愛して欲しいと言えたなら

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伝わらない想い

伝わらない想い・・・その10

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あちゃー!言っちゃった・・・。
裕子が心の中でそう思いながら、そ~っと夏樹の顔を見ると、
流れていく季節を微笑みで包むように、夏樹が、冴子に優しく二人の紹介をする。

「冴ちゃん、こちらの綺麗な女性は裕子さん」

「裕子さん?」

「そうよ、あたしにとって、とても大切な人なの」

「ちょっと、夏樹さん・・・それは、あの・・・」

愛奈には何も言っていなかった裕子が、慌てて言葉をさえぎるように声をかける。
そんな裕子の気持ちを知ってか知らずか、夏樹の口から、愛奈、衝撃の第二弾が飛んできた。

「あら?もしかして、かつて、あたしが愛した女性って言った方が良かったかしら?」

あまりに意外な夏樹の言葉に、愛奈がほーしん状態のように固まってしまった。

「夏樹さん、ちょっと、それは、まだ・・・」

そんな愛奈を見て、慌てて取り繕おうとする裕子に、夏樹が微笑んで見せる。
いや・・・あの・・・夏樹さん、微笑んでいる場合じゃないんだってば!

裕子の心の声が聞こえたとは思えないのだが、
夏樹は(いいのよ)と、答えるように、また微笑んだ。
そして、ほーしん状態のまま固まっている愛奈に優しく話しかける。

「愛奈ちゃんが、とっても知りたかった事じゃなかったかしら?」

「夏樹さん?愛奈ちゃんがとっても知りたかった事って?」

「愛奈ちゃんはね、あたしと雪子の過去を訊きたくても、いつも、はぐらかすような言葉でしか返せない、あんたの心情を心配していたのよ」

「えっ?・・・まさか・・・」

慌てて愛奈を見る裕子であったが、
当の愛奈は、さっきまでの、ほーしん状態から信じられないという顔に変わっていた。

「冴ちゃん、こちらが、愛奈ちゃん」

「愛奈ちゃん?」

「そうよ。雪子の娘さんで、雪子の一番大切な愛奈ちゃんよ」

「雪子おば様の?」

夏樹の言葉にひかれるように、愛奈が、冴子の前で夏樹と同じようにしゃがむと、

「冴ちゃん、初めまして、愛奈です」

「はいです^^初めまして、冴ちゃんです」

愛奈と冴子の挨拶に合わせるように、裕子も、一緒にしゃがんで冴子に挨拶をする。

「冴ちゃん、中でプリン食べよっか?」

「はいです^^くまっくまくん!と一緒に食べるですよ!」

「きっと、また、お庭で絵本を読んでいると思うから、くまっくまくんの分のプリンも持っていってあげるといいわね!」

「はいです^^」

そう言うと、冴子は、玄関で待っているおばあちゃんに(ただいま)を言いながら中に入っていく。

「裕子、ご苦労だったわね。疲れてない?」

「ううん、大丈夫。久しぶりのドライブだったから楽しかったかも」

「でも、よく迷わないで来れたわね?」

「出る前に地図を見たから・・・」

「それで迷わないで来れるんだから、やっぱ、あんたってすごいんだわ!」

「そうかな~・・・」

「そうよ!あたしだったら、きっと100回くらい迷ってると思うわよ!」

「それって、もしかして褒められてたりして・・・というか、少しは、心配してくれてたの?」

「そりゃ、そうよ。雪子の大切な愛奈ちゃんを乗せているんだから、心配し過ぎて、夜もぐっすり眠れてたわよ」

「あはは・・・って、私の心配は?」

「しないわけないでしょ・・・。ほら、あたしたちも中に入るわよ」

昔から変わらない夏樹の照れ隠し・・・。
チラッとだけ触れると、すぐに話題を変えてしまう、可笑しな癖。
裕子は、自分が愛した夏樹の、今も変わらない仕草に懐かしみながら、夏樹の後を歩くようについていく。

と、ここで、またまた、愛奈のほーしん状態が再発し始めていた。

夏樹と会話をしている裕子の姿が、今まで、自分が知っている裕子の姿とは別人のように、
まだ若い愛奈には、どう表現したらいいのか分からないのだが・・・
(もしかしたらこれが女の顔なの?)そう思わせるには十分な女の色気というか、魅力というか、
愛奈の知らないもう一人の裕子がいる事に、母親である雪子の、あの日の姿が重なっていた。

「愛奈ちゃん、おいで・・・」

優しく呼ぶ夏樹の声に(確か、さっき、おじ様って・・・冴ちゃんが)・・・。
自然と、愛奈の視線が、夏樹の不思議空間のあたりを漂っていた。

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