愛して欲しいと言えたなら

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愛せない感情

愛せない感情・・・その12

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「それなのに、今の京子にとって子供たちは我慢ならない存在になってしまっているの」

呟き加減で言葉を口にした夏樹が、少しだけ、寂しそうな視線で窓の方を見つめる。
そんな夏樹の言葉よりも、その視線の先に何を見ているのかが直美には気になってしまう。

「我慢ならない存在って・・・そんな」

「それが、いまの京子なの」

「でも、我慢ならないって、言い換えれば、京子にとって、子供たちが邪魔な存在って事になるんじゃないですか?」

「ちょっと違うわね」

「へっ・・・?」

「あははっ、あんたのその驚き方ってあたし好きよ」

夏樹は冴子の方をチラッと見ると、クマのぬいぐるみと楽しそうに絵本を読んでいる姿に笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「京子とあたしの人生の中には2人の子供たち、そして4人家族として暮らした確かな日々の記憶。そして、それ以前に京子が初めてあたしを見てから付き合うまでの日々、付き合い始めてから恋人関係になり結婚を約束して周りの反対を押し切っての結婚、そして子供が生まれるまでの京子とあたしの二人だけの時間。とても長い時間よね?それほどまでに長い年月を過ごしてきた京子とあたしの時間なのに、わずか11か月半の雪子の存在が、その全てを凌駕してしまう・・・。」

夏樹が話す初めての言葉の中にある京子が、誰にも悟られないように隠し続けてきた、京子の心の闇が少しずつその姿を現し始めていくのを感じていた。

「そして、どんなに愛したいと願っても、愛せない感情が、愛されたいという感情にすり替えられていく日々」

「それが京子の・・・」

「以前に子供たちが言っていた言葉は正解なの。京子はあたしのとって全てだってね。だから、今でも京子を苦しめている闇は京子自身の中にあるのよ」

「京子自身の中に・・・。それじゃ、京子が雪子さんに対してだけ気遣いをしていたっていうのは?」

「あたしに嫌われたくなかったから・・・」

「夏樹さんに嫌われたくなかった・・・どうして京子がそんな風に思ってしまうんですか?」

「きっと、京子はこう思っていたんじゃないかしら?絶対に触れてはいけない領域・・・」

「夏樹さんの・・・ですか?」

「だから、もし、その領域に触れてしまったら?京子にとってのあたしの全てが消えてしまうんじゃないかって」

「京子の中で雪子さんの存在がそんなにも大きく・・・でも、それじゃ、さっき言ってた子供たちの存在が我慢ならないっていうはどういう意味になるんですか?」

「時間よ。さっき言った京子の中にある、あたしとの全ての時間」

「時間・・・?でも、それと子供たちとはどういう関係が・・・あっ」

「分かったみたいね。あたしと雪子との間には何もないの。でも、京子とあたしの間には二人の子供がいるの。」

「それなのに、雪子さんには勝てない・・・」

「正確には、あたしの中に存在している雪子には・・・かしら」

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