愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
323 / 386
消えていく未来

消えていく未来・・・その3

しおりを挟む
「誰も傷つかない終わらせ方・・・。雪子は、夏樹さんの写真を見た時に、それに気がついたのでしょうか?」

「いえ、違うと思います。その時に、雪子様が感じたのは、一つは、夏樹様の不安定な心模様、そして、もう一つが、夏樹様は雪子様を求めている。ではないかと思うのです」

「でも、それじゃ、雪子に会えたのなら夏樹さんの不安定な気持ちも落ち着いたのでは?」

「ですが、夏樹様とは別に、雪子様の方は、逆に、夏樹様に会いに行ったがゆえに、後戻りが出来なくなってしまったのではないでしょうか?」

「後戻りが出来なくなってしまった?それは、雪子の中にあった夏樹さんに対する感情が、ふたたび湧き上がってしまったという事なのでしょうか?」

「いえ、もし、そうだったなら、雪子様のその後の行動も今とは違っていたと思います」

「それじゃ、雪子は、いったい・・・」

「おそらく、雪子様に再会された夏樹様にとって、もはや、この世に思い残す何ものもなくなってしまった。それまでの夏樹様は、無気力な心のままで日々を過ごしていたのではないかと思うのです。これも推測ですが、夏樹様は、雪子様と別れてからの年月の中、心のどこかで、無意識の中で、雪子様を求める想いがずっとあったのではないでしょうか?」

「たぶん、私も、そうだと思います。それは夏樹さんに限らず、雪子の方も、夏樹さんに会いたいと思っていたと思います。とはいっても、私が、そんな雪子の想いを知ったのは、つい一年ほど前だったんですけど。でも、それなら、お互いの願いが叶ったのだから・・・」

「きっと、夏樹様は、ご自分の存在が、この先、必ず、雪子様を苦しめてしまう。そう、思われたのだと思います」

「それじゃ、まるで、雪子が夏樹さんに会いに行った事が、かえって夏樹さんを追い詰めるような結果になってしまったみたいで、雪子が・・・」

「はい、そうかもしれません」

「そんな・・・」

「雪子様が消息不明の今、私が、このような言い方をするのは少し不謹慎かもしれませんが、今の、雪子様の心は、穏やかな幸せを感じているのではないかと思えるのです」

「雪子が・・・」

「雪子様とは、雪子様がこの街に引っ越してきて、この喫茶店を見つけて頂いてからのお付き合いになりますから、もう、約30年近くになります。雪子様が、初めて、そこのドアから入ってきた時のお姿は、今でも、鮮明に覚えているんですよ。その日から、週に必ず一度か二度、この喫茶店に来られて、一番奥の席で、いつも、ミルクティをご注文なさりながら、好きな小説を読んでおられました」

「30年・・・もう、そんなになるんですね」

「時の経つのは早いもので、今では、私もすっかり白髪になってしまいました。その長い年月の間、ずっと、雪子様を見てきました。だからなのかもしれませんが、今の雪子様の気持ちが何となく分かるんです」

「う~ん・・・私には、相変わらず雪子の考えがよく分からないというか」

「それは、雪子様と、とても近い距離におられたからだと思います」

「でも、夏樹さんは、私よりも雪子とは近い距離だったと思うのですが、どうして私だけが分からないのでしょうか?」

「ははは・・・それは、友達と恋人では初めから見る視点が違いますし、お互いが求める物も友達のそれとはまるで違いますから」

「う~ん・・・ちょっと、悔しいような」

「そんな事はありません。今も、昔も、雪子様のお力になれるは裕子様だけなのですから。私などは、いくら雪子様のお気持ちが理解出来たとしても、何のお力にもなれないんです。ただ、遠くで見守ってあげるくらいしか出来ないのですから」

「そんな事はないですよ。今も、こうしてマスターには相談に乗って頂いているのですから。もし、マスターがいなかったら、私一人では、雪子の気持や想いとか何も分からないまま、ただ、迷子みたいになっていたと思うんです。なので、いつも、マスターには感謝しているんですよ」

「有難う御座います。そう言って頂けると、とても嬉しく思います」

「そう言えば、先程、マスターが言っていました夢の途中というのは?」

「その事ですが、何と説明したらいいのか。おそらくは、雪子様は、まだ、夏樹様と再会する前のままの世界にいるのではないかと」

「夏樹さんと再会する前?」

「はい、これも、推測になりますが、夏樹様と再会した後の現実と、再会する前の雪子様だけの空想の中の甘い世界、それが、夏樹様と再会した事によって、より強く空想の世界に入り込んでしまわれたのではないかと思います」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...