愛して欲しいと言えたなら

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愛せない感情

愛せない感情・・・その14

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「だから、京子にとっては、あたしとの何十年という長い年月が、まるで死神の鎌でそのままそっくり奪い取られたようなものなのよ」

それが夏樹さんが言っていた、京子にとって許せない時間であり、消す事の出来ない夏樹さんとの年月。そして、同時に、その時間があまりに長すぎるから余計に京子自身を苦しめてしまう。

「京子にとってのあたしとの39年が、雪子が持つ僅か1年足らずのあたしとの時間に全てを奪われしまう。その現実が、京子にはどうしても許せないの・・・きっと、今でもね」

京子が許せないのは時間・・・39年という長い年月。
確かに言われみればそうかもしれない、京子にとって39年というのは京子の人生の半分以上、いえ7割以上にもなるんだわ。
それほどにも長い、夏樹さんとの時間が、言い方は悪いけど、たったの僅か11か月半足らずの夏樹さんと雪子さんとの時間に勝てなかった。

そして、また・・・雪子さんは、夏樹さんの隣の席に・・・。
京子と争うわけでもなく、京子の隙を見て京子から奪い取るわけでもない。
川の流れのように冬から春へと季節が移り替わるように、まるで、その席が雪子さんを待っていたかのように、望む望まぬの問いかけもないままに、自然に夏樹さんと雪子さんの時間が動き出している。

でも、それじゃ、京子が夏樹さんの悪口を言いふらしていたのはどうなるの?

「あの・・・それじゃ京子が夏樹さんの悪口を言っていたのって?」

「ああ、それ?そんなに難しい話じゃないのよ。ただ単に雪子が怖かったからじゃないかしら?」

「雪子さんが怖かったから?」

「京子があたしの悪口を言っていた理由はいくらでもあると思うわよ。でも、そのいくつもの理由は全て雪子への恐怖から来てるんじゃないかしら?」

「でも、それだったら夏樹さんの悪口を言う方が余計に雪子さんの反感を買ってしまうんじゃ?」

「人は知らず知らずに自分を守る方を選んじゃうものなのよ」

「自分を守る方・・・それで京子は自分が被害者だとみんなに思って欲しかったんでしょうか?」

「まあ、理由なんてあとからいくらでも貼り付いてくるから。でもさ、京子が雪子に対して恐怖を感じてしまっていると考えると、京子の一連の言葉や行動が全て繋がっていくでしょ?」

確かに、夏樹さんの言う通りなのかもしれない。
夏樹さんが、京子に隠れて沢山の借金をしていた事もそう。
その事に関して、京子に何も相談してくれなかった事もそう。
そして、夏樹さんに心変わりをされてしまった事もそう。

京子の心の中には、いつも雪子さんがいたから。だから、何かの度にいつも考えてしまう。
もし、雪子さんなら・・・?もし、夏樹さんが結婚した相手が雪子さんだったなら・・・?
きっと、京子は、いつもそんな風に考えてしまっていたのかもしれない。

「ほら、前に言ったでしょ?いつかのレストランでさ」

「あっ、もしかして、夏樹さんと雪子さんが抱き合っていたっていうあれですか?」

「そうよ。あたしと雪子が抱き合ってる姿を京子も目撃すればよかったのにって」

「でも、それは京子にとっては、ちょっと刺激的すぎるというか・・・」

「京子はね、見えない魔物に怯えているの。だから、その見えない魔物を見ちゃえば、今までずっと抱いていた恐怖なんてすぐに何処かへ飛んでいっちゃうのよ」

「いやぁ~、それはちょっと何とも・・・」

「でも、これでみんな分かったでしょ?」

「みんなというより、私の知らない京子がというか、人の心の闇ってほんとにあるんだなって思いました」

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