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霞んでいく記憶
霞んでいく記憶・・・その6
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「きっと、雪子も、迷ってるはずよ・・・」
冴子の膝の上に座ってケーキを食べているクマのぬいぐるみの耳をホジホジしながら話す夏樹は、
見えない雪子を探しているように、定まらない視線を遊ばせる。
「雪子もって・・・?」
「そういえば、昨日ね、あやつが現れたらしいわよ?」
「現れたらしいって、どこに?もしかして、ここに来たの?」
「ううん、あたしが前に住んでいた家の近くで見かけたって連絡が来たの」
「夏樹さんが前に住んでいた近くで?」
「そうみたい・・・」
「雪子が・・・あっ、でも、どうして夏樹さんが前に住んでいた近くにいたの?夏樹さんがここに引っ越したのを雪子は知ってるでしょ?」
「一人で歩いてみたいのかもしれないわね?」
「一人でって、どういう事なの?」
「きっと、あやつは、霞んでいく記憶を紡ぎ直そうとしているんだと思うの」
「霞んでいく記憶って、もしかして、夏樹さんとの?」
「たぶんね・・・。どんなに忘れられない記憶も、忘れたくない記憶も、そして、大切な思い出も、長い年月の中で少しずつ霞んでいってしまうものなの。点と点では覚えていても、それを結んでいるはずの線が、知らないうちに一本、また一本って消えてしまうの。だから、あやつは、霞んでいく記憶の中にあるはずの消えてしまった線を、紡ぎ直そうとしているのかもしれないわね。ねぇ、愛奈ちゃん?あやつって、すんごいロマンチストでしょ?」
「へっ・・・?」
「あら、やだ。な~に、あたしが、珍しく素敵なお話をしてみたのに、もう~、愛奈ちゃんったら」
そう言いながら笑う夏樹に、
いきなり、こっちに振らないでという瞳で訴える愛奈。
「そして、冴ちゃんとあたしを結び付けたのがこのケーキを食べているクマ・・・ってか、あんたいつケーキを食べたのよ?」
えっ・・・?
夏樹の言葉に、裕子と愛奈がクマのぬいぐるみに視線を移した。
すると、冴子のケーキの隣にあったクマのぬいぐるみのためのケーキが3分の1程に減っていた。
クマのぬいぐるみが、いや、ここにいるぬいぐるみたちが動いているのが見えなくても、
それなりに理解していたはずの二人だったのだが・・・。
ぬいぐるみたちが動いている、動いていないという信じる信じないの世界なら
それは、それで、何となくそうなのかもしれないと思っても、別に悪い気はしないし
むしろ、おとぎの国のお話みたいで、ちょっと微笑ましい気持ちにもなれる。
それに、もし、ほんとに、ぬいぐるみたちが動いているのだとしても
どこか幽霊と同じようなものなのしれないと思えば、それはそれで納得も出来る・・・の、だが。
ぬいぐるみがケーキを食べたとなれば、話が、全然、違ってくるのである。
しかも、自分たちがいる、そのすぐそばで、目の前でケーキを食べている・・・のである。
「あっ!くまっくまくんったら、また、ケーキさんがお口にくっついているですよ!」
そう言って、冴子が、クマのぬいぐるみのお口をハンカチで拭いてあげた・・・のだが。
裕子と愛奈にとっては、さっきまで信じていたはずの記憶がどこかに消えてしまったみたいに、
とても信じられないという表情で、冴子とクマのぬいぐるみを見つめていた。
「あの・・・夏樹さん・・・あの・・・」
「冴ちゃんが、いつか言ってた事があったんだけどね。このクマのぬいぐるみたちと一緒にお母さんのお見舞いに行ってきたって」
「あっ、それなら、さっき、おばあちゃんにも聞かされたけど・・・。でも、冴ちゃんのお母さんって」
「そうね。でもね、冴ちゃんは嘘は言わない子よ。だから、きっと、ほんとにお母さんのお見舞いに行って来たんだと思うわ」
「そうは言っても、やっぱり・・・」
「あはは・・・まあ、無理に理解しようしなくてもいいのよ。じゃないと、頭の上から煙が出てきちゃうから。でもね、このクマが、冴ちゃんと仲良しになったから、冴ちゃんとあたしもお友達になれたんだと思うの・・・。ほんと、不思議よね?」
クマのぬいぐるみと楽しそうに絵本のお話をする冴子を、嬉しそうに見つめる夏樹。
そんな夏樹を見ていると、裕子は、この不思議な世界に招かれている雪子が少し羨ましく思えてしまう。
「雪子はね、生きなきゃだめだよ!って伝えるために、あたしに会いに来るの・・・」
ふいに、見えない何かに語りかけるように呟いた夏樹の言葉に、裕子も愛奈も耳を疑ってしまった。
冴子の膝の上に座ってケーキを食べているクマのぬいぐるみの耳をホジホジしながら話す夏樹は、
見えない雪子を探しているように、定まらない視線を遊ばせる。
「雪子もって・・・?」
「そういえば、昨日ね、あやつが現れたらしいわよ?」
「現れたらしいって、どこに?もしかして、ここに来たの?」
「ううん、あたしが前に住んでいた家の近くで見かけたって連絡が来たの」
「夏樹さんが前に住んでいた近くで?」
「そうみたい・・・」
「雪子が・・・あっ、でも、どうして夏樹さんが前に住んでいた近くにいたの?夏樹さんがここに引っ越したのを雪子は知ってるでしょ?」
「一人で歩いてみたいのかもしれないわね?」
「一人でって、どういう事なの?」
「きっと、あやつは、霞んでいく記憶を紡ぎ直そうとしているんだと思うの」
「霞んでいく記憶って、もしかして、夏樹さんとの?」
「たぶんね・・・。どんなに忘れられない記憶も、忘れたくない記憶も、そして、大切な思い出も、長い年月の中で少しずつ霞んでいってしまうものなの。点と点では覚えていても、それを結んでいるはずの線が、知らないうちに一本、また一本って消えてしまうの。だから、あやつは、霞んでいく記憶の中にあるはずの消えてしまった線を、紡ぎ直そうとしているのかもしれないわね。ねぇ、愛奈ちゃん?あやつって、すんごいロマンチストでしょ?」
「へっ・・・?」
「あら、やだ。な~に、あたしが、珍しく素敵なお話をしてみたのに、もう~、愛奈ちゃんったら」
そう言いながら笑う夏樹に、
いきなり、こっちに振らないでという瞳で訴える愛奈。
「そして、冴ちゃんとあたしを結び付けたのがこのケーキを食べているクマ・・・ってか、あんたいつケーキを食べたのよ?」
えっ・・・?
夏樹の言葉に、裕子と愛奈がクマのぬいぐるみに視線を移した。
すると、冴子のケーキの隣にあったクマのぬいぐるみのためのケーキが3分の1程に減っていた。
クマのぬいぐるみが、いや、ここにいるぬいぐるみたちが動いているのが見えなくても、
それなりに理解していたはずの二人だったのだが・・・。
ぬいぐるみたちが動いている、動いていないという信じる信じないの世界なら
それは、それで、何となくそうなのかもしれないと思っても、別に悪い気はしないし
むしろ、おとぎの国のお話みたいで、ちょっと微笑ましい気持ちにもなれる。
それに、もし、ほんとに、ぬいぐるみたちが動いているのだとしても
どこか幽霊と同じようなものなのしれないと思えば、それはそれで納得も出来る・・・の、だが。
ぬいぐるみがケーキを食べたとなれば、話が、全然、違ってくるのである。
しかも、自分たちがいる、そのすぐそばで、目の前でケーキを食べている・・・のである。
「あっ!くまっくまくんったら、また、ケーキさんがお口にくっついているですよ!」
そう言って、冴子が、クマのぬいぐるみのお口をハンカチで拭いてあげた・・・のだが。
裕子と愛奈にとっては、さっきまで信じていたはずの記憶がどこかに消えてしまったみたいに、
とても信じられないという表情で、冴子とクマのぬいぐるみを見つめていた。
「あの・・・夏樹さん・・・あの・・・」
「冴ちゃんが、いつか言ってた事があったんだけどね。このクマのぬいぐるみたちと一緒にお母さんのお見舞いに行ってきたって」
「あっ、それなら、さっき、おばあちゃんにも聞かされたけど・・・。でも、冴ちゃんのお母さんって」
「そうね。でもね、冴ちゃんは嘘は言わない子よ。だから、きっと、ほんとにお母さんのお見舞いに行って来たんだと思うわ」
「そうは言っても、やっぱり・・・」
「あはは・・・まあ、無理に理解しようしなくてもいいのよ。じゃないと、頭の上から煙が出てきちゃうから。でもね、このクマが、冴ちゃんと仲良しになったから、冴ちゃんとあたしもお友達になれたんだと思うの・・・。ほんと、不思議よね?」
クマのぬいぐるみと楽しそうに絵本のお話をする冴子を、嬉しそうに見つめる夏樹。
そんな夏樹を見ていると、裕子は、この不思議な世界に招かれている雪子が少し羨ましく思えてしまう。
「雪子はね、生きなきゃだめだよ!って伝えるために、あたしに会いに来るの・・・」
ふいに、見えない何かに語りかけるように呟いた夏樹の言葉に、裕子も愛奈も耳を疑ってしまった。
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