愛して欲しいと言えたなら

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伝わらない想い

伝わらない想い・・・その13

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「ねぇ、愛奈ちゃん?あたしの事は憎んでも、あやつの事を憎んじゃダメよ!」

「憎むだなんて、そんな風には思っていないです」

「どっちを?」

「えっ?・・・そう、訊いてくるんですか?・・・う~ん」

「う~ん・・・って、どうしたの?」

「昨日の電話の時も思ったんですけど、そういう突っ込み方もあるんだな~って」

「あはは!この突っ込みの発案者は、あたしじゃなくてあやつなのよ」

「お母さんが?・・・う~ん、どうも昨日あたりから異世界のお母さんがいるみたいです」

開けたくても開けられない・・・。
誰にも気づかれないように、そっと、窓から覗くのが精一杯。
ちょうど、悪戯したくても、初めて見る物に警戒と興味の狭間でモジモジしている子猫みたいに。
扉の前で1人遊びをする愛奈の姿が、夏樹には愛らしくて笑みがこぼれてしまう。

「愛奈ちゃん、ちょっと待っててくれるかしら?」

そう言って、席を立って奥の方へと行こうとする夏樹が後ろへ振り返った時、
少し長めのスカートの裾がフワッと浮いた瞬間に、
チラッと見えた生足に、愛奈の視線がくぎ付けになってしまった。

黒っぽいスカートだった事もあって、チラリと見えた肌色が艶めかしく見えてしまい、
(おじ様って言ってたのに)。愛奈には、どう見ても女性の肌にしか見えないのである。

カウンターとテーブルの間を奥へと消えていった夏樹が、
少しすると、手に写真立てを持って戻ってきた。
席に着くと、手に持ってきた写真立てを、写真が愛奈に見えるようそっと立てる。

「あの・・・この人は?」

写真に写っている女性は高校生くらいだろうか?
セーラー服を着ているらしいのだが、一般的なセーラー服とは違って、
上下とも紺色の制服を着た少女が、カメラに向かって可愛くピースサインをしている写真である。

セミロングよりも少し短めの黒髪が愛らしさを漂わせているその姿は、
すぐにでもアイドルになれる程の美少女のように愛奈には見えた。
どこかの公園で写したみたいで、緑の木々を背にした向こうには大きな池が写っている。

「裕子なら、分かるかしら?」

夏樹の言葉に、カウンターから出てきた裕子がテーブルの上の写真を見ると、

「懐かしいわ・・・。でも、どうして夏樹さんがこの写真を持ってるの?」

「裕子さんには、この女の人が分かるんですか?」

「何、言ってるのよ?この写真に写っている女子高生は、愛奈ちゃんのお母さんよ」

「えっ・・・?えええ===っ?って、ホントですか?」

「ふふっ、本当も何も、この写真を写したのが、この私なんだもの」

「この人が、お母さん?」

裕子に、写真の女性が若い頃の母親だと言われて、テーブルの上から写真立てを手に持つと、
顔を近づけて、まじまじと見つめてしまう愛奈である。

「そして、こっちが今のあやつよ」

夏樹は、そう言ってもう片方の写真立てを愛奈の前に置いた。

「こっちも、お母さん?」

「そう、愛奈ちゃんのお母さんの雪子、可愛いでしょ?」

50過ぎの女性に、(可愛いでしょ?)という言葉が当てはまるとは思えないのが普通なのだろうが、
写真に写っている雪子は、愛奈の知っている母親とは思えないくらい可愛い女性なのである。
どこかの喫茶店の中で写したらしく、アンティークな店内が店主の人柄を優しく包み込んでいる。

写真に写っている雪子は、ちょうど美容院に行く手前くらいのセミロングの黒髪に黒いロングワンピース。
長めの薄い黒のカーディガンを肩に羽織る感じで、
右手でピースサインを作る仕草から見える色白な細い腕が、黒い服と相まって、ちょっと艶めかしい。

そして、ワンピースの裾から膝上へと伸びる少し大きめの赤い花と緑の枝の模様が、
チラリと見える肌色の右腕の艶めかしさを引き立てるかのように被写体を映している。

「これが、お母さん・・・?」

初めて見る愛奈の知らない母親の姿に、言葉が見つからないまま見入ってしまっていた。

「あたしが憎くなったかしら?」

「・・・」

「愛奈ちゃんの知らないお母さん。今まで、ずっと、愛奈ちゃんたちを騙していたみたいよね?」

「・・・」

「もし、あたしと再会していなかったら?愛奈ちゃんたちを悲しませるお母さんにはならなかったはず」

愛奈は、夏樹の言葉の意味を考えたいのに。
聞こえてくる言葉は、愛奈の心の中へ染み込んでいくようで、
考えたい気持ちを、目の前の写真に写る雪子の姿が、それをさせてはくれなかった。

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