愛して欲しいと言えたなら

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伝わらない想い

伝わらない想い・・・その7

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「さて、そろそろ、行こうかしら?」

「ちょっと待って!ちょっと待って!」

「どうしたの?」

「やっぱり、お母さん怒るんじゃないかなって?」

「きっと、怒らないわよ」

「そうかな?でも、嫌な思いとか・・・」

「もしそうなら、夏樹さんは、愛奈ちゃんに会いにおいでなんて、言わないんじゃないかしら?」

「そこが、不思議なんですよね?」

「そこがって?どこが、不思議なの?」

「どうして、裕子さんには、夏樹さんの考えている事が分かるのかなって?」

「まったく、もう~」

「えへっ・・・で?」

「簡単な事よ。誰よりも、雪子の気持ちを知っているのは?」

「夏樹さん・・・?・・・あっ・・・」

「そういう事・・・」

「納得しました・・・半分だけど・・・」

「ふふっ、それじゃ、もう半分は、夏樹さんに会うまで取っておきましょうね」

裕子さんは、まだ、何かを隠している。そう、確信している愛奈なのだが、
なにせ、愛奈の頭の中には、夏樹は女性であると疑っていないのだから、
納得していないもう半分を推理しようにも、どうしたって、その先へは進めないのである。

「それじゃ、行くわよ」

裕子と愛奈を乗せた車は、さっき来た道を戻るように走り出す。
先ほど急に曲がった国道を左に曲がると、また田舎の風景が広がっていた。

「あそこの、お店ですか?」

「おそらく、間違いないと思うけど、もし、間違っていたらどうする?」

ちょっと、意地悪っぽい笑みを浮かべながら話す裕子。
裕子たちがいる場所から見て、米粒くらいに見えるその建物までは、約1キロくらいもあるだろうか。
それでも、遠くから見ても、何かのお店らしき建物である事は確認出来る。

妙に確信を持って走る裕子に、(もし間違っていたら間違いなく迷子になるのでは?)
そんな事を考えながら、愛奈は、近づいてくる、そのお店に視線を合わせていた。

「アトリエ愛里・・・間違いないわね」

「ちょっと変わった名前のお店ですね」

「ふふっ。もし、雪子に女の子が生まれていなかったら、お店の名前は、アトリエ愛奈だったかもしれないわよ?」

「えっ?ホントですか?」

少し驚いた様子の愛奈をチラッと見ると、裕子は含み笑みを浮かべながら車を駐車場へと入れる。

「さて、夏樹さんいるかしら?」

裕子が、以前に、雪子から写真を見せられた時は、お店の正面から写していたらしく、
以前は喫茶店だった建物を、アトリエとして手直ししたのかな?と、思っていたのだが。
こうして間近で見ていると、写真で見ていたよりも大きな建物である。

「雪子に写真を見せられた時は、喫茶店かな?って、思ったけど、以前は、喫茶店というよりレストランって感じだったみたいね」

「あっ、あれっ?」

「どうしたの?」

「いま、あそこの窓から、クマさんのぬいぐるみさんが、こっちを見ていたような気がしたんですけど」

愛奈は、建物の2階の窓の方を指さしながら、
裕子に、クマのぬいぐるみを目撃した場所を教えた。

「ふふっ、もしかしたら、ほんとにクマさんのぬいぐるみさんが見ていたのかもね」

今度は、別に驚く事もしない、疑いもしないで話す裕子にも、愛奈は驚いていた。
そんな愛奈を横目に、お店の方へ行こうとすると、ふいに玄関のドアが開いた。
ドアは、横に開閉するタイプではなく、前後に開く一枚タイプのドアである。

「こんにちは」

「あっ、こんにちは」

「もしかして、裕子さんかしら?」

裕子に声をかけてきたのは、年の頃は、もう80歳を超えているだろうか。
派出てもなく、かといって地味でもない、清楚な着物を着た、小柄で優しそうなおばあさんである。

「はじめまして、裕子と言います。こちらが、愛奈ちゃんと言って・・・」

「雪子さんの娘さんですね?」

「おばあさん、愛奈ちゃんを知っているんですか?」

「おかみさんが、雪子さんの可愛い娘さんが会いに来るのよ!って言っておりましたもので、もしかしましたらと」

おかみさん・・・?
夏樹さんったら、今度は、いったい誰になったのよ?

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