319 / 386
霞んでいく記憶
霞んでいく記憶・・・その19
しおりを挟む
「本当は、愛奈ちゃん、あたしに会いに来たかったんでしょ?」
「えっ?分かるんですか?」
「そんなの、分かるわよ。もし、もう一度、あたしのところまで一人で来れるなら?・・・でしょ?」
「はい。でも、裕子さんと一度しか行った事がないので、一人で迷わないで行けるかどうか、ちょっと、不安だったんです」
「違うでしょ?まったく、もう!この子は。あやつに似て素直じゃないんだから」
「へっ・・・?」
「本当は、あたしを殺したいほど憎んでるくせに、無理しちゃって」
「いや・・・あの・・・」
「もう、本当に、困った子ね?」
「・・・あの・・・どうして、それを・・・」
「愛奈ちゃんの大好きなお母さんだから、誰よりも、お母さんの幸せを大切にしたいんでしょ?」
「・・・」
「だから、あたしに会いに来た時に、どうしても許せなかった。雪子があたしを選んだ事ではなく、行方不明になっている雪子を探しもしない、心配もしない。それどころか、そんな雪子をほっといて、呑気な日常を過ごしているあたしが許せなかった・・・違う?」
「どうして・・・?」
「だから、一人ではあたしに会いに来れなかった・・・もう、ほんとに可愛いんだから愛奈ちゃんって」
「だから、どうして・・・?」
「もし、愛奈ちゃんが一人であたしに会いに来たら、きっと、あたしを傷つけてしまう。そしたら大好きなお母さんを悲しませてしまう。なのに、自分の中にある衝動を抑える自信が持てなかった・・・って、とこかしら?」
信じられなかった・・・
愛奈は、その思いだけは、夏樹には悟られないようにと、
最新の注意を払っていたはずであり、絶対に悟られていないと確信していたはずだった。
それなのに・・・なぜ?
それなのに、なぜなの?・・・なぜ、夏樹さんには分かるの?
「愛奈ちゃん、あたしが言った言葉を覚えてるかしら?」
「はい・・・」
「あの言葉にはね、もう一つ、隠された意味があるのよ。人は、心の中にもう一つの扉を持ってるの、その扉を開いた部屋の中には、誰にも隠したい想いや誰にも知られたくない過去、そして、自分でも気がつかない本当の自分の姿。でもね、その部屋の一番奥に、もう一つ、扉があるのよ。その扉の向こうにあるのは、自分の衝動を解き放つための鍵が隠されているの」
「もしかして、夏樹さんはそれを知っていたから、私に、憎むなら夏樹さんをって・・・」
「そうしないと、行き場をなくしたどうにもならない愛奈ちゃんの感情が、今度は、愛奈ちゃん自身を攻撃し始めてしまうの。もし、そんな事になったら、愛奈ちゃんは一番大好きなお母さんを悲しませてしまうからなのよ」
「・・・」
「愛奈ちゃんが、その隠された扉の向こうにある鍵の存在に気がついているって分かったからなの」
「・・・」
「その隠された扉の向こうにある鍵の存在を知らなければ、日々の日常の中の喜怒哀楽。でも、その鍵の存在を知ってしまうと、交差する想いが悲しい未来に引き寄せられてしまうの」
「・・・」
「だから、最初の電話の時から、あたしに会う事にためらわなかったし会いたかった・・・でしょ?でしょ?でしょ?」
「でしょ?でしょ?でしょ?って、あの・・・そこはですね・・・」
「あはは。そうだわ、愛奈ちゃんに、あたしの持論の中からひとつ教えてあげるわね。怒りはいつか笑いに変わるけど、悲しみと寂しさは、人の心を狂気に変えてしまうの」
「だから、夏樹さんを憎めと・・・」
「憎しみは怒りと同じようなものだからね。どちらも、誰かに向けられる刃なの」
「全部、見透かされていたなんて、やっぱり、夏樹さんにはかなわないです」
「そんな事ないわよ、雪子に比べたら、あたしなんて赤子みたいなものなんだから」
「そうなんですか?」
「そうよ、考えてもみなさいな、雪子ったら、あたしに何一つ言わないで姿を消したのよ。これで、もし、あたしが雪子の本当の願いに気がつかなかったらって思うと、今でも、ゾッとするわよ」
お母さんの本当の願い・・・?
「えっ?分かるんですか?」
「そんなの、分かるわよ。もし、もう一度、あたしのところまで一人で来れるなら?・・・でしょ?」
「はい。でも、裕子さんと一度しか行った事がないので、一人で迷わないで行けるかどうか、ちょっと、不安だったんです」
「違うでしょ?まったく、もう!この子は。あやつに似て素直じゃないんだから」
「へっ・・・?」
「本当は、あたしを殺したいほど憎んでるくせに、無理しちゃって」
「いや・・・あの・・・」
「もう、本当に、困った子ね?」
「・・・あの・・・どうして、それを・・・」
「愛奈ちゃんの大好きなお母さんだから、誰よりも、お母さんの幸せを大切にしたいんでしょ?」
「・・・」
「だから、あたしに会いに来た時に、どうしても許せなかった。雪子があたしを選んだ事ではなく、行方不明になっている雪子を探しもしない、心配もしない。それどころか、そんな雪子をほっといて、呑気な日常を過ごしているあたしが許せなかった・・・違う?」
「どうして・・・?」
「だから、一人ではあたしに会いに来れなかった・・・もう、ほんとに可愛いんだから愛奈ちゃんって」
「だから、どうして・・・?」
「もし、愛奈ちゃんが一人であたしに会いに来たら、きっと、あたしを傷つけてしまう。そしたら大好きなお母さんを悲しませてしまう。なのに、自分の中にある衝動を抑える自信が持てなかった・・・って、とこかしら?」
信じられなかった・・・
愛奈は、その思いだけは、夏樹には悟られないようにと、
最新の注意を払っていたはずであり、絶対に悟られていないと確信していたはずだった。
それなのに・・・なぜ?
それなのに、なぜなの?・・・なぜ、夏樹さんには分かるの?
「愛奈ちゃん、あたしが言った言葉を覚えてるかしら?」
「はい・・・」
「あの言葉にはね、もう一つ、隠された意味があるのよ。人は、心の中にもう一つの扉を持ってるの、その扉を開いた部屋の中には、誰にも隠したい想いや誰にも知られたくない過去、そして、自分でも気がつかない本当の自分の姿。でもね、その部屋の一番奥に、もう一つ、扉があるのよ。その扉の向こうにあるのは、自分の衝動を解き放つための鍵が隠されているの」
「もしかして、夏樹さんはそれを知っていたから、私に、憎むなら夏樹さんをって・・・」
「そうしないと、行き場をなくしたどうにもならない愛奈ちゃんの感情が、今度は、愛奈ちゃん自身を攻撃し始めてしまうの。もし、そんな事になったら、愛奈ちゃんは一番大好きなお母さんを悲しませてしまうからなのよ」
「・・・」
「愛奈ちゃんが、その隠された扉の向こうにある鍵の存在に気がついているって分かったからなの」
「・・・」
「その隠された扉の向こうにある鍵の存在を知らなければ、日々の日常の中の喜怒哀楽。でも、その鍵の存在を知ってしまうと、交差する想いが悲しい未来に引き寄せられてしまうの」
「・・・」
「だから、最初の電話の時から、あたしに会う事にためらわなかったし会いたかった・・・でしょ?でしょ?でしょ?」
「でしょ?でしょ?でしょ?って、あの・・・そこはですね・・・」
「あはは。そうだわ、愛奈ちゃんに、あたしの持論の中からひとつ教えてあげるわね。怒りはいつか笑いに変わるけど、悲しみと寂しさは、人の心を狂気に変えてしまうの」
「だから、夏樹さんを憎めと・・・」
「憎しみは怒りと同じようなものだからね。どちらも、誰かに向けられる刃なの」
「全部、見透かされていたなんて、やっぱり、夏樹さんにはかなわないです」
「そんな事ないわよ、雪子に比べたら、あたしなんて赤子みたいなものなんだから」
「そうなんですか?」
「そうよ、考えてもみなさいな、雪子ったら、あたしに何一つ言わないで姿を消したのよ。これで、もし、あたしが雪子の本当の願いに気がつかなかったらって思うと、今でも、ゾッとするわよ」
お母さんの本当の願い・・・?
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。


白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる