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霞んでいく記憶
霞んでいく記憶・・・その20
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「もし、あたしが冷たい感情の人間なら、雪子の最後の願いでさえ平気で踏みにじるだろうし、そんでもって、世間体的にでも優しい人間を演じて、悲しむ顔をしながら影で舌でもペロリと出して、楽しい日々を過ごすだろうしね」
「いや、あの~、そこまで、はっきりと言わなくても・・・でも、それって、お母さんの望みが叶う事にもなるんじゃないんですか?ある意味においてですけど」
「雪子が、どんな、あたしでも生きていて欲しいって?」
「はい・・・違うんですか?」
「だから困るのよね~まったく、もう~、やだわん!」
やだわんって・・・あのですね・・・
「雪子ってね、猫と同じなの。愛して、愛して、私を愛してって!・・・。でもね、猫の言葉は人には伝わらないのよ」
「えっ・・・?」
「もし、雪子が死んだら、あたしも後を追って死ぬ?でも、それじゃ、雪子の願いは永遠にあたしには届かないの」
「・・・」
「でもね、愛奈ちゃん、もし、雪子がだけが死んで、あたしが生きたとしても同じなの、雪子の願いは、あたしには届かないのよ」
「・・・」
「メルヘンチックなドラマでもあるまいし、ちゃんと声に出して伝えなければ、心の想いも心の願いも届かないの」
「・・・」
「それなのに雪子はそれでもいいと思っているの。たとへ、自分の願いを知ってもらえなくても、あたしが生きる事を選んでくれたのなら・・・。命の天秤、悲しいけど、雪子はその言葉の意味を知っているのよね・・・」
「夏樹さんの命を守るために、お母さんは、自分の命を天秤に乗せようとしているんですね」
「そして、自分の命の終わりとともに、家族を裏切った罪の償いにも終止符を打とうとしているの、ってかさ、そんな事をしたら、なおさら、あたしは、愛奈ちゃんの家族に恨まれちゃうっていうのに、もう・・・そう思わない愛奈ちゃん?」
「ふふっ・・・」・・・夏樹さんって。やっぱり変わってる。
でも、きっと、それが夏樹さんの気遣いなんだろうな・・・悲しい話も笑いに変えちゃうし。
それでも、話を変えたりはぐらかしたりしながら笑いを取るんじゃなくて、
真実から逃げないで、真っすぐに見つめたままで笑いに変えちゃうんだから。
きっと、真っすぐな人なのね、夏樹さんって・・・。
でも、その真っすぐな性格の夏樹さんが、どうして女装なるのかしら?う~ん、不思議だわ。
「自分の命を天秤に乗せる事で守りたい相手に有無も言わせない・・・雪子って、可愛いでしょ?」
「いえ・・あの、そう訊かれましても」
「あたしと一緒に生きるか、それとも、あたしの心の中で生きるか、雪子は、今、どちらで生きるかを悩んでいるのよ」
「それが、今の、お母さん・・・というか、あの、それって、どこにも私たち家族が入ってないんですけど」
「あはは、雪子なりの気遣いなのよ」
「そんなあ・・・」
「あはは、でも、これで、愛奈ちゃんはあたしに会いに来れるわね?」
「はい・・・もう、大丈夫です」
「あたしが冷たい人でいなければならないのは、雪子の本当の願いを叶えるため」
「あの・・・お母さんの本当の願いって?」
愛奈は、自分の言葉に、夏樹が少しの間を置いていく時間の中で、
電話の向こうにいる夏樹の表情が男の顔に戻ってるのを感じたような気がしていた。
そして、夏樹は静かに言葉を声にする・・・
「愛して欲しいと言えたなら・・・」
「えっ・・・?」
「雪子の本当の願いは、雪子自身が、自分の口で自分の言葉で、あたしへの想いと願いを、あたしに伝える事なの」
「・・・」
「きっと、雪子の事だから、あたしの写真を見ただけで、あたしが何を考えているのかがすぐに分かったんだと思うの」
「夏樹さんの写真ですか?」
「そうよ、裕子が雪子に見せたみたいなの、今の夏樹は女になっちゃってるわよって」
「ふふっ・・・でも、どうして写真を見ただけで、夏樹さんが考えている事が分かっちゃうんですか?」
「さあね、そこが雪子の不思議なとこなんだけど。それで、生まれたのが今回の雪子の騒動ってわけなの、きっと、雪子にはすぐに分かっちゃったんだろうね、あたしが、自分の人生を終わらせようとしていた事が」
「・・・」
「だから、雪子はあたしに会いに来た、雪子が感じた不安が本当かどうかを確かめるために」
「それって、もしかして、去年の12月31日の大晦日?」
「そうよ、だから、あたしを助けようとする雪子の願いは、その瞬間に生まれた願いなの」
「でも、お母さんは夏樹さんの写真を34年ぶりに見て・・・」
「それじゃ、それまでの雪子の願いはどこにあるのかしら?あたしと別れてから色々な恋をして、今の旦那と出会って、そして、結婚して幸せな家庭を築いて、それが、雪子の本当の願いなら、あたしに会いに来たりはしないはずよ?」
「そう言われると、なんとなく分かるようなお母さんだったかも?」
「生きている矛盾・・・きっと、雪子の生きてきた月日は、生きている矛盾の月日なんじゃないかしら。だから、雪子自身の意思で、雪子自身の口からそれを伝えなければ、雪子は、ずっとあの日のまま、そして、この先も、ずっと暗い海の底で一人ぼっちで貝のように心を閉ざしたままなのよ」
「・・・」
「だから、あたしは、けっして手を差し伸べてなんてしてあげないの。雪子が、あたしに生きて欲しいって願いなんて聞いてあげないの。甘えているだけでは何も伝わらないの、誰かのためだけに生きても、何も手にする事は出来ないの、一つくらい、自分のために自分だけの願いを訊いてあげなければ、誰でもない、雪子自身が一番可哀そうなのよ」
「・・・」
「雪子のためだけにある願い・・・これが、雪子の心の中にある本当の願いなの・・・。そして、その願いを叶えてあげられるのは、この世界の中であたし一人だけ。だから、言ったでしょ?雪子を死なせないわよって」
愛奈は、夏樹の言葉がとても嬉しかった。
「いや、あの~、そこまで、はっきりと言わなくても・・・でも、それって、お母さんの望みが叶う事にもなるんじゃないんですか?ある意味においてですけど」
「雪子が、どんな、あたしでも生きていて欲しいって?」
「はい・・・違うんですか?」
「だから困るのよね~まったく、もう~、やだわん!」
やだわんって・・・あのですね・・・
「雪子ってね、猫と同じなの。愛して、愛して、私を愛してって!・・・。でもね、猫の言葉は人には伝わらないのよ」
「えっ・・・?」
「もし、雪子が死んだら、あたしも後を追って死ぬ?でも、それじゃ、雪子の願いは永遠にあたしには届かないの」
「・・・」
「でもね、愛奈ちゃん、もし、雪子がだけが死んで、あたしが生きたとしても同じなの、雪子の願いは、あたしには届かないのよ」
「・・・」
「メルヘンチックなドラマでもあるまいし、ちゃんと声に出して伝えなければ、心の想いも心の願いも届かないの」
「・・・」
「それなのに雪子はそれでもいいと思っているの。たとへ、自分の願いを知ってもらえなくても、あたしが生きる事を選んでくれたのなら・・・。命の天秤、悲しいけど、雪子はその言葉の意味を知っているのよね・・・」
「夏樹さんの命を守るために、お母さんは、自分の命を天秤に乗せようとしているんですね」
「そして、自分の命の終わりとともに、家族を裏切った罪の償いにも終止符を打とうとしているの、ってかさ、そんな事をしたら、なおさら、あたしは、愛奈ちゃんの家族に恨まれちゃうっていうのに、もう・・・そう思わない愛奈ちゃん?」
「ふふっ・・・」・・・夏樹さんって。やっぱり変わってる。
でも、きっと、それが夏樹さんの気遣いなんだろうな・・・悲しい話も笑いに変えちゃうし。
それでも、話を変えたりはぐらかしたりしながら笑いを取るんじゃなくて、
真実から逃げないで、真っすぐに見つめたままで笑いに変えちゃうんだから。
きっと、真っすぐな人なのね、夏樹さんって・・・。
でも、その真っすぐな性格の夏樹さんが、どうして女装なるのかしら?う~ん、不思議だわ。
「自分の命を天秤に乗せる事で守りたい相手に有無も言わせない・・・雪子って、可愛いでしょ?」
「いえ・・あの、そう訊かれましても」
「あたしと一緒に生きるか、それとも、あたしの心の中で生きるか、雪子は、今、どちらで生きるかを悩んでいるのよ」
「それが、今の、お母さん・・・というか、あの、それって、どこにも私たち家族が入ってないんですけど」
「あはは、雪子なりの気遣いなのよ」
「そんなあ・・・」
「あはは、でも、これで、愛奈ちゃんはあたしに会いに来れるわね?」
「はい・・・もう、大丈夫です」
「あたしが冷たい人でいなければならないのは、雪子の本当の願いを叶えるため」
「あの・・・お母さんの本当の願いって?」
愛奈は、自分の言葉に、夏樹が少しの間を置いていく時間の中で、
電話の向こうにいる夏樹の表情が男の顔に戻ってるのを感じたような気がしていた。
そして、夏樹は静かに言葉を声にする・・・
「愛して欲しいと言えたなら・・・」
「えっ・・・?」
「雪子の本当の願いは、雪子自身が、自分の口で自分の言葉で、あたしへの想いと願いを、あたしに伝える事なの」
「・・・」
「きっと、雪子の事だから、あたしの写真を見ただけで、あたしが何を考えているのかがすぐに分かったんだと思うの」
「夏樹さんの写真ですか?」
「そうよ、裕子が雪子に見せたみたいなの、今の夏樹は女になっちゃってるわよって」
「ふふっ・・・でも、どうして写真を見ただけで、夏樹さんが考えている事が分かっちゃうんですか?」
「さあね、そこが雪子の不思議なとこなんだけど。それで、生まれたのが今回の雪子の騒動ってわけなの、きっと、雪子にはすぐに分かっちゃったんだろうね、あたしが、自分の人生を終わらせようとしていた事が」
「・・・」
「だから、雪子はあたしに会いに来た、雪子が感じた不安が本当かどうかを確かめるために」
「それって、もしかして、去年の12月31日の大晦日?」
「そうよ、だから、あたしを助けようとする雪子の願いは、その瞬間に生まれた願いなの」
「でも、お母さんは夏樹さんの写真を34年ぶりに見て・・・」
「それじゃ、それまでの雪子の願いはどこにあるのかしら?あたしと別れてから色々な恋をして、今の旦那と出会って、そして、結婚して幸せな家庭を築いて、それが、雪子の本当の願いなら、あたしに会いに来たりはしないはずよ?」
「そう言われると、なんとなく分かるようなお母さんだったかも?」
「生きている矛盾・・・きっと、雪子の生きてきた月日は、生きている矛盾の月日なんじゃないかしら。だから、雪子自身の意思で、雪子自身の口からそれを伝えなければ、雪子は、ずっとあの日のまま、そして、この先も、ずっと暗い海の底で一人ぼっちで貝のように心を閉ざしたままなのよ」
「・・・」
「だから、あたしは、けっして手を差し伸べてなんてしてあげないの。雪子が、あたしに生きて欲しいって願いなんて聞いてあげないの。甘えているだけでは何も伝わらないの、誰かのためだけに生きても、何も手にする事は出来ないの、一つくらい、自分のために自分だけの願いを訊いてあげなければ、誰でもない、雪子自身が一番可哀そうなのよ」
「・・・」
「雪子のためだけにある願い・・・これが、雪子の心の中にある本当の願いなの・・・。そして、その願いを叶えてあげられるのは、この世界の中であたし一人だけ。だから、言ったでしょ?雪子を死なせないわよって」
愛奈は、夏樹の言葉がとても嬉しかった。
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