愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
292 / 386
伝わらない想い

伝わらない想い・・・その12

しおりを挟む
「ねぇ、愛奈ちゃん?今の愛奈ちゃんには、あそこにいる裕子はどんな風に見えてる?」

「えっ・・・?」

いきなり、話を急カーブさせるような夏樹の言葉に驚いた愛奈だったが、
その愛奈よりも驚いているのがカウンターにいるようである。
すると、夏樹が少し前屈みになりながら、愛奈にヒソヒソ話で答えるようにうながした。

「どう見えるって訊かれましても・・・あの・・・」

「大丈夫よ!裕子には聞こえないから」

夏樹の言葉に、愛奈はチラッと裕子の方に視線を流すように移すと、
意外にも、今の夏樹の声が聞こえていなかったらしく、優しい顔でコーヒー作りを再開している。

「あっ、あの・・・なんていうか、大人の女性っていうか」

「裕子、綺麗でしょ?」

「あっ、はい。そう思います」

「で、色気が漂ってる大人の裕子なんて、今まで見たことなかったでしょ?」

「そうなんです。なので、正直、ビックリしたっていうか驚いたっていうか、憧れちゃうっていうか」

「だ、そうよ!裕子!」

「えっ?えええ===っ?」

突然、半身振り返って裕子に声をかける夏樹に、愛奈は、慌ててカウンターの方を見ると、
そんな愛奈に裕子は優しく笑みを返してくれた。

「ちょっと、夏樹さん?」

「あはは・・・大丈夫よ、聞こえていないから・・・と、思う?」

まるで、からかうように訊きながら、瞳の中を覗き込んでくる夏樹に、思わず口元が緩む愛奈。

「愛奈ちゃんの名前の由来は、あとで、あやつに訊くといいわ」

「でも、きっと、また、はぐらかされちゃうと思います」

「そうかしら?」

「だって、今までだって、お母さんの昔の何かを訊こうとすると、いつも平気でとぼけたりするんですよ」

「とぼける?」

「そうなんです。前にも、お母さんに、お父さんと結婚する前に恋人とかいたの?って訊いたら、そんな人はいなわよって。それに、裕子さんからお母さんが猫が好きだって教えて頂いたので、お母さんに猫を飼わないの?って訊いたら、愛奈さんが飼いたかったらいいと思うわよって。お母さんは?って訊いたら、私はいいわ。って」

「ふふっ、あやつって、優しいでしょ?」

「えっ?」

「あら?これは、意外だわね?可愛すぎる愛奈ちゃんともあろう乙女が、それに気がつかないなんて」

お庭で椅子に腰かけているおばあちゃんにコーヒーを届けて戻ってきた裕子が、
夏樹たちのテーブルにコーヒーを運んできてくれた。
一つは夏樹の前に、もう一つは愛奈の前に置くとカウンターの方へ戻ろうとする。

「あっ、裕子さんの分は?」

「ふふっ、私はカウンターの方が気が休まるみたいよ」

愛奈は、自分に気を遣ってくれているのかな?と、それ以上は訊かなかった。
すると、夏樹が戻ろうとする裕子に声をかけた。

「ねぇ、裕子?愛奈ちゃんに教えてあげて」

夏樹の言葉から自分に向けられた裕子の眼差しに、愛奈は思わずドキッとした。

「きっと、雪子は、自分の過去は誰かを悲しませてしまう・・・。そう、考えていたんだと思うわよ」

「でも・・・」

「好きな人の生きてきた過去を知りたいと思うのは自然な感情だと思うの。でもね、その過去が誰かを傷つけてしまう事もあるのよ・・・。今の、雪子のように」

う~ん・・・どう見ても、いつもの裕子さんじゃないわ。

「ふふっ、愛奈ちゃんは、裕子の女の顔に見とれちゃってるみたいね」

「ちょっと、夏樹さん?」・・・裕子が、少し照れながら笑う。

「愛奈ちゃん?これが、裕子の愛し方なの・・・。人は、それぞれに愛し方も、鏡に映るそんな自分への想いや願いも違うの。今は分からなくても、いつか、きっと、愛奈ちゃんにも分かる日が来ると思うから、今は、答えを急がなくてもいいのよ」

「う~ん・・・」

「あはは・・・その、納得しないぞう~みたいな仕草なんて、若い頃のあやつにそっくりね!」

「お母さんに?」

「そうよ!でも、出来れば似て欲しくないところもあるんだけど~ねぇ、裕子?」

夏樹の言葉に、微かな笑いを浮かべながら裕子はカウンターへと戻っていく。

「愛奈ちゃん?雪子にとって一番大切な宝物は愛奈ちゃんと翔太君・・・。これが、愛奈ちゃんの名前の由来の答えよ」

「う~ん・・・」

懐かしい雪子の仕草と同じ仕草をする愛奈に、夏樹は、いつかの嬉しさを感じていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

処理中です...