345 / 386
愛せない感情
愛せない感情・・・その5
しおりを挟む
「あんたのその表情からすると何か感じ取ったみたいね」
「まあ・・・何て言うか・・・」
「まぁいいわ!とりあえず中に入りなさいな!」
夏樹はそう言いながら冴子と手を繋いでアトリエの中へと入って行く。
直美は初めて見るアトリエを眺めていると木目のプレートに気がついた。
「アトリエ・愛里・・・変わった名前だけど何か意味があるのかな?」
でも、来ちゃったんだわ、夏樹さんに引っ越した街に来ちゃった!
直美がアトリエの玄関を開けて店内を覗いてみると、カウンターのところにちょこんと腰かけて
クマのぬいぐるみと絵本を読んでいる冴子の姿が見えた。
カウンターの中では夏樹がコーヒーを作っているらしくコーヒーカップを用意しながら
オレンジジュースの入ったグラスを、冴子とクマのぬいるみの読書の邪魔にならないように
ちょっとだけ離れたところに置いて、玄関のところで店内を眺めている直美に声をかけてくれた。
「そんなところで何やってるの?早く中に入りなさいな!」
「あっ、はい・・・それじゃ、お邪魔しま~す」
「今、コーヒーを持っていくから、その辺、好きなところに腰かけてくれるかしら?」
直美は遠くに小高い山が見える窓際の席に座って店内を見渡してみる。
店内に設置してある幾つかのテーブルの椅子やテーブルの上に色々なぬいぐるみたちの姿が見える。
ちゃんと椅子に座っているぬいぐるみも居れば、
テーブルの上にちょこっと座っているぬいぐるみ、
窓と窓の間にある木目の棚にも、ぬいぐるみたちが寝転んだりしている。
そんなぬいぐるみたちの姿に、飾られているというよりは生息しているように錯覚をしてしまう
まるで、どこか別の世界に来ているようにさえ思えてしまうこの店内の空間に、夏樹の人柄を感じていた。
直美の選んだテーブルにも、他と同じように直美の向かい側の席に大きめの黒い犬のぬいぐるみ
その隣にはキツネのぬいぐるみ、そして、テーブルの上にはカバのぬいぐるみ。
「あれ?このカバさんは、確か以前に夏樹さんの家に行った時に、夏樹さんが連れてきたカバさんだわ!」
「あら?良く覚えていたわね」
夏樹はそう言いながら、コーヒーカップを直美の前に置いて、
椅子に座ってるキツネのぬいぐるみを抱えながら、自分の席の前にコーヒーカップを置いて椅子に腰かけた。
「やっぱり、あの時のカバさんだったんですね!」
「もしかしたら、このカバさんには、あんたがここに来るのが分かっていたのかもね?ついでに、あんたが座る席も・・・」
「うそ?まさか、そんな・・・ははは」
「嘘でも、まさかでも、もし、そうだったならいいな~って思わない?」
「ははは・・・確かに・・・そうかも」
「でも、よく迷わずにここまで来れたわね?」
「いや~・・・それについては私もビックリしているんですよ。ただただ夏樹さんに教えられた目印だけを捜して走っていたら、知らないうちに最後の目印まで来ちゃいました」
「死ぬわよ、あの子」・・・先ほどの夏樹の言葉。
直美が到着して早々に聞こえてきた夏樹の言葉の真意を、
直美はすぐに訊き返そうとはしなかった。
確かに、普通に考えてみても、とても衝撃的な言葉だったはずなのだが。
それでも、直美自身、その事を想像しなかったわけではない。
夏樹と初めて会い、そして初めて会話を交わして以来、
心の中で、少しずつ何かが、分かり始めていくのを直美は何となく感じ始めていた。
人が死を選択肢に加える事はそれほど珍しい事でもない。
そして、それは、それほど難しい選択肢なわけでもないという現実を、
直美は、夏樹に教えられたような気がしていた。
本当に難しいのは死という選択肢を選ぶことではなく、生きるという選択肢を選ぶ未来、
生きたいと伝えようとする心の声を捜そうとする自分自身を、見失わないための痛みを受け入れる事なのだと。
そして、それを京子に伝えるために夏樹に会いに来たのだと直美は確信していた。
「まあ・・・何て言うか・・・」
「まぁいいわ!とりあえず中に入りなさいな!」
夏樹はそう言いながら冴子と手を繋いでアトリエの中へと入って行く。
直美は初めて見るアトリエを眺めていると木目のプレートに気がついた。
「アトリエ・愛里・・・変わった名前だけど何か意味があるのかな?」
でも、来ちゃったんだわ、夏樹さんに引っ越した街に来ちゃった!
直美がアトリエの玄関を開けて店内を覗いてみると、カウンターのところにちょこんと腰かけて
クマのぬいぐるみと絵本を読んでいる冴子の姿が見えた。
カウンターの中では夏樹がコーヒーを作っているらしくコーヒーカップを用意しながら
オレンジジュースの入ったグラスを、冴子とクマのぬいるみの読書の邪魔にならないように
ちょっとだけ離れたところに置いて、玄関のところで店内を眺めている直美に声をかけてくれた。
「そんなところで何やってるの?早く中に入りなさいな!」
「あっ、はい・・・それじゃ、お邪魔しま~す」
「今、コーヒーを持っていくから、その辺、好きなところに腰かけてくれるかしら?」
直美は遠くに小高い山が見える窓際の席に座って店内を見渡してみる。
店内に設置してある幾つかのテーブルの椅子やテーブルの上に色々なぬいぐるみたちの姿が見える。
ちゃんと椅子に座っているぬいぐるみも居れば、
テーブルの上にちょこっと座っているぬいぐるみ、
窓と窓の間にある木目の棚にも、ぬいぐるみたちが寝転んだりしている。
そんなぬいぐるみたちの姿に、飾られているというよりは生息しているように錯覚をしてしまう
まるで、どこか別の世界に来ているようにさえ思えてしまうこの店内の空間に、夏樹の人柄を感じていた。
直美の選んだテーブルにも、他と同じように直美の向かい側の席に大きめの黒い犬のぬいぐるみ
その隣にはキツネのぬいぐるみ、そして、テーブルの上にはカバのぬいぐるみ。
「あれ?このカバさんは、確か以前に夏樹さんの家に行った時に、夏樹さんが連れてきたカバさんだわ!」
「あら?良く覚えていたわね」
夏樹はそう言いながら、コーヒーカップを直美の前に置いて、
椅子に座ってるキツネのぬいぐるみを抱えながら、自分の席の前にコーヒーカップを置いて椅子に腰かけた。
「やっぱり、あの時のカバさんだったんですね!」
「もしかしたら、このカバさんには、あんたがここに来るのが分かっていたのかもね?ついでに、あんたが座る席も・・・」
「うそ?まさか、そんな・・・ははは」
「嘘でも、まさかでも、もし、そうだったならいいな~って思わない?」
「ははは・・・確かに・・・そうかも」
「でも、よく迷わずにここまで来れたわね?」
「いや~・・・それについては私もビックリしているんですよ。ただただ夏樹さんに教えられた目印だけを捜して走っていたら、知らないうちに最後の目印まで来ちゃいました」
「死ぬわよ、あの子」・・・先ほどの夏樹の言葉。
直美が到着して早々に聞こえてきた夏樹の言葉の真意を、
直美はすぐに訊き返そうとはしなかった。
確かに、普通に考えてみても、とても衝撃的な言葉だったはずなのだが。
それでも、直美自身、その事を想像しなかったわけではない。
夏樹と初めて会い、そして初めて会話を交わして以来、
心の中で、少しずつ何かが、分かり始めていくのを直美は何となく感じ始めていた。
人が死を選択肢に加える事はそれほど珍しい事でもない。
そして、それは、それほど難しい選択肢なわけでもないという現実を、
直美は、夏樹に教えられたような気がしていた。
本当に難しいのは死という選択肢を選ぶことではなく、生きるという選択肢を選ぶ未来、
生きたいと伝えようとする心の声を捜そうとする自分自身を、見失わないための痛みを受け入れる事なのだと。
そして、それを京子に伝えるために夏樹に会いに来たのだと直美は確信していた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。


白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる