愛して欲しいと言えたなら

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伝わらない想い

伝わらない想い・・・その12

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「ねぇ、愛奈ちゃん?今の愛奈ちゃんには、あそこにいる裕子はどんな風に見えてる?」

「えっ・・・?」

いきなり、話を急カーブさせるような夏樹の言葉に驚いた愛奈だったが、
その愛奈よりも驚いているのがカウンターにいるようである。
すると、夏樹が少し前屈みになりながら、愛奈にヒソヒソ話で答えるようにうながした。

「どう見えるって訊かれましても・・・あの・・・」

「大丈夫よ!裕子には聞こえないから」

夏樹の言葉に、愛奈はチラッと裕子の方に視線を流すように移すと、
意外にも、今の夏樹の声が聞こえていなかったらしく、優しい顔でコーヒー作りを再開している。

「あっ、あの・・・なんていうか、大人の女性っていうか」

「裕子、綺麗でしょ?」

「あっ、はい。そう思います」

「で、色気が漂ってる大人の裕子なんて、今まで見たことなかったでしょ?」

「そうなんです。なので、正直、ビックリしたっていうか驚いたっていうか、憧れちゃうっていうか」

「だ、そうよ!裕子!」

「えっ?えええ===っ?」

突然、半身振り返って裕子に声をかける夏樹に、愛奈は、慌ててカウンターの方を見ると、
そんな愛奈に裕子は優しく笑みを返してくれた。

「ちょっと、夏樹さん?」

「あはは・・・大丈夫よ、聞こえていないから・・・と、思う?」

まるで、からかうように訊きながら、瞳の中を覗き込んでくる夏樹に、思わず口元が緩む愛奈。

「愛奈ちゃんの名前の由来は、あとで、あやつに訊くといいわ」

「でも、きっと、また、はぐらかされちゃうと思います」

「そうかしら?」

「だって、今までだって、お母さんの昔の何かを訊こうとすると、いつも平気でとぼけたりするんですよ」

「とぼける?」

「そうなんです。前にも、お母さんに、お父さんと結婚する前に恋人とかいたの?って訊いたら、そんな人はいなわよって。それに、裕子さんからお母さんが猫が好きだって教えて頂いたので、お母さんに猫を飼わないの?って訊いたら、愛奈さんが飼いたかったらいいと思うわよって。お母さんは?って訊いたら、私はいいわ。って」

「ふふっ、あやつって、優しいでしょ?」

「えっ?」

「あら?これは、意外だわね?可愛すぎる愛奈ちゃんともあろう乙女が、それに気がつかないなんて」

お庭で椅子に腰かけているおばあちゃんにコーヒーを届けて戻ってきた裕子が、
夏樹たちのテーブルにコーヒーを運んできてくれた。
一つは夏樹の前に、もう一つは愛奈の前に置くとカウンターの方へ戻ろうとする。

「あっ、裕子さんの分は?」

「ふふっ、私はカウンターの方が気が休まるみたいよ」

愛奈は、自分に気を遣ってくれているのかな?と、それ以上は訊かなかった。
すると、夏樹が戻ろうとする裕子に声をかけた。

「ねぇ、裕子?愛奈ちゃんに教えてあげて」

夏樹の言葉から自分に向けられた裕子の眼差しに、愛奈は思わずドキッとした。

「きっと、雪子は、自分の過去は誰かを悲しませてしまう・・・。そう、考えていたんだと思うわよ」

「でも・・・」

「好きな人の生きてきた過去を知りたいと思うのは自然な感情だと思うの。でもね、その過去が誰かを傷つけてしまう事もあるのよ・・・。今の、雪子のように」

う~ん・・・どう見ても、いつもの裕子さんじゃないわ。

「ふふっ、愛奈ちゃんは、裕子の女の顔に見とれちゃってるみたいね」

「ちょっと、夏樹さん?」・・・裕子が、少し照れながら笑う。

「愛奈ちゃん?これが、裕子の愛し方なの・・・。人は、それぞれに愛し方も、鏡に映るそんな自分への想いや願いも違うの。今は分からなくても、いつか、きっと、愛奈ちゃんにも分かる日が来ると思うから、今は、答えを急がなくてもいいのよ」

「う~ん・・・」

「あはは・・・その、納得しないぞう~みたいな仕草なんて、若い頃のあやつにそっくりね!」

「お母さんに?」

「そうよ!でも、出来れば似て欲しくないところもあるんだけど~ねぇ、裕子?」

夏樹の言葉に、微かな笑いを浮かべながら裕子はカウンターへと戻っていく。

「愛奈ちゃん?雪子にとって一番大切な宝物は愛奈ちゃんと翔太君・・・。これが、愛奈ちゃんの名前の由来の答えよ」

「う~ん・・・」

懐かしい雪子の仕草と同じ仕草をする愛奈に、夏樹は、いつかの嬉しさを感じていた。

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