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消えていく未来
消えていく未来・・・その2
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「命の天秤・・・」
・・・マスターは、そう呟いて、窓の外の景色に視線を漂わせてから言葉を続けた。
「正直、言いまして、私はある事に驚いているんです」
「ある事と言いますのは?」
「はい、実は、命の天秤に自分の命を乗せるのは、夏樹様の方だとばかり思っていたのです。そして、それで全てが終わりを告げる、いえ、夏樹様の意思で、全てを終わらせるつもりなのだとばかり・・・」
「それじゃ、どうして雪子が・・・?」
「そこなのです、私は、雪子様は夏樹様と生きる方を選ぶのだとばかり思っていましたから。それゆえに、雪子様は夏樹様を思い止まらせるために、自らの家庭をも捨てて姿を消したのだと。なので、裕子様から、雪子様が、夏樹様に会ったその後を探さないで欲しいというのもうなずけたのですが・・・ですが、途中から、何かが、すり替わっていったように思えてしまうのです」
「何かが、すり替わっていった・・・?」
「はい、裕子様から聞かされました雪子様の言動や行動が、いつからか、ちぐはぐになっていたと言いますか・・・」
「ちぐはぐに?私は、全然、気がつきませんでしたけど」
「例えば、裕子様や愛奈様が、夏樹様に会いに来る事を、雪子様は知っておられたとか、これでは、夏樹様にお会いになられた後を探さないで欲しいは当てはまらないと思うのです。他にもいくつかあるのですが、私とした事が。雪子様が、長い間時計の中に隠していた指輪を、ふたたび手にした時に気付くべきでした」
「指輪は、夏樹さんとの唯一の思い出の品なのだから、それを持って夏樹さんのところへ・・・ではないのですか?」
「はい、私も、そう思っておりました。ですが・・・対価の罪、命の天秤、もしかして、雪子様がその先に見ているものは、おそらく、夢の途中なのではないでしょうか?」
「夢の途中・・・?」
「雪子様は、初めから、夏樹様と一緒に生きる事は考えていなかったのかもしれません」
「初めからって・・・それじゃ、雪子は」
「それゆえに、夏樹様より早く、雪子様は、自分の命を天秤に乗せてしまった。いえ、乗せなければならなかった、夏樹様が、自分の命を天秤に乗せてしまう前にと・・・。前に言いましたように、夏樹様ではなく、雪子様の方が、夏樹様を誰よりも理解しているのだとしたら、夏樹様の選ぶであろう選択肢も分かっていたはずです。だからこそ、雪子様は、夏樹様よりも早く天秤にご自分の命を乗せてしまわなければならなかった。これが、雪子様が夏樹様に会うまでの空白の時間の真相ではないでしょうか?」
「それは、いったい・・・」
「はい、簡単に言いますと、雪子様が姿を消した瞬間に、夏樹様は、自分の命を天秤に乗せる事が出来なくなってしまったのだと思います。姿を消した瞬間、雪子様は、自分の命を天秤に乗せてしまったのですから」
「それで、雪子は、夏樹さんに会う日よりも早く家を出てしまったという事なのでしょうか?」
「おそらくは・・・。それに、雪子様が家を出られた事は、すぐに、裕子様から夏樹様の方へ連絡をするのは自然の流れ、そして、裕子様の連絡によって、夏樹様は、雪子様のお取りになった行動を推測する事を雪子様は知っていたとすれば・・・」
「それに気がついた夏樹さんは、命の天秤を使えなくなってしまう・・・」
「はい、それゆえに、記憶にある夏樹様との思い出を繋ぎ合わせているのでは・・・。私に、はそんな風に思えてしまうのです」
「それじゃ、あの指輪はいったい・・・」
「きっと、雪子様にとって、あの指輪は夏樹様そのものなのではないでしょうか?」
「それじゃ、先程、マスターがおっしゃっていた、まだ、私たちが知らない雪子の何かというのは・・・」
「それは私にも分かりませんが、一つだけ、言える事があります」
「一つだけ・・・?」
「雪子様が選んだ命の天秤は、雪子様の本当の願いではないのかもしれないと私には思えるのです」
「それって、夏樹さんに生きる方を選んで欲しいという願いが、雪子の、ほんとの願いではないという事なのでしょうか?」
「おそらくは・・・」
「それじゃ、雪子の、ほんとの願いって、いったい・・・」
「残念ながら、それは、私にも分かりません。ですが、もしかしたら、夏樹様は知っておられるのではないでしょうか?」
「夏樹さんが・・・?」
「確信はありませんが、もしかしたら、その事と、夏樹様が、雪子様を捜されない事と何か関係があるのでは?もしそうだとすれば、夏樹様が、雪子様を捜そうとしないのも納得出来るのですが」
「それじゃ、夏樹さんは、必ず、雪子は生きて夏樹さんに会いに来ると・・・」
「それゆえに、冴ちゃんという娘さんが、雪子様にとっても、天使かもしれないと言っておられたのではないかと思うのです」
裕子は、夏樹と雪子は、昔の恋人同士が再開して、
それぞれの想いの中でふたたび結ばれていくのだろうと思っていた。
確かに、35年という歳月は、その二人のそれぞれに生きてきた歴史があるのだから、
ふたたび結ばれるにしても、それなりの苦難や犠牲はつきものだとは思ってはいたが。
まさか、これ程に複雑な想いが、夏樹と雪子の中にあるとは思ってもみなかったのである。
・・・マスターは、そう呟いて、窓の外の景色に視線を漂わせてから言葉を続けた。
「正直、言いまして、私はある事に驚いているんです」
「ある事と言いますのは?」
「はい、実は、命の天秤に自分の命を乗せるのは、夏樹様の方だとばかり思っていたのです。そして、それで全てが終わりを告げる、いえ、夏樹様の意思で、全てを終わらせるつもりなのだとばかり・・・」
「それじゃ、どうして雪子が・・・?」
「そこなのです、私は、雪子様は夏樹様と生きる方を選ぶのだとばかり思っていましたから。それゆえに、雪子様は夏樹様を思い止まらせるために、自らの家庭をも捨てて姿を消したのだと。なので、裕子様から、雪子様が、夏樹様に会ったその後を探さないで欲しいというのもうなずけたのですが・・・ですが、途中から、何かが、すり替わっていったように思えてしまうのです」
「何かが、すり替わっていった・・・?」
「はい、裕子様から聞かされました雪子様の言動や行動が、いつからか、ちぐはぐになっていたと言いますか・・・」
「ちぐはぐに?私は、全然、気がつきませんでしたけど」
「例えば、裕子様や愛奈様が、夏樹様に会いに来る事を、雪子様は知っておられたとか、これでは、夏樹様にお会いになられた後を探さないで欲しいは当てはまらないと思うのです。他にもいくつかあるのですが、私とした事が。雪子様が、長い間時計の中に隠していた指輪を、ふたたび手にした時に気付くべきでした」
「指輪は、夏樹さんとの唯一の思い出の品なのだから、それを持って夏樹さんのところへ・・・ではないのですか?」
「はい、私も、そう思っておりました。ですが・・・対価の罪、命の天秤、もしかして、雪子様がその先に見ているものは、おそらく、夢の途中なのではないでしょうか?」
「夢の途中・・・?」
「雪子様は、初めから、夏樹様と一緒に生きる事は考えていなかったのかもしれません」
「初めからって・・・それじゃ、雪子は」
「それゆえに、夏樹様より早く、雪子様は、自分の命を天秤に乗せてしまった。いえ、乗せなければならなかった、夏樹様が、自分の命を天秤に乗せてしまう前にと・・・。前に言いましたように、夏樹様ではなく、雪子様の方が、夏樹様を誰よりも理解しているのだとしたら、夏樹様の選ぶであろう選択肢も分かっていたはずです。だからこそ、雪子様は、夏樹様よりも早く天秤にご自分の命を乗せてしまわなければならなかった。これが、雪子様が夏樹様に会うまでの空白の時間の真相ではないでしょうか?」
「それは、いったい・・・」
「はい、簡単に言いますと、雪子様が姿を消した瞬間に、夏樹様は、自分の命を天秤に乗せる事が出来なくなってしまったのだと思います。姿を消した瞬間、雪子様は、自分の命を天秤に乗せてしまったのですから」
「それで、雪子は、夏樹さんに会う日よりも早く家を出てしまったという事なのでしょうか?」
「おそらくは・・・。それに、雪子様が家を出られた事は、すぐに、裕子様から夏樹様の方へ連絡をするのは自然の流れ、そして、裕子様の連絡によって、夏樹様は、雪子様のお取りになった行動を推測する事を雪子様は知っていたとすれば・・・」
「それに気がついた夏樹さんは、命の天秤を使えなくなってしまう・・・」
「はい、それゆえに、記憶にある夏樹様との思い出を繋ぎ合わせているのでは・・・。私に、はそんな風に思えてしまうのです」
「それじゃ、あの指輪はいったい・・・」
「きっと、雪子様にとって、あの指輪は夏樹様そのものなのではないでしょうか?」
「それじゃ、先程、マスターがおっしゃっていた、まだ、私たちが知らない雪子の何かというのは・・・」
「それは私にも分かりませんが、一つだけ、言える事があります」
「一つだけ・・・?」
「雪子様が選んだ命の天秤は、雪子様の本当の願いではないのかもしれないと私には思えるのです」
「それって、夏樹さんに生きる方を選んで欲しいという願いが、雪子の、ほんとの願いではないという事なのでしょうか?」
「おそらくは・・・」
「それじゃ、雪子の、ほんとの願いって、いったい・・・」
「残念ながら、それは、私にも分かりません。ですが、もしかしたら、夏樹様は知っておられるのではないでしょうか?」
「夏樹さんが・・・?」
「確信はありませんが、もしかしたら、その事と、夏樹様が、雪子様を捜されない事と何か関係があるのでは?もしそうだとすれば、夏樹様が、雪子様を捜そうとしないのも納得出来るのですが」
「それじゃ、夏樹さんは、必ず、雪子は生きて夏樹さんに会いに来ると・・・」
「それゆえに、冴ちゃんという娘さんが、雪子様にとっても、天使かもしれないと言っておられたのではないかと思うのです」
裕子は、夏樹と雪子は、昔の恋人同士が再開して、
それぞれの想いの中でふたたび結ばれていくのだろうと思っていた。
確かに、35年という歳月は、その二人のそれぞれに生きてきた歴史があるのだから、
ふたたび結ばれるにしても、それなりの苦難や犠牲はつきものだとは思ってはいたが。
まさか、これ程に複雑な想いが、夏樹と雪子の中にあるとは思ってもみなかったのである。
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