愛して欲しいと言えたなら

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愛せない感情

愛せない感情・・・その17

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「でも、その事が、どうして夏樹さんを憎む事になるんですか?」

「昔ね、ちょっとそういう話題になってね。その時に京子がね、もし目が見えなくなったりしたらどうしよう?ってね。その時にね、あたしが言ったの。もし、お前の目が見えなくなったら、お前が死ぬまでの間、ずっと、お前の目になってやるからって」

あっ・・・これだったんだわ・・・。今、やっと分かった気がする。
今まで、ずっと分からなかったっていうか、どこかがしっくりこないっていうか、何かが足りないっていうか・・・京子が夏樹さんを憎むにしても、何か他の人とは違うような気がずっとしていたのよね。

確かに、京子には実家という存在があって、京子が頼ろうとするのなら実家のお母さんもお兄さんもお兄さんのお嫁さんも、きっと京子の力になってくれると思う。
それに、京子の親戚の人たちだって同じように京子の事を気にかけてくれるんだと思う。

でも・・・そんなレベルの話ではない。
目が見えなくなるという状況って、そんな次元の話ではないような気がする。

人の死だって、そうだと思う。
もし、その人に愛する人がいるとしたら、自分の最後、死に向かうその時間の全てを愛する人にそばにいて欲しい、意識がなくなるその瞬間まで愛する人の手のぬくもりを感じていたい。
そして、その存在は、たとへ親兄弟でも愛する人の代わりにはなれないと思うし、
親兄弟に限らず、仕事仲間、幼いころからの友人、そして、たとへ親友と呼べる相手でも、
その人の愛する人の存在には、到底及ばないんじゃないかしら?

京子にとって、その存在が夏樹さんだったのだとしたら・・・。
京子にとっては臆病な自分を見せる事が出来る人、そして不安への苛立ちを受け止めてくれる人
たとへ、もし目が見えなくなったとしても、ずっと自分のそばに居てくれるこの世でただ一人の人

もしかしたら、この先の自分の未来にあるかもしれない言いようのない不安と恐怖から
京子を守ってくれるはずの唯一の存在・・・それが夏樹さんだったとしたら・・・。

確か、以前に夏樹さんとお話をした時に夏樹さんとの会話の中にこんな言葉があったんだけど
「子供たちは、あたしじゃないのよ・・・」・・・今、初めて、その言葉の意味が分かったわ。

だから、夏樹さんは何度も言っていたんだわ・・・。
今の京子のままだったら、いつか子供たちにも離れて行かれてしまうって・・・
私も気にはなっていたんだけど・・・妙に子供たちが京子から離れていくような話が多いなって。

夏樹さんは、京子から子供たちが離れて行ってほしくなかったんだわ!
でも、亜晃君や省吾君は夏樹さんじゃない・・・子供たちの性格は夏樹さんとは違う・・・

「答えが見つからなくなっちゃったかしら?」

「えっ・・・?」

「人の秘密は蜜の味・・・。でも、それを知ってしまった時、その先に待っているのは、ほくそ笑む薄笑いか?それとも・・・歪んでいく涙が見せる迷子になった感情・・・かしらね?」

夏樹の話す言葉に、無意識の感情と消えていく未来だけが、直美の頬を伝って流れ落ちていく・・・。

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