愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
303 / 386
霞んでいく記憶

霞んでいく記憶・・・その3

しおりを挟む
どれくらいの時間が過ぎただろうか・・・

裕子は、二人を2階に残して、1階のカウンターでお代わりようのコーヒーを作りながら、
お庭でクマのぬいぐるみと遊んでいる冴子へ気を配っていた。
夏樹と楽しそうにぬいぐるみたちの話をしている愛奈が、少し羨ましそうに訊いた。

「お母さんはここに来るんですね・・・」

「待ち合わせ場所は分からないけどね」

「真っすぐここに来るんじゃないのですか?」

「直接ここへは来ないと思うわ」

「それじゃ、どこで待ち合わせをしているんですか?」

「してないわよ。だから、あたしも困ってるのよ」

「困ってるって、夏樹さんはホントに知らないんですか?」

「本当に知らないの。愛奈ちゃんに嘘は言わないわよ」

「う~ん・・・困ったお母さんですね?」

「まあ、そういうところって、あやつらしいっていえば、あやつらしいんだけど」

「あの・・・ひとつ、訊いてもいいでしょうか?」

「な~に?」

「あの・・・お母さんが家を出る前に、夏樹さんに相談とかって・・・」

「なかったわよ」

「それじゃ、夏樹さんはホントに知らなかったのですか?」

「う~ん、まったく知らなったって言えば嘘になるわね」

「それじゃ、何となくは知っていたんですか?」

「可能性の話よ。幾つかの選択肢とか、幾つかの可能性とかって中のひとつって感じかしらね」

「幾つかの選択肢っていう事は、お母さんが選ぶ選択肢は他にもあったという・・・」

「そうね、例えば、あのまま、メル友のままの関係を続けるとか、時々は会ったりする関係とか、もしくは・・・」

「もしくは・・・不倫とか?」

「あはは、それはないわね!」

「即答なんですね・・・でも、どうしてですか?」

「あたしが、それを許さないから」

「えっ・・・?」

「あら?あたしって、こう見えても、けっこう真面目なのよ」

「えっ?だって、さっき・・・それに、裕子さんとも・・・」

「きっと、あやつが、そんなあたしを変えたのかもしれないわ」

「お母さんが・・・」

「ええ・・・今にして思えば、そうなかもしれないって思うの」

「お母さんって、そういうの厳しい人だったんですか?」

「全然・・・あやつは、まったく、そういうのには頓着しないし、あたしを束縛しようともしなかったのよ」

「う~ん・・・でも、それって、付き合っる事にならないような・・・」

「ふふっ、あやつって変わってるでしょ?」

「確かに、変わってるというかなんていうか・・・お母さんらしいような・・・」

「物静かで、大人しくて、優しくて?」

「はい・・・いつも、そんな感じなので。でも、そんな物静かなお母さんと、どうして付き合う事になったんですか?」

「どうして?の、方なの?」

「えっ・・・?」

「あたしはてっきり、どうやって?の、方かと思ったわよ」

「あっ、なるほど、そうですよね。どうしての方は訊かなくても決まってました」

「でもね、あたしが変わったとすれば、あやつと別れてからなのよ」

「お母さんと別れてから?付き合ってる時とかではないんですか?」

「ふふっ、さっきも言ったように、あやつは、何一つ、あたしを束縛しなかったから」

「でも、どうして、別れてからだったんですか?」

「さあね。それは、今でもよく分からないけど、あやつを失ってからのあたしって、何も欲しくなくなってしまってね。欲しいのは雪子だけ、他には、何も欲しくない・・・。そんな風に思いながら、毎日を生きていたわ」

夏樹が話をしていると、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
愛奈が足音が聞こえる方を見ると、冴子が、さっきのクマのぬいぐるみを抱えて階段を登って来たようである。
夏樹は、冴子の方を見ながら優しく声をかける。

「冴ちゃん、おいで!」

「はいです^^」

夏樹は、4人掛けのテーブルの椅子を窓際へ移って、今まで座っていた椅子に座るように誘うと、
冴子が、嬉しそうにクマのぬいぐるみを膝の上に乗せながら椅子に座る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...