愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
290 / 386
伝わらない想い

伝わらない想い・・・その10

しおりを挟む
あちゃー!言っちゃった・・・。
裕子が心の中でそう思いながら、そ~っと夏樹の顔を見ると、
流れていく季節を微笑みで包むように、夏樹が、冴子に優しく二人の紹介をする。

「冴ちゃん、こちらの綺麗な女性は裕子さん」

「裕子さん?」

「そうよ、あたしにとって、とても大切な人なの」

「ちょっと、夏樹さん・・・それは、あの・・・」

愛奈には何も言っていなかった裕子が、慌てて言葉をさえぎるように声をかける。
そんな裕子の気持ちを知ってか知らずか、夏樹の口から、愛奈、衝撃の第二弾が飛んできた。

「あら?もしかして、かつて、あたしが愛した女性って言った方が良かったかしら?」

あまりに意外な夏樹の言葉に、愛奈がほーしん状態のように固まってしまった。

「夏樹さん、ちょっと、それは、まだ・・・」

そんな愛奈を見て、慌てて取り繕おうとする裕子に、夏樹が微笑んで見せる。
いや・・・あの・・・夏樹さん、微笑んでいる場合じゃないんだってば!

裕子の心の声が聞こえたとは思えないのだが、
夏樹は(いいのよ)と、答えるように、また微笑んだ。
そして、ほーしん状態のまま固まっている愛奈に優しく話しかける。

「愛奈ちゃんが、とっても知りたかった事じゃなかったかしら?」

「夏樹さん?愛奈ちゃんがとっても知りたかった事って?」

「愛奈ちゃんはね、あたしと雪子の過去を訊きたくても、いつも、はぐらかすような言葉でしか返せない、あんたの心情を心配していたのよ」

「えっ?・・・まさか・・・」

慌てて愛奈を見る裕子であったが、
当の愛奈は、さっきまでの、ほーしん状態から信じられないという顔に変わっていた。

「冴ちゃん、こちらが、愛奈ちゃん」

「愛奈ちゃん?」

「そうよ。雪子の娘さんで、雪子の一番大切な愛奈ちゃんよ」

「雪子おば様の?」

夏樹の言葉にひかれるように、愛奈が、冴子の前で夏樹と同じようにしゃがむと、

「冴ちゃん、初めまして、愛奈です」

「はいです^^初めまして、冴ちゃんです」

愛奈と冴子の挨拶に合わせるように、裕子も、一緒にしゃがんで冴子に挨拶をする。

「冴ちゃん、中でプリン食べよっか?」

「はいです^^くまっくまくん!と一緒に食べるですよ!」

「きっと、また、お庭で絵本を読んでいると思うから、くまっくまくんの分のプリンも持っていってあげるといいわね!」

「はいです^^」

そう言うと、冴子は、玄関で待っているおばあちゃんに(ただいま)を言いながら中に入っていく。

「裕子、ご苦労だったわね。疲れてない?」

「ううん、大丈夫。久しぶりのドライブだったから楽しかったかも」

「でも、よく迷わないで来れたわね?」

「出る前に地図を見たから・・・」

「それで迷わないで来れるんだから、やっぱ、あんたってすごいんだわ!」

「そうかな~・・・」

「そうよ!あたしだったら、きっと100回くらい迷ってると思うわよ!」

「それって、もしかして褒められてたりして・・・というか、少しは、心配してくれてたの?」

「そりゃ、そうよ。雪子の大切な愛奈ちゃんを乗せているんだから、心配し過ぎて、夜もぐっすり眠れてたわよ」

「あはは・・・って、私の心配は?」

「しないわけないでしょ・・・。ほら、あたしたちも中に入るわよ」

昔から変わらない夏樹の照れ隠し・・・。
チラッとだけ触れると、すぐに話題を変えてしまう、可笑しな癖。
裕子は、自分が愛した夏樹の、今も変わらない仕草に懐かしみながら、夏樹の後を歩くようについていく。

と、ここで、またまた、愛奈のほーしん状態が再発し始めていた。

夏樹と会話をしている裕子の姿が、今まで、自分が知っている裕子の姿とは別人のように、
まだ若い愛奈には、どう表現したらいいのか分からないのだが・・・
(もしかしたらこれが女の顔なの?)そう思わせるには十分な女の色気というか、魅力というか、
愛奈の知らないもう一人の裕子がいる事に、母親である雪子の、あの日の姿が重なっていた。

「愛奈ちゃん、おいで・・・」

優しく呼ぶ夏樹の声に(確か、さっき、おじ様って・・・冴ちゃんが)・・・。
自然と、愛奈の視線が、夏樹の不思議空間のあたりを漂っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

元妻

Rollman
恋愛
元妻との画像が見つかり、そして元妻とまた出会うことに。

処理中です...