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消えていく未来
消えていく未来・・・その15
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どこに視点が合っているのか、どこを見つめようとしているのか分からないまま、
病室の中を漂っている虚ろな瞳で何かを捜している京子には、その何か?さえ分からない。
「結果論なのよね・・・全てが・・・」
京子がポツリと呟いた。
「結果論・・・?」
「そう・・・結果論なの」
「う~ん・・・よく分からないんだけど」
「もし、あの人が、あのまま何も出来ないで今に至っていたら、直美があの人に会いに行く事もなかったし、今、こうやって直美とあの人の話をする事もなかったわ。それに、省吾だって商売をしたいなんて言い出す事もなかったんだろうし」
「まあ、確かにそれは言えるかも」
「でも、あの人はまた浮上してきた。それも自分一人の力だけで・・・。だから、私があの人と過ごしてきた年月も、思い出も、何もかもを否定されたしまったような気がして、いったい私ってあの人の何だったのかしらって?そんな風に思えてしまうの」
「でも、それは・・・」
「分かってるわ。それにね、もし、あの時、私があの人のためにお金を工面したりしていたら、そうしようと思えば私にはそれが出来たのに・・・。でも、それもやっぱり結果論でしかないの。あの人がもう一度成功する未来を知っていたら、あの時の私はどうしていたのかなって?でも、これも結果論でしかないの」
「そうはいっても人の未来なんて誰も分からないわよ」
「一秒の境界線・・・離婚する少し前にあの人が言っていた言葉。今頃になって、その言葉が頭から離れなくなってしまってね」
「一秒の境界線・・・?もしかして、一寸先は闇みたいな意味なの?」
「違うみたい・・・一寸先は闇はほんの少し先の事もまったく予知できないとういか、この先、何が起こるかまったく予想も出来ないみたいな感じの意味だと思うの。でも、あの人が言ってた一秒の境界線というのはちょっと違っていて、あの人が言っていたのは、例えば宝くじとかってあるでしょ?もし、その宝くじが一等賞が当たっていたとするとね、その宝くじを手にして当選番号を確認している時にね、自分が手にしているその宝くじの番号が、一等賞の番号と同じ番号だと分かった瞬間が一秒の境界線なのだそうよ」
「当選番号だと知らない時間と、知った時間の境が一秒の境界線・・・う~ん、なんか深い感じ」
「なぜ、わざわざ離婚する前にそんな事を私に言ったのか、あの時は分からなかったけど、今にして思えば・・・」
「京子には分かるの・・・?」
「ええ・・・きっと、あの人はこう伝えたかったんだと思うわ、知る前には戻れないって」
「知る前にって、何を知る前になの?」
「・・・人の心の移り変わり・・・」
人の心の移り変わり・・・
その言葉を聞いて、急に笑みを浮かべる直美に、京子は、ちょっと驚いた。
「どうしたの、京子?そんなビックリしたような顔しちゃったりして」
「えっ・・・・だって、直美が急に嬉しそうな笑みをするから」
「ふふっ・・・なるほどね~・・・う~ん、納得かも」
「何が、なるほどなのよ?」
「ねえ、その心の移り変わりってどっち?京子?それとも夏樹さん?」
「そんな事を聞いてどうするの?」
「別にいいじゃない、減るもんじゃないしさ」
「どっちでもいいわ、今更なんだし」
「ふ~ん・・・」
「何よ?ふ~んとかって」
「いいの、いいの!でも、納得!納得!やっと理解出来たんだわ」
そうなんだ、そういう事だったんだ、京子を想う夏樹さんの悲しみの意味。
おそらく・・・いえ、間違いなく、心変わりをしたのは夏樹さんの方。
そして、京子には、それが許せなかった。
ここの解釈が、いまいち分からなかったんだけど、やっと分かっちゃったみたい。
京子が許せなかったのは、心変わりをした夏樹さんの方じゃなくて。
心変わりをされてしまった自分自身が許せなかった、そして、それを認めたくなかった・・・。
なぜ・・・?
京子には自負があったからよね?
そして、それはなぜ・・・?
なぜって、そこには雪子さんの存在がなかったから。
夏樹さんが心変わりをした、その時に、
夏樹さんの隣には、雪子さんがいなかったからなんでしょ?
その時、すでに、夏樹さんが雪子さんと再会していたのなら、
夏樹さんの心変わりも、夏樹さんを責めればそれで済むだけの話なのに。
でも、そこに、雪子さんが、まだ、存在していなかったとなれば、
夏樹さんに、心変わりをさせてしまったのは、京子自身。
夏樹さんに心変わりをさせてしまった。
そして、夏樹さんの心変わりを止める事が出来なかった。
京子は、自分はこれだけ尽くしてきたのに、こんなにも努力してきたのに・・・
そんな自負が、崩れ落ちた現実から目をそらしてしまった。
自分が裏切られたのだと、自分は騙されていたのだと、
夏樹さんの心変わりをすり替えてみたけど、自分の心はそれを受け入れてはくれなかった・・・
だから、悪いのは全て夏樹さんであって欲しい・・・
それが、京子が、夏樹さんを悪く言い続ける本当の理由なんだわ。
認めざる得ない現実を受け入れなければならない・・・それが、何よりも許せなかった京子。
そして、なぜ、こんなにも夏樹さんを許せなかったのか・・・
それに気がつくのがあまりに遅すぎた自分自身が、今になってよけいに悔しくて仕方がない京子。
病室の中を漂っている虚ろな瞳で何かを捜している京子には、その何か?さえ分からない。
「結果論なのよね・・・全てが・・・」
京子がポツリと呟いた。
「結果論・・・?」
「そう・・・結果論なの」
「う~ん・・・よく分からないんだけど」
「もし、あの人が、あのまま何も出来ないで今に至っていたら、直美があの人に会いに行く事もなかったし、今、こうやって直美とあの人の話をする事もなかったわ。それに、省吾だって商売をしたいなんて言い出す事もなかったんだろうし」
「まあ、確かにそれは言えるかも」
「でも、あの人はまた浮上してきた。それも自分一人の力だけで・・・。だから、私があの人と過ごしてきた年月も、思い出も、何もかもを否定されたしまったような気がして、いったい私ってあの人の何だったのかしらって?そんな風に思えてしまうの」
「でも、それは・・・」
「分かってるわ。それにね、もし、あの時、私があの人のためにお金を工面したりしていたら、そうしようと思えば私にはそれが出来たのに・・・。でも、それもやっぱり結果論でしかないの。あの人がもう一度成功する未来を知っていたら、あの時の私はどうしていたのかなって?でも、これも結果論でしかないの」
「そうはいっても人の未来なんて誰も分からないわよ」
「一秒の境界線・・・離婚する少し前にあの人が言っていた言葉。今頃になって、その言葉が頭から離れなくなってしまってね」
「一秒の境界線・・・?もしかして、一寸先は闇みたいな意味なの?」
「違うみたい・・・一寸先は闇はほんの少し先の事もまったく予知できないとういか、この先、何が起こるかまったく予想も出来ないみたいな感じの意味だと思うの。でも、あの人が言ってた一秒の境界線というのはちょっと違っていて、あの人が言っていたのは、例えば宝くじとかってあるでしょ?もし、その宝くじが一等賞が当たっていたとするとね、その宝くじを手にして当選番号を確認している時にね、自分が手にしているその宝くじの番号が、一等賞の番号と同じ番号だと分かった瞬間が一秒の境界線なのだそうよ」
「当選番号だと知らない時間と、知った時間の境が一秒の境界線・・・う~ん、なんか深い感じ」
「なぜ、わざわざ離婚する前にそんな事を私に言ったのか、あの時は分からなかったけど、今にして思えば・・・」
「京子には分かるの・・・?」
「ええ・・・きっと、あの人はこう伝えたかったんだと思うわ、知る前には戻れないって」
「知る前にって、何を知る前になの?」
「・・・人の心の移り変わり・・・」
人の心の移り変わり・・・
その言葉を聞いて、急に笑みを浮かべる直美に、京子は、ちょっと驚いた。
「どうしたの、京子?そんなビックリしたような顔しちゃったりして」
「えっ・・・・だって、直美が急に嬉しそうな笑みをするから」
「ふふっ・・・なるほどね~・・・う~ん、納得かも」
「何が、なるほどなのよ?」
「ねえ、その心の移り変わりってどっち?京子?それとも夏樹さん?」
「そんな事を聞いてどうするの?」
「別にいいじゃない、減るもんじゃないしさ」
「どっちでもいいわ、今更なんだし」
「ふ~ん・・・」
「何よ?ふ~んとかって」
「いいの、いいの!でも、納得!納得!やっと理解出来たんだわ」
そうなんだ、そういう事だったんだ、京子を想う夏樹さんの悲しみの意味。
おそらく・・・いえ、間違いなく、心変わりをしたのは夏樹さんの方。
そして、京子には、それが許せなかった。
ここの解釈が、いまいち分からなかったんだけど、やっと分かっちゃったみたい。
京子が許せなかったのは、心変わりをした夏樹さんの方じゃなくて。
心変わりをされてしまった自分自身が許せなかった、そして、それを認めたくなかった・・・。
なぜ・・・?
京子には自負があったからよね?
そして、それはなぜ・・・?
なぜって、そこには雪子さんの存在がなかったから。
夏樹さんが心変わりをした、その時に、
夏樹さんの隣には、雪子さんがいなかったからなんでしょ?
その時、すでに、夏樹さんが雪子さんと再会していたのなら、
夏樹さんの心変わりも、夏樹さんを責めればそれで済むだけの話なのに。
でも、そこに、雪子さんが、まだ、存在していなかったとなれば、
夏樹さんに、心変わりをさせてしまったのは、京子自身。
夏樹さんに心変わりをさせてしまった。
そして、夏樹さんの心変わりを止める事が出来なかった。
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夏樹さんの心変わりをすり替えてみたけど、自分の心はそれを受け入れてはくれなかった・・・
だから、悪いのは全て夏樹さんであって欲しい・・・
それが、京子が、夏樹さんを悪く言い続ける本当の理由なんだわ。
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