愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
332 / 386
消えていく未来

消えていく未来・・・その12

しおりを挟む
「私、言っちゃったのよ・・・。雪子さんは、そんなあなたの事を見抜いていたから、あんたと別れたんだって。私はバカだから、そんなあなただと見抜くまでに20年以上もかかったって・・」

「京子・・・?」

「今更よね・・・。でも、あの人、何も言わないから分かるわけないじゃない?」

「でも、それは・・・」

「分かってるわ!でも、私は何でも話していたし、あの人も何でも話してくれていたと思ってた。20年以上もずっとそう思ってた。あの人が私に合わせてくれていたなんて、気がつきもしないで夫婦気取りの私って、まるで道化師みたい、笑っちゃうわ!」

いや・・・あのですね?省吾君の立場はいったい・・・?と、思うんですけど・・・。

「もういいじゃない、終わった事なんだし」

「何も、終わってないわよ!」

「へっ・・・?」

「いくら離婚したからって言っても、子供たちにとっては、あの人は父親であり私は母親なんだから」

んなバカな・・・?
言ってる話が、この前と今とじゃ全然違うんですけど?と、思う、私は正しい。

「でも、今は、もう別々になったんだし」

「何、言ってるのよ。そんなわけないでしょ?もし、子供たちが重い病気にでもなったりしたら、離婚したんだから知らないって出来ないんだから」

「夏樹さん、きっと、来ないと思う・・・」

「えっ・・・?」

直美は即答で答えた・・・。きっと、京子には理解出来ない言葉なのだろう。

夏樹は、何があっても来ない。
それが分かってしまう直美には、自分の言葉がどこか寂しかった。

「何となく、そんな気がするの・・・」

「そんなわけないでしょ?直美は、あの人の性格を知らないからそんな事が言えるのよ」

「ううん、そうじゃなくて、きっと来ないと思う。たとへ、省吾君たちが、病気とか怪我とかで危篤状態とかになったとしても、夏樹さん来ないと思う」

「何、言ってるのよ、そんなわけが・・・。ちょっと、直美?それって、どういう意味なの?」

「何となく分かるんだよね。何があっても夏樹さんは来ないって」

「あの人が、薄情な人だって言いたいわけ?」

薄情な人・・・それ、逆だよ、京子。
夏樹さんが薄情な人じゃないから来ないんだよ。

それに、薄情って、夏樹さんが京子たちを捨てたんじゃなくて、
京子たちが、夏樹さんを捨てたんだよ?

夏樹さん言ってた・・・「もういい」って・・・。

あの夏樹さんが、そんな言葉にたどり着くのって、どれ程の孤独の中にいたのかって。
きっと、京子には分からないんだろうな・・・悲しい事だけど。

確かに、愛だの恋だのでは生活はしていけない。
ちゃんと生活が出来ている上で、始めて愛だの恋だのという言葉が成り立つ・・・それが、京子。
ちゃんとした生活の基盤の上に愛が存在するのが、京子。
愛も生活の基盤も全部一緒なのが夏樹さん・・・。まるで、水と油みたい。

「京子さ、夏樹さんが、京子の前から去っていく最後の姿って、ちゃんと見てた?」

「えっ・・・?」

「見てないんでしょ?」

「そんなの、私が家の中にいた時に勝手にいなくなったんだから知らないわよ」

「それが、夏樹さんと京子の愛が終わる最後の姿なんて・・・なんか、寂しいね?」

「そんな事を言ったって仕方がないじゃない」

「京子、愛って事務的な作業じゃないのよ?生活が出来なくなったら愛もおしまいってさ、まるで顧客がいなくなったから会社もおしまいっていうのと同じみたい」

「それじゃ、私は、どうしたらよかったっていうの?」

「それに、今も、まだ、夏樹さんにさよならを伝えていない・・・どうして?」

「どうしてって・・・」

「京子、怖いんでしょ?夏樹さんにさよならを伝えたら、本当に、一人ぼっちになってしまうみたいで・・・違う?」

「そんなの、別に・・・」

「死んだら全部なくなっちゃうんだよ?」

「そんなの当たり前でしょ」

「私ね、夏樹さんと何度か会ってお話をしてる時にね、いつも思ってたの、夏樹さんって、お話が上手だから面白いし、おどけて見せたり冗談を言ったりもしたりして、私も面白いから笑ったりして・・・。でもね、いつも思ってたの、どうして、そんなにも寂しい目をしてるの?って」

「私が、悪いって言いたいの?」

「どうして?って、なぜ、訊かないの?」

京子は、結婚生活という長い時間の中で忘れてしまっていた愛していたはずの記憶の影を、
直美の語る言葉が、聞こえては消えていく時間の中に探している自分がいる事に少し驚いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

処理中です...