事になるんですか?」

「昔ね、ちょっとそういう話題になってね。その時に京子がね、もし目が見えなくなったりしたらどうしよう?ってね。その時にね、あたしが言ったの。もし、お前の目が見えなくなったら、お前が死ぬまでの間、ずっと、お前の目になってやるからって」

あっ・・・これだったんだわ・・・。今、やっと分かった気がする。
今まで、ずっと分からなかったっていうか、どこかがしっくりこないっていうか、何かが足りないっていうか・・・京子が夏樹さんを憎むにしても、何か他の人とは違うような気がずっとしていたのよね。

確かに、京子には実家という存在があって、京子が頼ろうとするのなら実家のお母さんもお兄さんもお兄さんのお嫁さんも、きっと京子の力になってくれると思う。
それに、京子の親戚の人たちだって同じように京子の事を気にかけてくれるんだと思う。

でも・・・そんなレベルの話ではない。
目が見えなくなるという状況って、そんな次元の話ではないような気がする。

人の死だって、そうだと思う。
もし、その人に愛する人がいるとしたら、自分の最後、死に向かうその時間の全てを愛する人にそばにいて欲しい、意識がなくなるその瞬間まで愛する人の手のぬくもりを感じていたい。
そして、その存在は、たとへ親兄弟でも愛する人の代わりにはなれないと思うし、
親兄弟に限らず、仕事仲間、幼いころからの友人、そして、たとへ親友と呼べる相手でも、
その人の愛する人の存在には、到底及ばないんじゃないかしら?

京子にとって、その存在が夏樹さんだったのだとしたら・・・。
京子にとっては臆病な自分を見せる事が出来る人、そして不安への苛立ちを受け止めてくれる人
たとへ、もし目が見えなくなったとしても、ずっと自分のそばに居てくれるこの世でただ一人の人

もしかしたら、この先の自分の未来にあるかもしれない言いようのない不安と恐怖から
京子を守ってくれるはずの唯一の存在・・・それが夏樹さんだったとしたら・・・。

確か、以前に夏樹さんとお話をした時に夏樹さんとの会話の中にこんな言葉があったんだけど
「子供たちは、あたしじゃないのよ・・・」・・・今、初めて、その言葉の意味が分かったわ。

だから、夏樹さんは何度も言っていたんだわ・・・。
今の京子のままだったら、いつか子供たちにも離れて行かれてしまうって・・・
私も気にはなっていたんだけど・・・妙に子供たちが京子から離れていくような話が多いなって。

夏樹さんは、京子から子供たちが離れて行ってほしくなかったんだわ!
でも、亜晃君や省吾君は夏樹さんじゃない・・・子供たちの性格は夏樹さんとは違う・・・

「答えが見つからなくなっちゃったかしら?」

「えっ・・・?」

「人の秘密は蜜の味・・・。でも、それを知ってしまった時、その先に待っているのは、ほくそ笑む薄笑いか?それとも・・・歪んでいく涙が見せる迷子になった感情・・・かしらね?」

夏樹の話す言葉に、無意識の感情と消えていく未来だけが、直美の頬を伝って流れ落ちていく・・・。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...