愛して欲しいと言えたなら

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消えていく未来

消えていく未来・・・その12

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「私、言っちゃったのよ・・・。雪子さんは、そんなあなたの事を見抜いていたから、あんたと別れたんだって。私はバカだから、そんなあなただと見抜くまでに20年以上もかかったって・・」

「京子・・・?」

「今更よね・・・。でも、あの人、何も言わないから分かるわけないじゃない?」

「でも、それは・・・」

「分かってるわ!でも、私は何でも話していたし、あの人も何でも話してくれていたと思ってた。20年以上もずっとそう思ってた。あの人が私に合わせてくれていたなんて、気がつきもしないで夫婦気取りの私って、まるで道化師みたい、笑っちゃうわ!」

いや・・・あのですね?省吾君の立場はいったい・・・?と、思うんですけど・・・。

「もういいじゃない、終わった事なんだし」

「何も、終わってないわよ!」

「へっ・・・?」

「いくら離婚したからって言っても、子供たちにとっては、あの人は父親であり私は母親なんだから」

んなバカな・・・?
言ってる話が、この前と今とじゃ全然違うんですけど?と、思う、私は正しい。

「でも、今は、もう別々になったんだし」

「何、言ってるのよ。そんなわけないでしょ?もし、子供たちが重い病気にでもなったりしたら、離婚したんだから知らないって出来ないんだから」

「夏樹さん、きっと、来ないと思う・・・」

「えっ・・・?」

直美は即答で答えた・・・。きっと、京子には理解出来ない言葉なのだろう。

夏樹は、何があっても来ない。
それが分かってしまう直美には、自分の言葉がどこか寂しかった。

「何となく、そんな気がするの・・・」

「そんなわけないでしょ?直美は、あの人の性格を知らないからそんな事が言えるのよ」

「ううん、そうじゃなくて、きっと来ないと思う。たとへ、省吾君たちが、病気とか怪我とかで危篤状態とかになったとしても、夏樹さん来ないと思う」

「何、言ってるのよ、そんなわけが・・・。ちょっと、直美?それって、どういう意味なの?」

「何となく分かるんだよね。何があっても夏樹さんは来ないって」

「あの人が、薄情な人だって言いたいわけ?」

薄情な人・・・それ、逆だよ、京子。
夏樹さんが薄情な人じゃないから来ないんだよ。

それに、薄情って、夏樹さんが京子たちを捨てたんじゃなくて、
京子たちが、夏樹さんを捨てたんだよ?

夏樹さん言ってた・・・「もういい」って・・・。

あの夏樹さんが、そんな言葉にたどり着くのって、どれ程の孤独の中にいたのかって。
きっと、京子には分からないんだろうな・・・悲しい事だけど。

確かに、愛だの恋だのでは生活はしていけない。
ちゃんと生活が出来ている上で、始めて愛だの恋だのという言葉が成り立つ・・・それが、京子。
ちゃんとした生活の基盤の上に愛が存在するのが、京子。
愛も生活の基盤も全部一緒なのが夏樹さん・・・。まるで、水と油みたい。

「京子さ、夏樹さんが、京子の前から去っていく最後の姿って、ちゃんと見てた?」

「えっ・・・?」

「見てないんでしょ?」

「そんなの、私が家の中にいた時に勝手にいなくなったんだから知らないわよ」

「それが、夏樹さんと京子の愛が終わる最後の姿なんて・・・なんか、寂しいね?」

「そんな事を言ったって仕方がないじゃない」

「京子、愛って事務的な作業じゃないのよ?生活が出来なくなったら愛もおしまいってさ、まるで顧客がいなくなったから会社もおしまいっていうのと同じみたい」

「それじゃ、私は、どうしたらよかったっていうの?」

「それに、今も、まだ、夏樹さんにさよならを伝えていない・・・どうして?」

「どうしてって・・・」

「京子、怖いんでしょ?夏樹さんにさよならを伝えたら、本当に、一人ぼっちになってしまうみたいで・・・違う?」

「そんなの、別に・・・」

「死んだら全部なくなっちゃうんだよ?」

「そんなの当たり前でしょ」

「私ね、夏樹さんと何度か会ってお話をしてる時にね、いつも思ってたの、夏樹さんって、お話が上手だから面白いし、おどけて見せたり冗談を言ったりもしたりして、私も面白いから笑ったりして・・・。でもね、いつも思ってたの、どうして、そんなにも寂しい目をしてるの?って」

「私が、悪いって言いたいの?」

「どうして?って、なぜ、訊かないの?」

京子は、結婚生活という長い時間の中で忘れてしまっていた愛していたはずの記憶の影を、
直美の語る言葉が、聞こえては消えていく時間の中に探している自分がいる事に少し驚いていた。
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