愛して欲しいと言えたなら

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愛せない感情

愛せない感情・・・その13

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夏樹は何本目かの煙草に火をつけながら言葉を続ける。

「あたしに嫌われたくないから雪子を悪く言えない。あたしに嫌われたくないから、あたしの前では、居るはずのない雪子に・・・あたしの中に存在しているだけの雪子にさえ気遣いをしてしまう。京子自身が雪子の存在を勝手に大きく作り変えてしまう、そして、その虚像はいつしか京子自身を攻撃するようになっていったの」

「京子の中で雪子さんが・・・」

「だから京子は、いつしか、日々の生活の中にボーダーラインを引くようになっていったのよ」

「ボーダーライン?」

「あんたが口にする生活に対しての口癖と、京子の口癖の違いは分かるでしょ?」

「あっ、はい。確か前に教えられたような・・・」

「もともと京子は贅沢とかを望むような子じゃなかったのよ。あたしと一緒に居られるだけで満足してるような子だったの」

「それじゃ、お盆やお正月とかに夏樹さんを連れて挨拶回りとかっていうのは?」

「その噂が雪子に届くように・・・かしらね」

「それじゃ、京子が借金とかに対して異常な拒絶反応っていうのは?」

「それも同じ、あたしとの生活の中で借金とかがある事が雪子に知れたら?」

「中古住宅、中古住宅ってよく言ってたのは、もし新築の住宅だったなら購入する時の借り入れ金もある意味、自慢の種になるけど、それが中古の住宅を借り入れ借金での購入では・・・」

「そう、そんなのが、もし噂でも雪子の耳に入ったりしたら?」

「格好悪い・・・なんとなく言われてみれば、そうかも・・・です」

「だから、京子は、あたしの家族だけじゃなく、友人さえもあたしから遠ざけていったの」

「雪子さんに、夏樹さんの噂が届かないように・・・ですか」

「そうよ。だから、あたしと離婚した時に、あたしの悪口三昧で、京子自身が簡単にアリ地獄に落ちていったのよ」

「京子自身、いつの間にかそんな小細工が当たり前になっていたから・・・」

「今の京子を作った全ては、あたしの隣の席を雪子から奪った瞬間から始まったの」

「奪ったって・・・」

「京子はそう思っているんじゃないかしら?」

「ちょうど雪子さんが席を離れた時を見計らって京子がその席に着いた・・・だから京子はずっと雪子さんの存在が怖かった。いつ雪子さんが戻って来るかも分からないから。いえ、いつ京子が夏樹さんにその席を取られるかもしれないと思うから、だから夏樹さんの中にいる雪子さんに、あれほど気遣いをしていたんですね。」

「まあ、そんな感じかしらね」

「だから京子は、夏樹さんから色んな人たちを遠ざけるような行為をして、ここは自分の席なのだと、いるはずもない雪子さんに、その噂が届くように夏樹さんを連れ回していた・・・」

「なぜ、今の京子にとって、子供たちが我慢ならない存在なのかも、これで分かったかしら?」

「京子が子供たちを見る度に、今度は、そこに居るはずもない雪子さんの影を探してしまうんですね」

「そうなの。どうしても思い出してしまうの、雪子になくて京子にはあるものとしてね」

それなのに、夏樹さんの隣の席が、また、雪子さんの席になろうとしている。
だから京子はあんなに何度も何度も言っていたんだわ。私の存在っていったいなんだったのって。
夏樹の言葉の中で明かされていく、京子の心模様の儚さを直美は初めて知るのだった。

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