愛して欲しいと言えたなら

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伝わらない想い

伝わらない想い・・・その8

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「いつも、おかみさんがおっしゃっておりました通り、ほんとに可愛い娘さんですこと」

おばあさんの言葉に、愛奈は、少し照れくさそうな仕草で

「こんにちは、愛奈です」

「はい。こんにちは、愛奈ちゃん」

夏樹さんが言ってた通りって、夏樹さんは愛奈ちゃんを見た事あるのかしら?

「あの・・・夏樹さんは?」

「ちょっと郵便局さんの方へ行っていまして、でも、もうそろそろお戻りになると思いますよ」

「郵便局へ?」

「ええ、うちの孫娘と、お散歩しながら」

「お散歩って、郵便局はこの近くなんですか?」

「ええ、歩いて15分くらいかしら。その道を、もう少し奥の方まで行くとあるんですよ」

「そうなんですか・・・」

「さあ、どうぞ、中にお入り下さい」

裕子たちは、おばあさんに案内されながら、アトリエ愛里の中へと入って行く。
玄関を入ると、左手の方にカウンターがあって、右側にはテーブルと椅子が並べられている。

アトリエの中は、以前のレストランのままのようなレイアウトらしく、
テーブルと椅子が並べられている右側には、大きめの窓から外の景色が一望出来る。

なのだが・・・この場合、裕子よりも、愛奈の方が驚いていた。
カウンターの方には、2~3個のぬいぐるみが乗っているだけなのだが。
右側の方に、10セット程あるテーブルの上や椅子には、沢山のぬいぐるみが置かれている。

それは、お店の中に飾られているぬいぐるみたちが、
まるで、ここで暮らしているかのような錯覚を起こしてしまうみたいにである。

外から見た時には、窓越しにぬいぐるみは見えなかったんだけど、
どうして、窓際には、ぬいぐるみを飾らないのかしら?
別に、ぬいぐるみを飾れるスペースがないわけでもないし、お花は、ちゃんと飾ってあるのに。

「あの~、どうして、ぬいぐるみを窓際には飾らないのですか?」

何気なく、おばあさんに訊いてみた裕子の言葉に、少し後ろの方から愛奈が答えた。

「きっと、ぬいぐるみさんたちが、日焼けをしないようにじゃないかな?」

「あら?愛奈ちゃん。よく分かったわね」

愛奈の言葉に、優しく答えるおばあさんとは裏腹に、裕子は少し驚いていた。

「あっ、やっぱりいた!」

裕子の後ろから声が聞こえたと思っていた愛奈が、
道路側とは反対にあるカウンターの手前の窓から外を見ながら、裕子に手招きをしている。

裕子が、愛奈の方へ近づいて窓の外を見てみると、綺麗に整備されている庭が広がっていた。
おそらく300坪くらいはあるだろうか?
広い庭には、いくつかのテーブルと椅子が置かれている。

「ほら、見て!さっきのクマさんのぬいぐるみさんが、あそこに!」

「えっ?」

愛奈の言葉に続く、クマのぬいぐるみの仕草に裕子は驚いてしまった。
愛奈の指さす方を見ると、いくつかあるテーブルの中の真ン中にあるテーブルの上に、
クマのぬいぐるみが、ちょこんと座っているのが見えたのだか、裕子が驚いたのはそこではない。

テーブルの上に座っているクマのぬいぐるみの手前には、絵本らしき本が置かれているのである。
しかも、その絵本は、ただ置かれているのではなくて、ちゃんと開かれている。
まるで、クマのぬいぐるみが、自分で、その絵本を開いて読んでいるかのようにである。

「お庭のクマさんって、もしかして、愛奈ちゃんが二階の窓で見えたっていうクマさんなの?」

「そうみたい・・・。やっぱり、動いているんだわ!」

まさか・・・?いくらなんでも、それは、ちょっと・・・。
裕子が、そう思っていると、おばあさんが、愛奈の言葉に優しく言葉を返してくれた。

「愛奈ちゃんにも、見えるのかもしれないわね?」

「私にもって・・・。それじゃ、おばあさんにも見えるんですか?」

「ううん、私には見えないんですけど、孫娘が、時々、そのような事を言っておりましたから」

おばあさんの言葉に、少なからず、愛奈は驚いていたのだが、
そんな愛奈よりも驚いているのは、裕子の方である。
まさか、ここで、雪子と同じような言葉が、愛奈の口から出るとは思ってもみなかったのだから。

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