愛して欲しいと言えたなら

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霞んでいく記憶

霞んでいく記憶・・・その9

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冬の景色とは程遠い、白色が着色されない道路を走りながら、暖かい車内から見ていると、
秋の景色が少し色あせている感じに見えている外の景色が、窓を開けると別世界に一変してしまう。
車内の暖房で、少し火照っている頬に、冷たい冬の風がまとわりつく暇もなく通り過ぎていく。

直美は、省吾には、心配するくらいでもないからと、
何度か言い聞かせるように言葉を返すのだが、
ちょっと煮えきらないというか、納得しないというか、そんな感じの省吾だったので、
これからは、出来るだけ京子に会いに行って身の回りの世話などをするからと、
会話をまとめるように終わらせてから、省吾と別れてレストランを後にしてきた。

直美は、街を抜けて国道を走りながら、夏樹に連絡をしてみようかどうしようか考えていた。
もし、雪子が、もう夏樹に会いに行ってしまったとしたら、
もはや、京子の事は迷惑な問題になってしまうのだろうし、
もし、まだ、雪子が会いに行ってないとしても、それも、もう時間の問題なのだから。

ひとつの季節が、終わりを告げようとしている。
ひとつの人生が、終わりを告げようとしている。
そして、新しい季節が、新しい人生が始まろうとしている。

夏樹の新しい季節の中には、京子も、そして、直美自身も存在してはいけない・・・でも。
でも、もし、夏樹さんがそれを望んでいるのなら、私に、自分の連絡先や住所を教えたりするのかしら?

とりあえずコンビニにでも入って缶コーヒーを飲みながら考えましょう・・・
とはいっても、車載済みの38円コーヒーだけど・・・。

だって、コンビニだと1本でも、38円コーヒーなら、もれなく2本がついてくるもんね。
などと、ひとり言を呟きながら、最初に見えてきたコンビニに車を入れた。
後部座席のカメの形をした網目のカゴから、缶コーヒーを一本取り出すとふたを開けて一口。

省吾君には、出来るだけって言ってはみたけど、
私もパートの身だから、毎日ってわけにもいかないし。
それに、私が、急に毎日のように京子に会いに行くようになっりしたら、
京子も変に思うだろうし。

う~ん・・・、難しいんだわ。
でも、省吾君が心配するような悲観的な事は言ってなかったと思うけど・・・
やっぱり、私の前と子供たちの前では違うのかな?

それと、京子が、これからは実家にも頼れなくなるみたいな事を言ってたみたいだけど、
それでも一応は実家があるんだし、しかも、同じ街だし、んでもって、けっこう近くだし。

それに、別に実家と疎遠ってわけでもないんだから。
実家に頼れないっていうなら、私や京子よりも夏樹さんの方じゃないのかな?
夏樹さんの場合は、実家とは疎遠どころか完全に絶縁状態なわけだし。

確かに、夏樹さんには、雪子さんと、っていう未来もあるとは思うけど、
でも、それって、ここ1年くらいの出来事なわけでしょ?
考えてみれば、それまでは、夏樹さんには頼る人も頼れる人も一人もいなかったのよね?

それに比べたら、まだ、京子の方が恵まれてると思うんだけどな。
役に立つか立たないかは別として、息子が二人もいるんだから、
夏樹さんのように何から何まで一人でやらなければならないってわけでもないんだし。

人って、恵まれている事が当たり前になってしまうと、それに気がつかなくなっていくのかな?
んで、いつも自分よりも恵まれている人を探しては、見えない妬みをポケットにしまって、
反対側のポケットから何かを出してはまたしまって・・・そんな毎日の繰り返しなのかもしれない。

な~んて、私ったら、なんか詩人みたいなんだわん!
いえいえ、問題はそこじゃないのよ!
問題は、夏樹さんに電話をするべきか否かの方なのよね?

でも、考えてみればそうなのよね?
誰にも頼れないのは、夏樹さんの方なのよね?
それなのに、夏樹さんは、京子の心配をして、私に連絡先を教えてくれた。

悲しみを知った人と、悲しみの中で生きてきた人の違いなのかな?
きっと、夏樹さんは、ずっと悲しみの中で生きていたから、周りの悲しみが分かるのかもしれない。
でも、京子は、悲しみを知った方だから、逆に周りが見えなくなってしまっているのかもしれない。

う~ん・・・なんか、今日の私って良い感じかも?・・・じゃなくて
とりあえず京子のお見舞いに行って、少し話をしてからの方がいいと思うのでそうしましょう!

などと、一人で納得して、そのままスマホのボタンを押した。
あっ・・・夏樹さんに電話しちゃった。

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