愛して欲しいと言えたなら

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消えていく未来

消えていく未来・・・その18

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ううん・・・まだ、あるわ・・・京子が良く言っていた事が・・・。

夏樹さんは事業家としても凄いんだって、まだ若干20代の前半だっていうのに、
夏樹さんが居た業界では、県内に、瞬く間にその名前が知れ渡ったって。

今の時代なら、ネットとか、グローバルとかって言って
若い人たちにも、そういうチャンスってあるんだと思うけど、
夏樹さんが、まだ、若い頃って、今とは違って、う~ん、なんて言ってたかな?

そうそう、確か、確立された社会とかって言って
若い人が、そういうチャンスを手にするのとかってとっても大変な時代だったんだって。
ましてや、夏樹さんが居た地方じゃ、そんなチャンスなんてほとんど皆無だったはず。
いつも、京子と会う度に、そんな話をよく聞かされていたんだったわ。

だけど、いつからだろう?
京子から、そんな夏樹さんの話を聞かなくなったのって?
たぶん・・・京子が、夏樹さんと結婚してから・・・違うかな?

でも、それって、いったい、どういう事なんだろう?
あの時、雪子さんが言ってたのって、もしかして?
確か、夏樹さんに気を遣わせ過ぎると・・・とかって。その事と、何か関係があるのかな?

あの時は、雪子さんと京子の違いって、夏樹さんに気遣いをさせないか、
それとも、気遣いをさせてしまうのか、っていう違いなのかな?って、思ったんだけど。

今になって、改めて考えてみると、
ちょっと違うような気がしてしまうっていうか、何かが違うっていうか。

もし、夏樹さんは、ずっと我慢していたんだとしたら・・・?
でも・・・いったい・・・どうして・・・?
いえ・・・いったい・・・いつから?
京子と付き合うようになってから?・・・それとも、京子と結婚してから?

なんだか、だんだん分からくなってきちゃった。
というより、もともとおバカな私の頭では、余計にこんがらがってしまったみたいかも?
だけど、いったい、夏樹さんは、京子に何を求めていたんだろう?

などと、一人夢中になって、というより、
はたから見れば一人でボーっとしてる、になるのかもしれないが。

どちらにしろ、一人、運転席で考え事をしている直美が、
缶コーヒーを一口飲もうと口元に近づけると、運転席の窓ガラスをトントンと叩く音がした。

その音に惹かれるように、不意に窓ガラスの方に視線を移した瞬間、
直美が口に含みかけたコーヒーが、口の中に納まらずにそのまま吹き出してしまった。

直美は、慌てて運転席の窓ガラスを開けようとしながら、
同時進行で、運転席側のドアも開けようとしているらしく、
まるで、緊張し過ぎて練習していたはずのパントマイムを忘れてしまった道化師みたいに、
車の中で、訳の分からない一人コントを披露している直美である。
やっとの事で、運転席のドアを開けて、慌てて外に出る直美を見ながら・・・

「ほらね!面白いお姉さんでしょ?」

直美に一人コントをさせた張本人の夏樹が、愛らしい笑みで微笑んでいる。

「あの・・・えっ?えっと、だから、あの、いきなり・・・だから、違うんですよ!」

「あんたって、やっぱり、可愛いわね!」

「いや~・・・へへへ・・・いえ、あの・・・」

「こちらの可愛いお姉さんは、あたしの大切なお友達の直美さんっていうのよ」

夏樹の言葉に、というより、夏樹の視線に流されるようにその先に視線を移してみる。
すると、そこには、可愛い幼い女の子が、直美の顔を不思議そうな瞳で見つめていた。

「えっ?はい?えっ・・・あっ、はい、初めまして、直美です。はい!」

「はいです!初めまして、冴ちゃんです!」

「あっ、はい、初めまして、直美と言います!」

「あははっ!で、あんた、ここで何してんの?」

「あっ、はい、あの、何って言われましても・・・ちょっとコーヒーをというか、まあ、はい」

「でも、あんた、よく迷わないでここまで来たわね?」

「ええ、それがですね、気がついたらここまで来ていたっていうか、なんていうか、へへへ」

夏樹との不意打ちのような突然の再会に遭遇してしまった直美が、
いつもの直美に戻るのには、もう少しの時間が必要なようである。

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