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霞んでいく記憶
霞んでいく記憶・・・その8
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「ええ、まあ・・・片手間っていうか、そんな感じで・・・」
「ふ~ん・・・。それで、省吾君もやってみたくなったんだ」
「まあ、そんな感じっていうか。それに、今回、お母さんがあんな事になっちゃったし、それで、もし僕がどこかにバイトとかに行かないで、家で仕事とか出来たらって思ったもんですから」
「なるほど、それは一理あるわね。でも、自動車っていっても大きんだから、場所とか設備とか許可とかって色々かかるんじゃないの?」
「まあ、そうなんですけど、でも、家は畑とかあるから場所だけはなんとかなるかなって」
「それで、お母さんには相談してみたの?」
「別に、何もまだ・・・」
「まあ、言えないか・・・。省吾君のお母さんって借金とか大嫌いだもんね」
「ええ、まあ・・・」
「でも、とりあえずはどこかに就職してお金を貯めてから・・・ってか、私に相談ってその事なの?」
「いえ、そうじゃないんですけど」
「それで、私に相談っていうのは?」
「それなんですけど、お母さんが事故っちゃったじゃないですか?それで、乗ってた車が大破しちゃったんですよね」
「保険とかは?掛けてたんでしょ?」
「対人と対物には、でも、車両保険には入ってなかったみたいで」
「あちゃー、そりゃ大変だわ」
「でも、車の方は、何かの時にって思ってもう一台は持ってるので」
「そういえば、そうだったわね。故障とかってなった時にとかって言ってたもんね」
「ええ、僕たちに迷惑がかからないようにとかって」
「京子らしいわね、そういう考え方って」
「いえ、その考え方って父さんの考え方なんです」
「そうなの?」
「はい。なので父さんはいつも車は2台持っていたんです」
直美は、京子が夏樹のことをどうのこうのって悪口を言いながら、
夏樹のそういうところを普通に継承していることが妙に可笑しく思えた。
「そういうのって、ちょっとお父さんさんらしいわね。それじゃ他に何か心配事とかってあるの?」
「入院費とか、しばらくは仕事も出来ないので、そっちの方とか」
「でも、お母さんの事だから、それくらいは蓄えとかあるんじゃないの?」
「たぶん、あるとは思うんですけど・・・」
「その話し方だと他にも何かありそうね?」
「ええまあ、でも、何て説明したらいいのか」
「お母さんが、何かしたの?」
「何かしたっていうわけじゃなくて、すっかり落ち込んでしまったっていうか」
「まあ、そりゃ落ち込むわよ、車が壊れちゃて怪我までしちゃったんだから」
「そういうのとは、ちょっと違うっていうか」
「違うっていうのは?」
「なんていうか、これからの事っていうか、将来の事っていうか」
「お母さんの?それとも、省吾君たちの?」
「僕たちの事じゃなくて、自分の将来の事みたいなんですけど」
自分の将来・・・?
それって、京子の未来の事よね・・・?
省吾の言葉に、直美は、以前に、夏樹の言っていた言葉を思い出した。
「京子が何か言ってたの?あっ、ごめん、お母さんだったわね」
「いえ、どっちでもいいですよ」
「それで、お母さんが自分の将来の事で何か言ってたの?」
「それが、よく分からないんですけど。息子じゃなくて娘だったらよかったとか、いつまでも実家にも頼れないとか、僕たちが早く一人前の大人にでもなってくれてれば少しは気が楽なのにとか、そんな事ばかりグチグチ言ってるんです。それと、今回は、腕の骨折程度の怪我だったからよかったけど、もし、目でも見えなくなったりしたらどうしたらいいのか?みたいな事も」
目が見えなくなったら・・・?
直美は、なぜか、その言葉にちょっと引っ掛かったような気がした。
別に、省吾の言葉としては、それほど意味があっての言葉ではないのだろうが・・・。
「まあ、息子じゃ用心棒くらいにしかならないかもしれないしね。それに、娘の方が何かと頼みやすいし、何かと気がつくだろうし。でも、心配いらないと思うわよ。今は、思いがけない怪我で、色々と自由も利かなくなっちゃったから、きっと、不安なのよ」
「そうならいいんですけど」
「大丈夫よ。そりゃ、私だって骨折でもしたら自分のこれからが不安になったりするわよ。一応は娘はいる事はいるけど。でも、そのうち結婚してどこかに行っちゃうんだろうし。もちろん、私だって、そうなっても娘夫婦と一緒に暮らしたいなんて思わないから、何でも一人でやらないとだめだし。そんな事を考えると、お母さんみたいに怪我をしなくても自分の将来に不安になるわよ。でも、みんな、そんなもんだから、省吾君が心配しなくても大丈夫だと思うわよ」
省吾の不安を、直美は気にする程の事じゃないと軽く返したのだが、内心、穏やかではなかった。
どこの家庭にでも普通にあるような将来への心配事なのだし、年を取っていけば尚更なのだろう。
それなのに、なぜか、夏樹の言った言葉が脳裏から離れないのである。
いったい、夏樹さんには、京子の未来に何が見えているというのかしら?
「ふ~ん・・・。それで、省吾君もやってみたくなったんだ」
「まあ、そんな感じっていうか。それに、今回、お母さんがあんな事になっちゃったし、それで、もし僕がどこかにバイトとかに行かないで、家で仕事とか出来たらって思ったもんですから」
「なるほど、それは一理あるわね。でも、自動車っていっても大きんだから、場所とか設備とか許可とかって色々かかるんじゃないの?」
「まあ、そうなんですけど、でも、家は畑とかあるから場所だけはなんとかなるかなって」
「それで、お母さんには相談してみたの?」
「別に、何もまだ・・・」
「まあ、言えないか・・・。省吾君のお母さんって借金とか大嫌いだもんね」
「ええ、まあ・・・」
「でも、とりあえずはどこかに就職してお金を貯めてから・・・ってか、私に相談ってその事なの?」
「いえ、そうじゃないんですけど」
「それで、私に相談っていうのは?」
「それなんですけど、お母さんが事故っちゃったじゃないですか?それで、乗ってた車が大破しちゃったんですよね」
「保険とかは?掛けてたんでしょ?」
「対人と対物には、でも、車両保険には入ってなかったみたいで」
「あちゃー、そりゃ大変だわ」
「でも、車の方は、何かの時にって思ってもう一台は持ってるので」
「そういえば、そうだったわね。故障とかってなった時にとかって言ってたもんね」
「ええ、僕たちに迷惑がかからないようにとかって」
「京子らしいわね、そういう考え方って」
「いえ、その考え方って父さんの考え方なんです」
「そうなの?」
「はい。なので父さんはいつも車は2台持っていたんです」
直美は、京子が夏樹のことをどうのこうのって悪口を言いながら、
夏樹のそういうところを普通に継承していることが妙に可笑しく思えた。
「そういうのって、ちょっとお父さんさんらしいわね。それじゃ他に何か心配事とかってあるの?」
「入院費とか、しばらくは仕事も出来ないので、そっちの方とか」
「でも、お母さんの事だから、それくらいは蓄えとかあるんじゃないの?」
「たぶん、あるとは思うんですけど・・・」
「その話し方だと他にも何かありそうね?」
「ええまあ、でも、何て説明したらいいのか」
「お母さんが、何かしたの?」
「何かしたっていうわけじゃなくて、すっかり落ち込んでしまったっていうか」
「まあ、そりゃ落ち込むわよ、車が壊れちゃて怪我までしちゃったんだから」
「そういうのとは、ちょっと違うっていうか」
「違うっていうのは?」
「なんていうか、これからの事っていうか、将来の事っていうか」
「お母さんの?それとも、省吾君たちの?」
「僕たちの事じゃなくて、自分の将来の事みたいなんですけど」
自分の将来・・・?
それって、京子の未来の事よね・・・?
省吾の言葉に、直美は、以前に、夏樹の言っていた言葉を思い出した。
「京子が何か言ってたの?あっ、ごめん、お母さんだったわね」
「いえ、どっちでもいいですよ」
「それで、お母さんが自分の将来の事で何か言ってたの?」
「それが、よく分からないんですけど。息子じゃなくて娘だったらよかったとか、いつまでも実家にも頼れないとか、僕たちが早く一人前の大人にでもなってくれてれば少しは気が楽なのにとか、そんな事ばかりグチグチ言ってるんです。それと、今回は、腕の骨折程度の怪我だったからよかったけど、もし、目でも見えなくなったりしたらどうしたらいいのか?みたいな事も」
目が見えなくなったら・・・?
直美は、なぜか、その言葉にちょっと引っ掛かったような気がした。
別に、省吾の言葉としては、それほど意味があっての言葉ではないのだろうが・・・。
「まあ、息子じゃ用心棒くらいにしかならないかもしれないしね。それに、娘の方が何かと頼みやすいし、何かと気がつくだろうし。でも、心配いらないと思うわよ。今は、思いがけない怪我で、色々と自由も利かなくなっちゃったから、きっと、不安なのよ」
「そうならいいんですけど」
「大丈夫よ。そりゃ、私だって骨折でもしたら自分のこれからが不安になったりするわよ。一応は娘はいる事はいるけど。でも、そのうち結婚してどこかに行っちゃうんだろうし。もちろん、私だって、そうなっても娘夫婦と一緒に暮らしたいなんて思わないから、何でも一人でやらないとだめだし。そんな事を考えると、お母さんみたいに怪我をしなくても自分の将来に不安になるわよ。でも、みんな、そんなもんだから、省吾君が心配しなくても大丈夫だと思うわよ」
省吾の不安を、直美は気にする程の事じゃないと軽く返したのだが、内心、穏やかではなかった。
どこの家庭にでも普通にあるような将来への心配事なのだし、年を取っていけば尚更なのだろう。
それなのに、なぜか、夏樹の言った言葉が脳裏から離れないのである。
いったい、夏樹さんには、京子の未来に何が見えているというのかしら?
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