愛して欲しいと言えたなら

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霞んでいく記憶

霞んでいく記憶・・・その11

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夏樹にそう言われてみると、確かに、当てはまるような会話があったかもしれない。
省吾にしてみてもそうなのだが、もう20代も後半に差し掛かっているというのに、
定職にもつけず、未だにバイトの毎日である。

それでも、大手の会社というのなら、まだ、分かるのだが、
地元の中小企業はおろか、数十人規模の会社にも就職が出来ていないのが現状なのである。

これが、今の中卒の現実なのだろうか?
でも、中には中卒でもちゃんと就職が出来ている人だっているし、
定時制高校や通信教育で高卒の資格を取って頑張ってる人だっている。
それ以外にも、今はネットの時代なのだから、ネットで成功している個人もいるのも確かである。

「それで、夏樹さんは、どうするんですか?」

「どうするって、何を?」

「省吾君の事ですけど・・・」

「そうね、とりあえず、ほっといたらいいんじゃないかしら?」

「ほっといたらって・・・あの、それじゃ、ちょっと」

「ちょっと、何?可哀そう?」

「ええ、まあ・・・」

「そうね、確かに、あんたの言うように、ちょっと可哀そうかもしれないわね」

「それじゃ、どうして力を貸そうとしないんですか?」

「今、以上に可哀そうにならないように・・・かしらね」

「あの、どうして、夏樹さんが力を貸すと、今、以上に可哀そうな立場になってしまうんですか?京子ならまだ分かりますけど、省吾君は喜ぶと思うんですけど」

「あら、京子は、逆に喜ぶわよ」

「えっ?どうしてですか?」

「今の京子にとっては、息子たちはどっちも邪魔なだけなんじゃないかしら?」

「そんな、いくらなんでも、それは、ちょっと」

「ただ飯食べるだけでお金を家に入れるわけでもない。それでも、どこかにちゃんと就職でもしているならまだしも、どっちも、いい年して未だにバイト生活ときたら、そりゃ京子じゃなくても、そう思うんじゃないかしら?」

「でも、そんな事を言っても一応は親子なんだし、だから、省吾君たちを邪魔だなんて思ってないと思いますよ」

「あんた、ほんとに、そう思うの?」

「えっ・・・あの・・・」・・・直美は、言葉に詰まってしまった。

確かに、息子たちの事をどう思っているかと訊けば、それなりの一般的な答えが返ってくるのだろう。
でも、それは京子の本心なのかと言えば、必ずしもそうではないような気がしてしまうのである。

どう見ても、それほど仲がいいとは、お世辞にも言えないような気がするし、
どちらかといえば、息子たちの方が京子の家に勝手に住み着いているという感じに思えない事もない。

「分かったでしょ?金の切れ目が縁の切れ目を地で行ったようなあたしが言うんだから間違いないわよ」

「でも・・・」

「あのね、あたしがオブラートにでも包んだような表現なんかしてたら、問題の本筋も一緒に包まれてしまうから、解決するべきポイントまでぼやけてしまうのよ。その方が、もっと可哀そうなんじゃないかしら?」

「そうはいっても、ちょっとストレート過ぎるといいますか、何といいますか・・・です」

「何、言ってるのよ?息子は、あんたが、必ず、あたしに連絡をするはずだって思ったから、あんたに自分の立場と希望をさりげなく言ってみたんじゃないのよ?」

「えっ?そうなんですか?」

「そうよ。だから、そのあんたが、答えを持って帰らないと息子が困るんじゃないかしら?」

「答えって言われましても、私には、さっぱりって感じで・・・」

「それが、答えよ・・・」

「えっ・・・?」

「ほんと言うとね、あたしにも分からないのよ。どうしてあげたらいいのかが分からないの」

そういえば夏樹さん、さっきから一度も省吾君の名前を言ってないんじゃないかしら?
京子の名前はちゃんと言ってるのに、どうして、省吾君たちの名前は言わないんだろう。

もしかして、前に京子が言っていた「あの人は子供たちの事なんて眼中にない」って言葉は、
本当なんだろうか?・・・でも、どうしてあげたらいいのか分からないって・・・。

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