愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
291 / 386
伝わらない想い

伝わらない想い・・・その11

しおりを挟む
そんな愛奈の視線に、少し、意地悪な瞳で笑みを浮かべる夏樹。

「今日はピンクよ!サイドは紐だけど」

「えっ・・・?」

「ほら?早く、おいで!」

「あっ、はい!」

あっけらかんと教えてくれる夏樹の笑顔に、初めて、笑顔で答える愛奈。
アトリエに入ると、お庭で、クマのぬいぐるみと一緒にプリンを食べようと、
冴子が、カウンターの奥の方にある冷蔵庫の中に、可愛いお顔を入れている姿が見える。

これが・・・夏樹さん。
今、私の目の前にいるこの人が、お母さんが愛した夏樹さん。
ううん、お母さんが、今も、ずっと愛し続けている、この世でただ一人の人。

アトリエに入った愛奈は、先程とは違う景色を見ているようだった。
アトリエの中に夏樹がいるだけで、こんなにも、感じる景色が変わってしまうものなのかと少し驚いていた。

まるで、このアトリエで暮らしているかのように飾られている、沢山のぬいぐるみたち。
そして、何の違和感もなく、その空間に溶け込むように映る夏樹の姿に、愛奈は・・・えっ?

いや・・・えっ?
じゃなくて・・・あの、さっき冴ちゃんが夏樹さんの事を、おじ様って?

だから・・・あの・・・おじ様って事は、もしかして・・・いえ、もしかしなくても・・・まじ?
で・・・あの・・・ピンクって?んでもって、サイドが紐って・・・えええ===っ?

「あら?女性の方がよかったかしら?」

「えっ?」・・・というか、何で分かったんですか?
愛奈は、夏樹に自分が考えてた事を言い当てられて驚いていた。

「んなの、愛奈ちゃんの視線の先で分かっちゃうわよ」

夏樹の言葉に、愛奈は、自分の視線が夏樹のスカートに向けられていた事に気がついて、
思わず赤くなってしまった。
次の言葉が見つからない愛奈に、助け舟を出すように裕子が夏樹に話しかけた。

「まだ、雪子から連絡とかはないの?」

「してこないわよ!きっと。あやつは、悪戯子猫だからね」

「まったく、もう~。雪子ったら」

「あんたが気に病んでどうすんのよ?」

「そんな事を言ったって、せめて、いつ頃、そっち行くからみたいな連絡くらいはあってもいいと思うんだけど」

「だから、悪戯子猫なのよ」

「そういえば夏樹さん?この前、言ってたけど、雪子がいつ来るとかって分かるの?」

「いつ来るかは分かるんだけど、問題は、その場所の方なのよね?」

「場所って・・・ここじゃないの?」

「あやつは昔から(なぞかけ)が、好きなのよね~。やだわん」

「やだわんって、もう~。それよりも、雪子ったら、悪戯子猫をやってる場合じゃないでしょ?突然、離婚届を残して逃亡しちゃったのよ!」

「だからこそなのよ」

「だからこそって、どういう意味なの?」

「裕子ってさ、ほんと、昔っから、そういうとこ可愛いわよね」

「えっ?いえ、あの、そう?」

「あははっ!そんな風に、急に照れちゃうとこなんかも、昔と同じ変わってないし」

「また、そんな・・・」

「ねぇ、裕子。コーヒーを作ってきてくれるかしら?」

「あっ、はい。そういえば、おばあちゃんはどこにいったのかしら?」

「お庭の長椅子で、冴ちゃんたちを見てるわよ」

「そうなの?でも、寒くないかしら?」

「そうね、それじゃ、そこにある薄茶のブランケットを届けてくれる?」

「それと、暖かいお茶か何かも一緒に届けるわね」

「コーヒーがいいわ、おばあちゃんコーヒーが好きだから」

「ええ、了解!」

「愛奈ちゃん、こっちにおいで」

入口のところで、夏樹と裕子の会話を不思議そうに聞いていた愛奈を、
窓際のテーブルの方へ呼んだ。

愛奈は、夏樹と窓際のテーブルに向かい合わせに座ると、照れくさそうな仕草を隠しながら、
椅子に座ってるウサギのぬいぐるみを手に取って膝の上に乗せてみる。

「その子は、ピョンちゃんっていうのよ」

「ピョンちゃん?初めまして愛奈です」

愛奈は、膝の上に乗せたウサギのぬいぐるみに優しく挨拶をした。

「あの・・・ひとつ訊いてもいいでしょうか?」

「何かしら?」

「こんな事を訊くのは、ちょっと変かもしれないんですけど」

「いいわよ。言ってみて?」

「あっ、はい。あの、私の愛奈っていう名前の由来なんですけど、何か、知っているかなって?」

「訊きたい?」・・・
夏樹は、あえて、(あたしに、その疑問を問いかけてみたいの?)と、聞き返した。

夏樹さん?・・・
夏樹の言葉に、カウンターでコーヒーを作っていた裕子の手が止まった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ちぃちゃんと僕

みやぢ
恋愛
けんごはアルバイト先で出会った小学生ちとせと友達になった。 ちとせと二人で過ごした日々の記憶

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...