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霞んでいく記憶
霞んでいく記憶・・・その2
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「この子たちはね、みんな、迷って、迷って、ここまでたどり着いた子たちなのよ」
「この子たちって、ここにいる、ぬいぐるみさんたちですか?」
「そうよ。自分たちが死んだ事さえ分からない、理解出来ない、そして、もっと生きたい・・・。そんな想いのまま、ここにたどり着いた子たちなの・・・。確かに、知らない人が聞いたら頭がおかしいんじゃない?とか、ちょっと危ない人みたい、なんかオカルトが入ってるんじゃないの?とかって思うんだろうけどね」
「でも、ここのぬいぐるみさんたちは動いていますよね?」
「そうね。愛奈ちゃんも見ちゃったものね?」
「はい、このカバさんも・・・って、いつ来たんですか?」
「あははっ・・・ちなみにさっきのカメさんは、ほら、あそこの棚の一番上よ・・・ってか、あんた、どうやってそこまで登ったのよ?」
どこまでが現実で、どこまでが希望なのか。
ぬいぐるみが移動しているのが見えない裕子ではあるが、それでも、夏樹と話す愛奈の笑顔が、
雪子を失うかもしれない見えない明日の不安を、少しだけ和らげてくれるのかもしれない。
あの日、いったい、誰が、想像出来ただろうか?
雪子が夏樹と別れた日に、人生の中の何かが終わった。
悔しくても悲しくても、新しい人生を歩きだなければ、そう思って35年もの長い時間を生きてきた。
かつて夏樹を愛していた時期もあった、
そして、夏樹に愛されていた過去も忘れていない。
その夏樹を、裕子から奪った雪子・・・
そんな出来事も、今は、もう遠い日の出来事になっている。
そして、今、雪子の娘が、裕子の見ている目の前で、夏樹と楽しそうに話をしている。
ずいぶんと長い旅をしてきたのかもしれない、それとも、遠回りをしてきたのだろうか?
裕子は、夏樹といる今を想うと、あの頃へ帰ってきたのかもしれない、
一番楽しかったあの頃へ、やっと帰ってきたような、そんな想いに包まれているように感じていた。
今の裕子には、あの頃のような独占欲も、
束縛されたいと思う気持ちも持ち合わせてはいない。
それほど多くの恋愛経験を積んできたわけでもないのだが、
長く人生を生きていれば、色々な愛のかたちがある事も、
自分が求めていた愛の居場所も少しずつ見えてくる。
若い頃は、自分は、いつまでも、若いまま季節が過ぎていくような気がしていた。
小学生が、自分はいつも小学生で、大人はいつも大人のまま、そんな感覚と同じなのだろう。
それが、気がつけば、もう50歳を過ぎて、そして、自分の人生の残りが見え隠れし始めている。
今、夏樹が、目の前にいる・・・
他に、何を望むのだろうか?・・・。
そこに意味は必要ない
そこに理由はいらない
ただ、あなたが好き、ただ、それだけでいい。
裕子は、やっと、長い呪縛から解放されていく不思議な感覚を感じていた。
夏樹は、少し真顔に戻って、愛奈に優しく語りかけた。
「いい、愛奈ちゃん?この先、愛奈ちゃんを待っているのは逃れようのない現実、あたしに出来るのは、雪子を束縛から解放するために、離婚調停に向けて弁護士を頼む事くらいなの。あたしってひどい女よね?」
夏樹の最後の言葉にクスッと笑う愛奈。
「ふふっ、今の笑みを忘れちゃダメよ。その笑みを忘れそうになったら、いつでも、ここに来るのよ」
「いいんですか?」
「あやつも、きっと、喜ぶわ!」
「そうかな?迷惑じゃないのかな?」
「愛奈ちゃんは、お母さんを憎んでしまいそうになると、何も出来なかった自分自身が許せなくなってしまう。そんな愛奈ちゃんの苦しみを、もし、お母さんが知ってしまったなら、何もかもが悲しみの色で染まってしまうから・・・。でも、ほんと、愛奈ちゃんって、お母さんに似たわね?」
「・・・」
「だから、忘れないでほしいの。どうしようもなく自分の心が抑えられなくなった時は、迷わないであたしを恨みなさい・・・全ての不幸は夏樹が悪い!って、いいわね?」
「夏樹さんを恨むなんて・・・そんなの出来ないです」
「出来なくても恨むのよ。それが、雪子を止められなかった、あたしの罪なのだから」
愛奈は嬉しかった・・・
誰にも伝えず、隠し通そうと決めていた、母親を想う行き場のない感情を、
何も話さなくても、悲しみも、寂しさも、ひとつ残らず救い上げてくれる人がいてくれた。
逃げる事もなく、言い訳をする事なく、雪子の罪を全て受け止めようとする夏樹に、
愛奈は、続ける言葉を探しながら、心の中に生まれてくる感情を感じていた。
「きっと、こういうのを、訳せない感情っていうのですね」
「この子たちって、ここにいる、ぬいぐるみさんたちですか?」
「そうよ。自分たちが死んだ事さえ分からない、理解出来ない、そして、もっと生きたい・・・。そんな想いのまま、ここにたどり着いた子たちなの・・・。確かに、知らない人が聞いたら頭がおかしいんじゃない?とか、ちょっと危ない人みたい、なんかオカルトが入ってるんじゃないの?とかって思うんだろうけどね」
「でも、ここのぬいぐるみさんたちは動いていますよね?」
「そうね。愛奈ちゃんも見ちゃったものね?」
「はい、このカバさんも・・・って、いつ来たんですか?」
「あははっ・・・ちなみにさっきのカメさんは、ほら、あそこの棚の一番上よ・・・ってか、あんた、どうやってそこまで登ったのよ?」
どこまでが現実で、どこまでが希望なのか。
ぬいぐるみが移動しているのが見えない裕子ではあるが、それでも、夏樹と話す愛奈の笑顔が、
雪子を失うかもしれない見えない明日の不安を、少しだけ和らげてくれるのかもしれない。
あの日、いったい、誰が、想像出来ただろうか?
雪子が夏樹と別れた日に、人生の中の何かが終わった。
悔しくても悲しくても、新しい人生を歩きだなければ、そう思って35年もの長い時間を生きてきた。
かつて夏樹を愛していた時期もあった、
そして、夏樹に愛されていた過去も忘れていない。
その夏樹を、裕子から奪った雪子・・・
そんな出来事も、今は、もう遠い日の出来事になっている。
そして、今、雪子の娘が、裕子の見ている目の前で、夏樹と楽しそうに話をしている。
ずいぶんと長い旅をしてきたのかもしれない、それとも、遠回りをしてきたのだろうか?
裕子は、夏樹といる今を想うと、あの頃へ帰ってきたのかもしれない、
一番楽しかったあの頃へ、やっと帰ってきたような、そんな想いに包まれているように感じていた。
今の裕子には、あの頃のような独占欲も、
束縛されたいと思う気持ちも持ち合わせてはいない。
それほど多くの恋愛経験を積んできたわけでもないのだが、
長く人生を生きていれば、色々な愛のかたちがある事も、
自分が求めていた愛の居場所も少しずつ見えてくる。
若い頃は、自分は、いつまでも、若いまま季節が過ぎていくような気がしていた。
小学生が、自分はいつも小学生で、大人はいつも大人のまま、そんな感覚と同じなのだろう。
それが、気がつけば、もう50歳を過ぎて、そして、自分の人生の残りが見え隠れし始めている。
今、夏樹が、目の前にいる・・・
他に、何を望むのだろうか?・・・。
そこに意味は必要ない
そこに理由はいらない
ただ、あなたが好き、ただ、それだけでいい。
裕子は、やっと、長い呪縛から解放されていく不思議な感覚を感じていた。
夏樹は、少し真顔に戻って、愛奈に優しく語りかけた。
「いい、愛奈ちゃん?この先、愛奈ちゃんを待っているのは逃れようのない現実、あたしに出来るのは、雪子を束縛から解放するために、離婚調停に向けて弁護士を頼む事くらいなの。あたしってひどい女よね?」
夏樹の最後の言葉にクスッと笑う愛奈。
「ふふっ、今の笑みを忘れちゃダメよ。その笑みを忘れそうになったら、いつでも、ここに来るのよ」
「いいんですか?」
「あやつも、きっと、喜ぶわ!」
「そうかな?迷惑じゃないのかな?」
「愛奈ちゃんは、お母さんを憎んでしまいそうになると、何も出来なかった自分自身が許せなくなってしまう。そんな愛奈ちゃんの苦しみを、もし、お母さんが知ってしまったなら、何もかもが悲しみの色で染まってしまうから・・・。でも、ほんと、愛奈ちゃんって、お母さんに似たわね?」
「・・・」
「だから、忘れないでほしいの。どうしようもなく自分の心が抑えられなくなった時は、迷わないであたしを恨みなさい・・・全ての不幸は夏樹が悪い!って、いいわね?」
「夏樹さんを恨むなんて・・・そんなの出来ないです」
「出来なくても恨むのよ。それが、雪子を止められなかった、あたしの罪なのだから」
愛奈は嬉しかった・・・
誰にも伝えず、隠し通そうと決めていた、母親を想う行き場のない感情を、
何も話さなくても、悲しみも、寂しさも、ひとつ残らず救い上げてくれる人がいてくれた。
逃げる事もなく、言い訳をする事なく、雪子の罪を全て受け止めようとする夏樹に、
愛奈は、続ける言葉を探しながら、心の中に生まれてくる感情を感じていた。
「きっと、こういうのを、訳せない感情っていうのですね」
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