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消えていく未来

消えていく未来・・・その16

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京子のお見舞いに行った次の日、直美は、夏樹の引っ越し先へと車を走らせていた。

ほんとなら、直美は、いつものパートの仕事があったのだが、
昨日の、病室での会話の中で、京子の言葉が気になってしまい、
思い出せは思い出すほど、だんだんと居ても立っても居られなくなってしまったのである。

京子を想う夏樹さんの悲しみの意味・・・
その悲しみの意味がやっと分かった瞬間は、なぜか嬉しくて笑みを浮かべてしまったけど。

夏樹さんが悲しかったのは、それを京子が知らない・・・それを知らない京子の心の世界。

京子が夏樹さんと付き合うようになって、そして結婚して家族が出来て、そんな日々の中で、
京子が、どれほどの想いで、どれだけの努力をしてきたのかを知ってる夏樹さんにとって・・・

自分自身の心変わりを知った時に、心変わりをした自分自身が悲しかったんじゃなくて、
そんな夏樹さんの心変わりを知らないでいる、何も知らない京子の姿が悲しかったんだわ。

まるで余命を告げられた家族が、自分の運命を知らないまま、
また元気になれると信じている、愛する人が眠る病室のベットの上・・・

きっと、夏樹さんの瞳の中に映る京子の姿は、そんな風に見えていたのかもしれない。
でも・・・それじゃ、それを知ってしまった京子を待っている未来って、いったい・・・。

きっと、それを知ってしまった京子は、
自分の生きてきた意味と、自分の存在理由を探し始めてしまうのかもしれない。

だけど、もし、その生きてきた意味や自分の存在理由が見つけられなかったとしたら?
もし、そこに雪子さんの存在と、自分の今を重ね合わせてしまったとしたら?
そしたら、その時、京子はどうなるの?

夏樹さんの心変わりを知らない京子の姿は、夏樹さんには、どんな風に映っていたのかな?
それに、そんな夏樹さんにとっての京子の存在って、いったいなんだったのかな?

確かに、夏樹さんの中には、雪子さんという絶対的な存在があるのは私にも分かるし、
きっと、それは、今も、変わらないはず・・・。

なのに、夏樹さんは、京子が全てだったって言っていたし、
その事は、子供たちも知っているはずとも言っていたし・・・。

夏樹さんが言ったあの言葉は、
私には、その場しのぎの同情や、京子に対しての気遣いの言葉には思えなかったし。
いったい、夏樹さんは京子の何に怯えているのかしら?・・・怯えている・・・えっ?

怯えている・・・?
そうなんだわ。きっと、そうだわ!

夏樹さんは、京子の未来に・・・いえ、違うわ!
京子の未来にではなくて、京子の中の何かに怯えているんじゃないかしら?

夏樹さんのあの言葉・・・
「あたしが、もう不安定な時間しがないって言ったのは、あたしが、自分で自分の終わりを探すかもしれないって話」

でも、なぜ・・・?
京子の未来が分かるはずの夏樹さんが自らの人生を終わらせなければならないって思っていたの?

もし、私が感じた京子の未来が間違っていないとしたら、
夏樹さんが「それは教えられない」って言った意味も分かるし。
それに、今の私になら、京子の言葉から感じる悲しみが、少しだけかもしれないけど、
何となく、分かるような気がするの。・・・でも、何かが、違うような感じがするの。

何かが違うというか、大切な何かが足りないというか・・・。
夏樹さんには見えて、私には見えていない京子の何かが、きっと、あるような気がする。

たとへこの先、子供たちが離れていったり、京子を見捨ててしまうような事態になったとしても、
それだけの理由で、京子自身が、私が感じたような未来を選ぶとは思えないわ。

そして、今の夏樹さんが背負っている京子への悲しみは、
きっと、あの頃の悲しみではないような気がする。

京子への心変わり、そして、「もういい・・・」と、繰り返していたあの頃の夏樹さんの悲しみ。
でも、それと今の夏樹さんの背負う悲しみは違うはず。
どうしても、私には、そう思えてしまう・・・。

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