愛して欲しいと言えたなら

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伝わらない想い

伝わらない想い・・・その20

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「それで、雪子はあんな事を言ってたのね?」

「あんな事?」

「ええ、半年くらい前だったかしら?雪子が、夏樹さんの家に会いに行った時があったでしょ?その時に電話で言ってたの、私が、誰かを傷つけたらダメなのかな?って」

「あはは・・・そんな事を言ったってダメよ!あやつに誰かを傷つける事なんて出来っこないんだから」

「よね?だから、雪子の言葉に、私も、ちょっと驚いちゃったわ」

「ふふっ・・・あやつは根っからの優しい子だからね」

「でも、まさか、夏樹さんから雪子の話とか聞かされるとは思ってもみなかったわ」

「裕子?あやつを甘く見ちゃダメよ・・・。あやつが、あんたや愛奈ちゃんが、あたしに会いに来るって思ってなかったと思う?」

「えっ・・・?それじゃ・・・?」

「だから、あたしが話したの・・・。あやつは自分では言えないからね。ねぇ、愛奈ちゃん?そんなあやつって卑怯な子だと思う?」

えっ・・・?
どうして、そこで私に振るんですか?

「私には、よく分からないです」

「ふふっ・・・雪子ってね、そういう愛し方をしてくるのよ!」

あやつから雪子に変わった・・・裕子は、夏樹の言葉の変化にビクッとした。

「雪子わね、全てを捨てて会いに来るの。あたしにナイフを突きつけるためにね・・・。あなたの命を奪うのは、この世で私だけなのよ!ってね」

信じられない雪子の感情を口にする夏樹の言葉に、愛奈は驚いた。
それは、愛奈が知っている母親とは、あまりに違い過ぎていたからである。

「そして、そんな雪子を、もう一度、目覚めさせてしまったのがあたしなの・・・。だから、雪子は、もう二度と愛奈ちゃんたちの元には戻らないのよ」

「でも、お母さんは行き先を隠さなかった・・・ですよね?」

「ふふっ、いつもの愛奈ちゃんに戻ったわね!」

「えへへっ・・・」

「そう。突然、姿をくらましておきながら、その行き先を隠そうとしないんだから・・・。雪子のそういうところって可愛いでしょ?」

「いや~あの~・・・可愛いでしょ?って、訊かれましても」

「あやつは猫と同じ、自分の全てを委ねて愛してくるのよ」

「でも、それはワンちゃんも同じでは?」

「体の大きさが違うでしょ?ワンちゃんは飼い主に抵抗出来るけど、猫はそうはいかないでしょ?猫が飼い主の腕に抱かれている時って、自分の生死も、そのまま飼い主に抱かれてしまうの」

「あっ、何となく、分かります」

「ふふっ・・・愛奈ちゃんの知らなかったお母さんに驚いたでしょ?」

「はい・・・でも、少し嬉しいとも思います」

夏樹は、窓際で、お外を眺めている2匹のぬいぐるみの方に視線を移しながら、
少しだけ、悲しい顔を浮かべた。

「愛奈ちゃん・・・それは、嘘ね・・・」

夏樹の言葉に、裕子が驚いた・・・。

確か、ここに来る前に、裕子が、愛奈に母親の事をどう思っているのかを聞いた時にも、
今と同じように、母親の突然の逃亡劇を、悲しいんだり、恨んだりの言葉ではなく、
母親らしい生き方を望んでいるように答えていた。

そして、裕子も、その言葉を聞いて、少しの安堵と少しの嬉しさを感じていたのだが。
それを夏樹は(嘘ね!)と、あっさり否定してしまったのだから、裕子が驚くのも無理はないのである。

「いえ・・・そんな事はありません」

そう切り返す愛奈に、夏樹が言葉を続ける。

「いい、愛奈ちゃん?さっきも言ったように、愛奈ちゃんは、この先、必ず、あやつを憎んでしまうの。愛奈ちゃんがどんなに否定しても、それは変えられないの」

おどける事なく真顔で話す夏樹に、
愛奈は、さっきのように言葉を返さずに黙って聞いていた。

「愛奈ちゃんは、怖いんでしょ?」

触れられたくない何かに触れようとする夏樹の言葉に、
愛奈の顔がこわばっていくのを、裕子は不安そうに見つめている。

「あやつを憎んでしまう愛奈ちゃん自身が、その答えを知っているから・・・。だから、あやつを憎んでしまう明日の自分を否定してしまう・・・違うかしら?」

「・・・」

「でもね、雪子は、そんな愛奈ちゃんを望んでいないのよ」

 「お母さんが・・・?」

「そうよ・・・」・・・そう答える夏樹の顔が、また、いつもの優しい顔に戻っていた。

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