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消えていく未来
消えていく未来・・・その4
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「空想の世界・・・?」
「はい。先程も申しましたように、夏樹様は、雪子様と再会した事で、何も思い残す事がなくなってしまったのではないかと。そして、自分が存在する事で、雪子様を苦しめてしまう未来を消してしまわなければと。ですが、前にも話した通り、夏樹様が雪子様を理解しているのではなく、雪子様の方が夏樹様を理解している。それゆえに、夏樹様の心の変化を、雪子様の方が感じ取ってしまわれたのだと思います」
「心の変化ですか・・・?」
「はい、生きる事に無気力な感情から、自分自身の人生に終止符を打とうとする感情の変化を、雪子様は見逃さなかった。ですが、ここで夏樹様にとって想定外と言いますか、雪子様の思考が、夏樹様の予想とは裏腹な方向へと進んでいってしまわれたのだと思います」
「う~ん・・・ややこしいですね」
「まあ、ちょっと、ややこしいと言えば、ややこしいかもしれませんね」
「それで、夏樹さんは、夏樹さんに会った後の雪子にどんな予想をしていたのでしょうか?」
「はい、おそらく、夏樹様は、これほど早く、雪子様が行動に移すとは思っていらっしゃらなかったのではないでしょうか?」
「ええ、それには、正直、私も驚いているんです」
「確かに、夏樹様と再会してしまった雪子様の心の感情を想えば、心穏やかとはいかないまでも、それは、一時の感情に過ぎず、雪子様には雪子様の家庭があり、生活に困る事もなく幸せな家庭であるならば、その幸せを尊重するであろうと」
「でも、もし、夏樹さんが原因で、雪子の家庭の幸せが壊れるような事にでもなったら」
「雪子様の性格上それはまずないものと思われます。夏樹様の方から雪子様に会いたいというような事も、余程の事でもない限りあり得ないものと思われます」
「あっ・・・確かに、今、マスターが言ったように、夏樹さんから雪子を誘うような事は一度もなかったと思います。いつも、雪子の方が、突然というか、思い立ってというか、そんな感じで不意打ちみたいに夏樹さんに会いに行っていました」
「こんな事を言うと、裕子様はちょっと信じられないかもしれませんが、雪子様は、夏樹様を信じておられないのではないかと思うのです」
「えっ?あの、それって・・・」
「そして、そこが、夏樹様の唯一の誤算だったのだと思うのです」
「ちょっと、待って下さい・・あの・・・」
「以前に、確か、もし、雪子様が夏樹様を選んだとしても、夏樹様は決して雪子様を受け入れないと、裕子様もおっしゃっておられましたし、私も、そう思っておりました」
「ええ、確かに・・・」
「でも、もし、雪子様が、何もかも捨てて夏樹様の胸に飛び込むような事があれば、夏樹様は、そんな雪子様を拒まないで受け入れてくれるとも」
「ええ・・・」
「そして、そんな夏樹様を雪子様は知っておられるとも」
「確かに・・・でも、それじゃ、雪子が夏樹さんを信じていないというのは?」
「夏樹様の心の中の感情・・・かと、思います」
「心の中の感情・・・?」
「はい、外見上は雪子様を受け入れたとしても、はたして、心の中ではどうでしょうか?」
「う~ん・・・難しいですね」
「ははは・・・ようするに、雪子様を受け入れるのは雪子様が可哀そうだから、自分がそばにいないと雪子様が悲しむから・・・そんな感情ではないでしょうか?」
「それは夏樹さんがでしょうか?それとも、雪子が勝手にそう思っているという事でしょうか?」
「夏樹様の優しすぎる感情が、雪子様の想いを曇られせているのかもしれません」
「確かに、夏樹さんは優しすぎるというか、でも、どうして、それが雪子の感情を曇られせてしまうのでしょうか?」
「疑心暗鬼・・・夏樹様の優しすぎる感情が、雪子様の心の中に疑心暗鬼を生み出してしまうのかもしれません」
「もしかしたら、雪子の気持ちを思って・・・という事でしょうか?」
「はい。たとへ、夏樹様がそうは思っていないとしても、優しすぎる感情はそれを否定してはくれません」
「でも、それと、今の雪子の行動とはどう関係しているのでしょうか?」
「それゆえの、夢の途中なのです」
「それゆえの・・・?」
「はい、それゆえに、雪子様は夢から目覚めたくはないのだと思うのです。夢の中であれば、夏樹様は雪子様が思い描く夏樹様のままなのですから」
「それは、雪子が現実から目を背けていると?」
「おそらくは・・・。そして、夏樹様を信じて裏切られる現実が、雪子様にとって一番耐え難い悲しみなのですから・・・」
「はい。先程も申しましたように、夏樹様は、雪子様と再会した事で、何も思い残す事がなくなってしまったのではないかと。そして、自分が存在する事で、雪子様を苦しめてしまう未来を消してしまわなければと。ですが、前にも話した通り、夏樹様が雪子様を理解しているのではなく、雪子様の方が夏樹様を理解している。それゆえに、夏樹様の心の変化を、雪子様の方が感じ取ってしまわれたのだと思います」
「心の変化ですか・・・?」
「はい、生きる事に無気力な感情から、自分自身の人生に終止符を打とうとする感情の変化を、雪子様は見逃さなかった。ですが、ここで夏樹様にとって想定外と言いますか、雪子様の思考が、夏樹様の予想とは裏腹な方向へと進んでいってしまわれたのだと思います」
「う~ん・・・ややこしいですね」
「まあ、ちょっと、ややこしいと言えば、ややこしいかもしれませんね」
「それで、夏樹さんは、夏樹さんに会った後の雪子にどんな予想をしていたのでしょうか?」
「はい、おそらく、夏樹様は、これほど早く、雪子様が行動に移すとは思っていらっしゃらなかったのではないでしょうか?」
「ええ、それには、正直、私も驚いているんです」
「確かに、夏樹様と再会してしまった雪子様の心の感情を想えば、心穏やかとはいかないまでも、それは、一時の感情に過ぎず、雪子様には雪子様の家庭があり、生活に困る事もなく幸せな家庭であるならば、その幸せを尊重するであろうと」
「でも、もし、夏樹さんが原因で、雪子の家庭の幸せが壊れるような事にでもなったら」
「雪子様の性格上それはまずないものと思われます。夏樹様の方から雪子様に会いたいというような事も、余程の事でもない限りあり得ないものと思われます」
「あっ・・・確かに、今、マスターが言ったように、夏樹さんから雪子を誘うような事は一度もなかったと思います。いつも、雪子の方が、突然というか、思い立ってというか、そんな感じで不意打ちみたいに夏樹さんに会いに行っていました」
「こんな事を言うと、裕子様はちょっと信じられないかもしれませんが、雪子様は、夏樹様を信じておられないのではないかと思うのです」
「えっ?あの、それって・・・」
「そして、そこが、夏樹様の唯一の誤算だったのだと思うのです」
「ちょっと、待って下さい・・あの・・・」
「以前に、確か、もし、雪子様が夏樹様を選んだとしても、夏樹様は決して雪子様を受け入れないと、裕子様もおっしゃっておられましたし、私も、そう思っておりました」
「ええ、確かに・・・」
「でも、もし、雪子様が、何もかも捨てて夏樹様の胸に飛び込むような事があれば、夏樹様は、そんな雪子様を拒まないで受け入れてくれるとも」
「ええ・・・」
「そして、そんな夏樹様を雪子様は知っておられるとも」
「確かに・・・でも、それじゃ、雪子が夏樹さんを信じていないというのは?」
「夏樹様の心の中の感情・・・かと、思います」
「心の中の感情・・・?」
「はい、外見上は雪子様を受け入れたとしても、はたして、心の中ではどうでしょうか?」
「う~ん・・・難しいですね」
「ははは・・・ようするに、雪子様を受け入れるのは雪子様が可哀そうだから、自分がそばにいないと雪子様が悲しむから・・・そんな感情ではないでしょうか?」
「それは夏樹さんがでしょうか?それとも、雪子が勝手にそう思っているという事でしょうか?」
「夏樹様の優しすぎる感情が、雪子様の想いを曇られせているのかもしれません」
「確かに、夏樹さんは優しすぎるというか、でも、どうして、それが雪子の感情を曇られせてしまうのでしょうか?」
「疑心暗鬼・・・夏樹様の優しすぎる感情が、雪子様の心の中に疑心暗鬼を生み出してしまうのかもしれません」
「もしかしたら、雪子の気持ちを思って・・・という事でしょうか?」
「はい。たとへ、夏樹様がそうは思っていないとしても、優しすぎる感情はそれを否定してはくれません」
「でも、それと、今の雪子の行動とはどう関係しているのでしょうか?」
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「はい、それゆえに、雪子様は夢から目覚めたくはないのだと思うのです。夢の中であれば、夏樹様は雪子様が思い描く夏樹様のままなのですから」
「それは、雪子が現実から目を背けていると?」
「おそらくは・・・。そして、夏樹様を信じて裏切られる現実が、雪子様にとって一番耐え難い悲しみなのですから・・・」
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