愛して欲しいと言えたなら

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霞んでいく記憶

霞んでいく記憶・・・その12

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「あの・・・何となく、省吾君が、夏樹さんに資金援助みたいな事を望んでいるのは思い当たる節があったような気がするんですけど、今は、昔と違ってネットの時代なのだから、パソコンとかでっては考えないものなのかなって?」

「それなりにやってみたんじゃないの?今は、色んなお金儲けの方法があるし。特に、ネット時代になってからは、少ない資金で大きな利益が可能にもなったからね。でもね、だからといって世の中に出回ってるお金が増えたってわけじゃないのよ。お金の行き先が変わっただけの事なの、だから、ネットで儲けている人なんてごく少数だし、その中で、なんとか地に足を着けれている人なんて、その中のまたごくごく一部なのよ」

「そっか・・・」

「ネットの中だけで儲けるって、努力すればなんとかなるような世界じゃないから、生まれ持った才能がないとまず無理なの。だから、ネットの中だけで儲けるビジネスではなく、ネットを新しい流通機関として使うビジネスを模索する人が多いんじゃないかしら?」

「あっ、そういえば、省吾君もネットで何かを売ってみたいとかって。えっと、確か、最初は自動車のパーツがどうとかって言っていたような・・・」

「妥当な線ね。でも、長くやるなら、何かを生産するような方がいいかもね」

「何かを生産・・・ですか?」

「何でもいいのよ。お花でも絵本でも、食べ物以外なら何でもね」

「どうして、食べ物はダメなんですか?」

「食べ物は、よほど知識がないと難しいし、人の口に入るものだから何かあったりしたら大変でしょ?」

「あっ、なるほど!」

「とでも、言っといたらいいんじゃない?」

「あっ、はい、了解です!」

思わず了解ですって!言っちゃったけど、やっぱり、夏樹さんは父親なんだわ。
軽く突き放すような事を言っておきながら、協力を求めるならそれなりに事業内容を考えなさいって。

「違うわよ!」

「へっ・・・?」・・・ん、もう~。だから、どうして分かっちゃうのよ。

「んな事より、京子の事を頼むわよ!」

「あっ、はい。」・・・
というか、(違うわよ!)の方を説明して欲しいと思う私は間違ってないと思う。

「夫婦も親子も金次第って・・・そんな風に考えてしまうあたしって、どこか哀れよね?」

「えっ・・・?」

「まあ、そのうちあたしを訪ねて来なさい。その時に詳しく話してあげるから」

「いいんですか・・・?」

「どうして?」

「どうしてって言われましても・・・あの・・・」

「雪子の事かしら?」

「はい・・・だって、あの・・・」

「あやつは、そんなの気にしないわよ。あやつの辞書には独占という文字がないんだから」

「はあ・・・」

「まあ、いいわ。近いうちに、あんたはあたしに会いに来るはずだから」

「はい・・・?」

夏樹の言う言葉の意味がよく分からないまま会話を終えた直美は、
いつものように、嬉しそうに缶コーヒーに話かけていた。

でも、どうして、私が、夏樹さんに会いに行く事になるんだろう?
夏樹さんと省吾君の橋渡しのお話なのかしら?
それとも、京子が何か関係しているのかしら?

とりあえず、京子のお見舞いに行っておいた方がよさそうよね?
それに、省吾君の言ってた事も気になるし。

直美が、京子が入院している病院に車を走らせている頃、
裕子は、いつも雪子と会っていた喫茶店へと向かっていた。

雪子が夏樹と会う前に、どうしても喫茶店のマスターと会って話を聞きたいと思ったからなのだが。
おそらく、雪子が、突然、姿を消してからの空白の時間が長すぎる事が、
裕子自身の不安を増幅していくからなのかもしれない。

どうしても、分からないのよね・・・。
マスターは、雪子は生きる方を選んだと言っていたし、
夏樹さんは、雪子は、「生きなければダメだよ!」と、伝えるために会いに来ると言っていたけど。

それじゃ、どうして雪子は、夏樹さんに会いに行った後の自分を探さないで欲しいって言ったのかしら?
それに、マスターが言っていた(生きている矛盾)という言葉も、あれから気になって頭から離れないし・・・。

それに、雪子は、ほんとに夏樹さんに会いに行くのかしら?
ちょっと考えたくはないけど、雪子は、どんな姿で夏樹さんに会いに行くのかしらって?
そんな、怖くなるような想像まで、いつからか頭の中で生まれてしまっているし・・・。

何よりも、雪子の言ったあの一言・・・最初で最後のお願い・・・最後って、いったい・・・。
何となく嫌な予感がするのは気のせいだと思いたいのよ・・・。ねぇ、雪子・・・聞いてるの?

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