愛して欲しいと言えたなら

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霞んでいく記憶

霞んでいく記憶・・・その3

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どれくらいの時間が過ぎただろうか・・・

裕子は、二人を2階に残して、1階のカウンターでお代わりようのコーヒーを作りながら、
お庭でクマのぬいぐるみと遊んでいる冴子へ気を配っていた。
夏樹と楽しそうにぬいぐるみたちの話をしている愛奈が、少し羨ましそうに訊いた。

「お母さんはここに来るんですね・・・」

「待ち合わせ場所は分からないけどね」

「真っすぐここに来るんじゃないのですか?」

「直接ここへは来ないと思うわ」

「それじゃ、どこで待ち合わせをしているんですか?」

「してないわよ。だから、あたしも困ってるのよ」

「困ってるって、夏樹さんはホントに知らないんですか?」

「本当に知らないの。愛奈ちゃんに嘘は言わないわよ」

「う~ん・・・困ったお母さんですね?」

「まあ、そういうところって、あやつらしいっていえば、あやつらしいんだけど」

「あの・・・ひとつ、訊いてもいいでしょうか?」

「な~に?」

「あの・・・お母さんが家を出る前に、夏樹さんに相談とかって・・・」

「なかったわよ」

「それじゃ、夏樹さんはホントに知らなかったのですか?」

「う~ん、まったく知らなったって言えば嘘になるわね」

「それじゃ、何となくは知っていたんですか?」

「可能性の話よ。幾つかの選択肢とか、幾つかの可能性とかって中のひとつって感じかしらね」

「幾つかの選択肢っていう事は、お母さんが選ぶ選択肢は他にもあったという・・・」

「そうね、例えば、あのまま、メル友のままの関係を続けるとか、時々は会ったりする関係とか、もしくは・・・」

「もしくは・・・不倫とか?」

「あはは、それはないわね!」

「即答なんですね・・・でも、どうしてですか?」

「あたしが、それを許さないから」

「えっ・・・?」

「あら?あたしって、こう見えても、けっこう真面目なのよ」

「えっ?だって、さっき・・・それに、裕子さんとも・・・」

「きっと、あやつが、そんなあたしを変えたのかもしれないわ」

「お母さんが・・・」

「ええ・・・今にして思えば、そうなかもしれないって思うの」

「お母さんって、そういうの厳しい人だったんですか?」

「全然・・・あやつは、まったく、そういうのには頓着しないし、あたしを束縛しようともしなかったのよ」

「う~ん・・・でも、それって、付き合っる事にならないような・・・」

「ふふっ、あやつって変わってるでしょ?」

「確かに、変わってるというかなんていうか・・・お母さんらしいような・・・」

「物静かで、大人しくて、優しくて?」

「はい・・・いつも、そんな感じなので。でも、そんな物静かなお母さんと、どうして付き合う事になったんですか?」

「どうして?の、方なの?」

「えっ・・・?」

「あたしはてっきり、どうやって?の、方かと思ったわよ」

「あっ、なるほど、そうですよね。どうしての方は訊かなくても決まってました」

「でもね、あたしが変わったとすれば、あやつと別れてからなのよ」

「お母さんと別れてから?付き合ってる時とかではないんですか?」

「ふふっ、さっきも言ったように、あやつは、何一つ、あたしを束縛しなかったから」

「でも、どうして、別れてからだったんですか?」

「さあね。それは、今でもよく分からないけど、あやつを失ってからのあたしって、何も欲しくなくなってしまってね。欲しいのは雪子だけ、他には、何も欲しくない・・・。そんな風に思いながら、毎日を生きていたわ」

夏樹が話をしていると、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
愛奈が足音が聞こえる方を見ると、冴子が、さっきのクマのぬいぐるみを抱えて階段を登って来たようである。
夏樹は、冴子の方を見ながら優しく声をかける。

「冴ちゃん、おいで!」

「はいです^^」

夏樹は、4人掛けのテーブルの椅子を窓際へ移って、今まで座っていた椅子に座るように誘うと、
冴子が、嬉しそうにクマのぬいぐるみを膝の上に乗せながら椅子に座る。
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