298 / 386
伝わらない想い
伝わらない想い・・・その18
しおりを挟む愛奈は、急に笑い出した二人をキョトンとした瞳で見つめている。
「いいのよ!愛奈ちゃん。愛奈ちゃんが、そこからあれを連想するのは、ほぼ皆無なんだから」
「あの~・・・」
「きっと、言っても信じられないわよ。なにせ、ここにいる裕子でさえ未だに信じられないみたいなんだから」
すると裕子が・・・
「そりゃそうよ!だって、今だって、正直、あの大晦日の夜の雪子が信じられないのよ」
「でしょうね・・・。でもね、あの夜のあやつが、あやつの偽りのない本当の姿なの」
「いつも、あんな感じだったの?」
「そうよ。いつも、いつか捨てられてしまうんじゃないかって怯えている子猫・・・。それが、あやつだったの」
夏樹は、少し寂しそうな表情になると、窓際の席に座りながらため息を吐く。
アトリエの2階にも幾つかのテーブルが並べられていて、レストランだった頃の雰囲気が、
そのまま、アトリエとして過ぎていく時間の中を見つめているかのように優しく包んでいる。
「そして、あたしも、あやつと同じだったの・・・。あたしも、いつか、あやつに捨てられてしまうんじゃないかって怯えながら、あやつを愛していたの」
「知らなかったわ・・・。夏樹さんが、そんな風に思っていたなんて」
「でしょ?あたしって、昔からモテまくってたから」
「そんなにいたの?」
「だから、あやつに言われたのよ。初めての日に(私は、何人目?)ってね」
「うそ・・・初めて聞いたわ」
「そりゃそうよ。今まで、誰にも言った事なんてないもの」
「雪子が・・・?」
「それにね、あやつの最初のビンタも、その時だったのよ」
「うそ・・・何か、言ったの?」
「何も、言わないわよ。ただ、あやつのお股からお顔を出したら、いきなり飛んできたわよ!」
「雪子のお股って・・・何、やってたのよ?」
「何って・・・それよりも、あたしゃビックリしたわよ。んでもって、ケラケラって笑うのよ?」
「うそみたい・・・」
「でもね、ケラケラ笑ってる時のあやつってね、とっても可愛いのよ。お目目をまん丸に開いて、ほんと、ワクワク子猫みたいに笑うの。あたしは、そんな、あやつが好きでね・・・。あやつってね、身体全部を使って愛してくるの」
「雪子が・・・」
「そんなあやつを好きになればなるほど怖くなっていってね。いつか、あやつの姿が見えなくなってしまう日が来るような気がして・・・。だからかもしれない、いつからか、気がついたら、あやつの心を傷つける日々になっていたの。きっと、あやつを傷つける事で、あやつの愛を確かめてしまっていたのかもしれないわね。あやつを傷つける度に、自分が悲しくて悲しくて仕方がなかったのに・・・。それなのに、そんな自分の感情を止める事も出来なくてね」
「それで、別れてしまったの?」
「そう・・・。最後はお互いがお互いを傷つける日々の繰り返しになっていったのよ・・・。そして・・・ある日、一本だけ残っていた最後の糸が、プツンって切れちゃったの」
「そうだったの・・・。でも、雪子は、ちょっと変な事を言ってたのよ」
「変な事・・・?」
「ええ・・・今年になって、確か、雪子のお父さんが入院した時じゃなかったかしら?」
「あたしの父親が、やくざと繋がりがあるとかってやつね」
「えええ===っ?そうだったの?」
「あら、違ったかしら?」
「違うも何も、夏樹さんのお父さんが、そんな人だったなんて私も知らなかったわよ」
「あたしの家族って、あたしがまだ小さい頃にあの街に引っ越してきたのよ。知らない街で商売をしようとしたら、そっち系の人と知り合いになった方が、何かと仕事も上手くいく時代だったから、そんなに珍しい事でもないわよ」
「そうなの?私は商売とかよく分からないけど、それで、雪子があんな事を言ってたのね」
「あやつは、今でも、父親の事を憎んでいるでしょ?」
「夏樹さん、知ってたの?」
「いいのよ!愛奈ちゃん。愛奈ちゃんが、そこからあれを連想するのは、ほぼ皆無なんだから」
「あの~・・・」
「きっと、言っても信じられないわよ。なにせ、ここにいる裕子でさえ未だに信じられないみたいなんだから」
すると裕子が・・・
「そりゃそうよ!だって、今だって、正直、あの大晦日の夜の雪子が信じられないのよ」
「でしょうね・・・。でもね、あの夜のあやつが、あやつの偽りのない本当の姿なの」
「いつも、あんな感じだったの?」
「そうよ。いつも、いつか捨てられてしまうんじゃないかって怯えている子猫・・・。それが、あやつだったの」
夏樹は、少し寂しそうな表情になると、窓際の席に座りながらため息を吐く。
アトリエの2階にも幾つかのテーブルが並べられていて、レストランだった頃の雰囲気が、
そのまま、アトリエとして過ぎていく時間の中を見つめているかのように優しく包んでいる。
「そして、あたしも、あやつと同じだったの・・・。あたしも、いつか、あやつに捨てられてしまうんじゃないかって怯えながら、あやつを愛していたの」
「知らなかったわ・・・。夏樹さんが、そんな風に思っていたなんて」
「でしょ?あたしって、昔からモテまくってたから」
「そんなにいたの?」
「だから、あやつに言われたのよ。初めての日に(私は、何人目?)ってね」
「うそ・・・初めて聞いたわ」
「そりゃそうよ。今まで、誰にも言った事なんてないもの」
「雪子が・・・?」
「それにね、あやつの最初のビンタも、その時だったのよ」
「うそ・・・何か、言ったの?」
「何も、言わないわよ。ただ、あやつのお股からお顔を出したら、いきなり飛んできたわよ!」
「雪子のお股って・・・何、やってたのよ?」
「何って・・・それよりも、あたしゃビックリしたわよ。んでもって、ケラケラって笑うのよ?」
「うそみたい・・・」
「でもね、ケラケラ笑ってる時のあやつってね、とっても可愛いのよ。お目目をまん丸に開いて、ほんと、ワクワク子猫みたいに笑うの。あたしは、そんな、あやつが好きでね・・・。あやつってね、身体全部を使って愛してくるの」
「雪子が・・・」
「そんなあやつを好きになればなるほど怖くなっていってね。いつか、あやつの姿が見えなくなってしまう日が来るような気がして・・・。だからかもしれない、いつからか、気がついたら、あやつの心を傷つける日々になっていたの。きっと、あやつを傷つける事で、あやつの愛を確かめてしまっていたのかもしれないわね。あやつを傷つける度に、自分が悲しくて悲しくて仕方がなかったのに・・・。それなのに、そんな自分の感情を止める事も出来なくてね」
「それで、別れてしまったの?」
「そう・・・。最後はお互いがお互いを傷つける日々の繰り返しになっていったのよ・・・。そして・・・ある日、一本だけ残っていた最後の糸が、プツンって切れちゃったの」
「そうだったの・・・。でも、雪子は、ちょっと変な事を言ってたのよ」
「変な事・・・?」
「ええ・・・今年になって、確か、雪子のお父さんが入院した時じゃなかったかしら?」
「あたしの父親が、やくざと繋がりがあるとかってやつね」
「えええ===っ?そうだったの?」
「あら、違ったかしら?」
「違うも何も、夏樹さんのお父さんが、そんな人だったなんて私も知らなかったわよ」
「あたしの家族って、あたしがまだ小さい頃にあの街に引っ越してきたのよ。知らない街で商売をしようとしたら、そっち系の人と知り合いになった方が、何かと仕事も上手くいく時代だったから、そんなに珍しい事でもないわよ」
「そうなの?私は商売とかよく分からないけど、それで、雪子があんな事を言ってたのね」
「あやつは、今でも、父親の事を憎んでいるでしょ?」
「夏樹さん、知ってたの?」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説



白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。



【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる