愛して欲しいと言えたなら

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伝わらない想い

伝わらない想い・・・その1

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どんな形の別れてあっても
最後に、さよならを伝えなければ
そこから先へは、一歩も、歩き出せない。

直美が選んだのは、京子が、夏樹と別れた現実を、京子自身に教える事なのかもしれない。
それが、夏樹の京子への最後の想いであり、最後の願いなのでは・・・直美は、そんな風に感じていた。

これって、人が生きていく中で、一番、関わりたくない瞬間なのかもしれないのよね。
世の中には、色んな別れの形や、色んな別れの瞬間ってあるけど・・・
それを認める事が怖くて、目を伏せてしまう事もあるし、避けて通りたくなるものなのかもしれない。

「別にね、私が思ってる事や考えている事が、正しいとは思ってないのね。ただね、ちゃんと、さよならを伝えたのと伝えないのとでは、その先が、違うんじゃないかな?って、思うの」

「そんなの、離婚したんだから、それで、さよならでいいんじゃないの?」

「それ、本心?違うでしょ?」

「それは・・・」

「京子は、昔から負けず嫌いなところがあるから、私の言う事にも、何とか言い返そうとするけど、普段から、自分が損をしないような言葉を選んで話しているから、こんな感じの場面になると、言い返す言葉が、京子自身を孤立させてしまうようになっていくの・・・分かる?」

「そういうわけじゃ・・・」

「夏樹さんとの事でさ、京子の相談相手になってくれた人って何人いたの?そうね、そうねって、話を聞いてくれる人はいるわよ。中には、ありきたりの同情や、決まりきったような借り物のアドバイスとか、でも、そんなのって、全部、意味がない事くらい、京子だって分かってるでしょ?」

「そんなの、言われなくても分かってるわよ」

「誰か一人でも、京子に、夏樹さんの悪口を言ってはいけないって言った人はいた?もし、いたとしたなら、その人は・・・」

「その人は、なに・・・?」

「いたのね?・・・京子に、そう言ってくれた人が?・・・」

確かに、いたのである。
京子に、夏樹の悪口を言ってはいけないと言った人が、一人だけいたのである。

ただし、それは、もう過去形であり、
夏樹と離婚した次の年に、病気で亡くなった京子の父親である。

いつの間にか忘れていた京子だったのだが、
直美の意外な言葉に、亡くなった父親の言葉を思い出していた。

ただ、その時の京子は、夏樹に騙された、夏樹に裏切られたという感情が強くて、
病の床の父親の言葉などに聞く耳を持てなかった。
それでも、どうして、そんな事を言うのだろうと、不思議に思ったのも確かである。

「ねえ?どうして、直美が、それを言うの?」

「いたのね?・・・もしかして、亡くなったお父さん?」

「だから、どうして、それを、直美が言うのよ?」

「夏樹さんの悪口を言ってはいけないって?」

「そうよ。父も、亡くなる前まで何度も言ってたわ。あの人の悪口を言ってはいけないって・・・。だって、私は、被害者なのよ。どうして、あんな人を庇わなきゃいけないの?」

「さすが、京子のお父さんね」

「何が・・・?」

「京子の性格をよく知ってるって事よ。それで、お父さんは、夏樹さんの事をどう思ってたの?」

「どうって・・・」

「悪く思ってなかった・・・でしょ?」

「さあ、そんなの分からないわ。ただ、変な事を言ってたのは覚えているわ」

「何て、言ってたの?」

「あ~いう生き方もあるんだから・・・って。でも、私には、何のことだかさっぱりだけど」

「あ~いう生き方も・・・か・・・京子のお父さんは、きっと、知っていたのね」

「なに?直美に分かるの?」

「ちょっと前までの私だったら、きっと、分かんなかったと思う。ほら、私って、おバカだから」

「それが、どうして、今は分かるのよ?」

「きっと、夏樹さんのおかげかもしれない」

「あの人の・・・?」

「おっ、あんな人から、あの人に変わった」

「もう、そんな事は、どうでもいいから・・・」

「ねえ、コーヒーのおかわりしない?私は、ミルクティーだけど」

京子は、最近の直美を見ていると、時々、妙に色っぽく感じる瞬間がある。
とはいえ、別に、洋服の趣味が変わったとか、化粧の仕方が変わったとかというわけでない。
かといって、アクセサリーを身に着けるようになったわけでもない。
前から知ってる、いつもの、普段通りの直美なのだが・・・。

「京子は、愛され過ぎていたのね・・・きっと・・・」

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