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霞んでいく記憶
霞んでいく記憶・・・その4
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冴子が来た事で、話すのを遠慮する愛奈の姿に夏樹が語り掛ける。
「どうしたの?急に遠慮しちゃって?」
「いえ・・・あの・・・」
「冴ちゃんかしら?」
「いえ、そういうわけでは・・・」
「ふふっ、あたしね、子供の前だけの親の顔って好きじゃないの。冴ちゃんがそばにいてもいなくても、何も変わらないあたしでいたいの。だから、冴ちゃんの前でも、何一つ隠さないで、何でもお話をするのよ」
「あっ、ケーキさんがきたですよ!」
冴子が階段を上がってくる裕子を見つけて、嬉しそうにクマのぬいぐるみに声をかけた。
「はい、冴ちゃん、それから、こっちはクマさんにね」
「くまっくまくんのケーキさんがきたですよ!」
嬉しそうに話す冴子を、笑みで包み込みながら裕子は夏樹と愛奈の前にカフェオレを置いた。
「ねえ、夏樹さん?」
「ん・・・?」
「あのね、ひとつ分からない事があるんだけどいいかしら?」
冴子の前で不通に話をし始める裕子を、
愛奈は、少し驚いたように見返していた。
「あら?どうしたの、愛奈ちゃん?」
「いえ・・・あの・・・」
「冴ちゃんがいるのに、私が、普通に話をし始めようとするからかしら?」
「ちょっとびっくりしたっていうか、なんていうか」
「ふふっ、普通はそうよね。でも、これが夏樹さんなのよ」
「私ってダメですね。変に気を遣っちゃったりして」
「夏樹さんって、愛奈ちゃんと話す時に、愛奈ちゃんに気を遣ったりしないで何でも話してくれるでしょ?」
「それは、冴ちゃんも、私と同じなんですね!」
「そうよ。それが、夏樹さんの愛し方でもあるの・・・。というか、私にはそうじゃなかったわよね、夏樹さん?」
「それも、あたしの愛し方なのよ。それよりも、なに?分からない事って」
「ふふっ、そういう事にしておきましょうね。それでね、実は、雪子がちょっと変な事を言ってたのよ」
「変な事・・・?」
「ええ。さっき、夏樹さんは、雪子が、私たちが夏樹さんに会いに来る事を知っていたって言ってたでしょ?」
「そうよ。それが変なの?」
「ううん、そうじゃないんだけど。1か月くらい前になるかしら?雪子がね、夏樹さんに会いに行ったその後の自分を探さないで放っておいて欲しいって言ってた事があったの」
「そんでもって、その後に、最初で最後のお願い。と、でも、言ってたのかしら?」
「どうして分かるの?」
「何となくよ、何となく・・・」
夏樹が言葉を濁した・・・
裕子は、直感で、そう感じた。
いつもと同じように返した言葉でも、夏樹を知る裕子には、夏樹の言葉に違和感を感じた。
そして、それと同時に、夏樹とそれなりの過去を持つ裕子には、夏樹が言葉を濁す理由(わけ)も知っていた。
それは、(それ以上訊くな)という、夏樹なりのある種の合図なのである。
訊かれた事に、何でも、すらすらと答えたり、笑いを交えて話をしたり、
時には、わざと、おどけて見せたりする夏樹が、言葉を濁す行為は、
それは、そのまま、雪子に対して向けられている何かである事は裕子にも分かる。
「ねえ、夏樹さん?いったい、雪子は何をするために夏樹さんに会いに来るの?」
「どうしたのよ?急に?」
「そんな風にとぼけてもダメよ!夏樹さんは、さっきから、一度も、雪子が夏樹さんに会いに来る理由(わけ)を言ってないわよね?」
「あら?そうだったかしら?」
「という事は、夏樹さんは知ってるのね?どうして、雪子が夏樹さんに会いに来るのかって?」
「その話し方だと、あやつは、あんたには言わなかったみたいね」
「それがね、言わなかったっていうよりも、雪子自身もよく分からないって言ってたのよ。ただ、夏樹さんに会わなければいけないって。どうしても、会って確かめないといけないって」
「あやつらしいわね」
「それにね、きっと、これが最後になるかもしれない。っても、言ってたの」
「・・・」
「そして、こうも言ってたの。夏樹さんなら誰の生活も壊さないで終わりにする方法を選ぶと思うって。これって、いったい、どういう意味なの?」
「ほんと・・・馬鹿な子よね。雪子って」
そう呟いた夏樹の視線が、クマのぬいぐるみと一緒にケーキを食べている冴子を優しく包んでいく。
「どうしたの?急に遠慮しちゃって?」
「いえ・・・あの・・・」
「冴ちゃんかしら?」
「いえ、そういうわけでは・・・」
「ふふっ、あたしね、子供の前だけの親の顔って好きじゃないの。冴ちゃんがそばにいてもいなくても、何も変わらないあたしでいたいの。だから、冴ちゃんの前でも、何一つ隠さないで、何でもお話をするのよ」
「あっ、ケーキさんがきたですよ!」
冴子が階段を上がってくる裕子を見つけて、嬉しそうにクマのぬいぐるみに声をかけた。
「はい、冴ちゃん、それから、こっちはクマさんにね」
「くまっくまくんのケーキさんがきたですよ!」
嬉しそうに話す冴子を、笑みで包み込みながら裕子は夏樹と愛奈の前にカフェオレを置いた。
「ねえ、夏樹さん?」
「ん・・・?」
「あのね、ひとつ分からない事があるんだけどいいかしら?」
冴子の前で不通に話をし始める裕子を、
愛奈は、少し驚いたように見返していた。
「あら?どうしたの、愛奈ちゃん?」
「いえ・・・あの・・・」
「冴ちゃんがいるのに、私が、普通に話をし始めようとするからかしら?」
「ちょっとびっくりしたっていうか、なんていうか」
「ふふっ、普通はそうよね。でも、これが夏樹さんなのよ」
「私ってダメですね。変に気を遣っちゃったりして」
「夏樹さんって、愛奈ちゃんと話す時に、愛奈ちゃんに気を遣ったりしないで何でも話してくれるでしょ?」
「それは、冴ちゃんも、私と同じなんですね!」
「そうよ。それが、夏樹さんの愛し方でもあるの・・・。というか、私にはそうじゃなかったわよね、夏樹さん?」
「それも、あたしの愛し方なのよ。それよりも、なに?分からない事って」
「ふふっ、そういう事にしておきましょうね。それでね、実は、雪子がちょっと変な事を言ってたのよ」
「変な事・・・?」
「ええ。さっき、夏樹さんは、雪子が、私たちが夏樹さんに会いに来る事を知っていたって言ってたでしょ?」
「そうよ。それが変なの?」
「ううん、そうじゃないんだけど。1か月くらい前になるかしら?雪子がね、夏樹さんに会いに行ったその後の自分を探さないで放っておいて欲しいって言ってた事があったの」
「そんでもって、その後に、最初で最後のお願い。と、でも、言ってたのかしら?」
「どうして分かるの?」
「何となくよ、何となく・・・」
夏樹が言葉を濁した・・・
裕子は、直感で、そう感じた。
いつもと同じように返した言葉でも、夏樹を知る裕子には、夏樹の言葉に違和感を感じた。
そして、それと同時に、夏樹とそれなりの過去を持つ裕子には、夏樹が言葉を濁す理由(わけ)も知っていた。
それは、(それ以上訊くな)という、夏樹なりのある種の合図なのである。
訊かれた事に、何でも、すらすらと答えたり、笑いを交えて話をしたり、
時には、わざと、おどけて見せたりする夏樹が、言葉を濁す行為は、
それは、そのまま、雪子に対して向けられている何かである事は裕子にも分かる。
「ねえ、夏樹さん?いったい、雪子は何をするために夏樹さんに会いに来るの?」
「どうしたのよ?急に?」
「そんな風にとぼけてもダメよ!夏樹さんは、さっきから、一度も、雪子が夏樹さんに会いに来る理由(わけ)を言ってないわよね?」
「あら?そうだったかしら?」
「という事は、夏樹さんは知ってるのね?どうして、雪子が夏樹さんに会いに来るのかって?」
「その話し方だと、あやつは、あんたには言わなかったみたいね」
「それがね、言わなかったっていうよりも、雪子自身もよく分からないって言ってたのよ。ただ、夏樹さんに会わなければいけないって。どうしても、会って確かめないといけないって」
「あやつらしいわね」
「それにね、きっと、これが最後になるかもしれない。っても、言ってたの」
「・・・」
「そして、こうも言ってたの。夏樹さんなら誰の生活も壊さないで終わりにする方法を選ぶと思うって。これって、いったい、どういう意味なの?」
「ほんと・・・馬鹿な子よね。雪子って」
そう呟いた夏樹の視線が、クマのぬいぐるみと一緒にケーキを食べている冴子を優しく包んでいく。
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