愛して欲しいと言えたなら

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繋がる刹那

繋がる刹那・・・その16

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知らない、誰か・・・きっと、それは夏樹さんね。
でも、旦那さんは、夏樹さんの存在を知らないはずよね?

「ねえ?愛奈ちゃん。それって、どういう意味なの?」

「私も、その時のお父さんの言葉には、ちょっとびっくりしちゃって。それで、すぐに訊き返したんです、それって、どういう意味なの?って」

「そしたら、お父さんは?」

「ええ、それが、お父さんもすぐに我に返ったっていうか、それで、笑いながら(ごめんごめん、冗談だよ、冗談!)って、それっきりだったんです」

「そう・・・」

「私も、突然だったので、それ以上、訊いていいのかどうか分からなくて」

「そうよね・・・寝耳に水というか、ちょっと意外過ぎる一言だものね」

「それに、お母さんって普段から地味だから、そんな相手がいるなんて思ってもみなかったし」

「そんなに地味なの、雪子って?」

「まあ・・・浮いた話には縁がない人って感じくらい、地味に見えていたんですけど」

「それが、あの駐車場で・・・?」

「あの時は、ホントにびっくりしたんですよ。しかも、お母さん口紅してたんです!薄ピンクだけど。それにもびっくりしたし!」

薄ピンクの口紅・・・夏樹さんの、好みの色だわ。

「普段は、口紅はまずとして、お化粧くらいはしているでしょ?」

「それが、普段は気持ち程度って感じくらい。でも、あの時は全然違ってて・・・。でも、お母さんと一緒に遠くまでって、お出かけとかした事とか、あんまりなかったから、やっぱり、遠くまでお出かけする時は、ちゃんとお化粧をするんだな程度にしか思ってなかったんですけど・・・」

「どこで、お化粧をしたの?・・・でしょ?」

「はい、そうなんです・・・」

「雪子らしいわね、そういうところって」

「それで、お父さんの言葉を思い出したんです。それまでは、忘れていたんですけど」

「自分は、知らない誰かの身代わり・・・」

「はい。だから、あの時、駐車場で見たお母さんの姿に、正直、背筋が寒くなったんです」

「愛奈ちゃんたちの知らないお母さんがいるって感じたのね」

「ええ、そうなんです。だって、そういうのって、テレビドラマや映画の世界のお話じゃないですか?それが、うちのお母さんが?って。普段から、地味で物静かなお母さんなだけに尚更」

「確かに、そうよね」

「でも、あ~いう瞬間って、驚きよりも寒気がするもんなんですね。初めて知ったというか、体験しました」

「それが、さっき言った雪子の怖さでもあるのよ」

「そう言われると、何となく、分かるような気がします」

「それで愛奈ちゃんは、突然、家を出て行ったお母さんの事を、あまり心配していなかったのね」

「心配よりも、どこか、ワクワクというか、ドキドキというか」

「あんなに、地味で物静かな自分のお母さんが、突然、素敵な女性に見え始めちゃったみたいな感じなんでしょ?」

「あっ、はい!そうなんです」

「なるほどね。私も、愛奈ちゃんのそんな気持ち分かるわ。でも、そのために、雪子は愛奈ちゃんたちの家庭を壊す事になるかもしれないのよ?」

「私は、自分が、物分かりが良い娘だとは思っていないけど、でも、私も翔太も大人だし、それに、お父さんだって大人なわけだし・・・」

「でもね、ほとんどの家庭では、みんな、自分たちの家庭を守るために、何かしらの犠牲を強いられているものなの。なぜ、人は自分の何かを犠牲にしてまで、自分たちの家庭を守ろうとするのかってね?そして、それは、そこが帰る場所だからなの。自分たちの帰る場所があるから、安心してどこへでも行く事が出来るの・・・。だけど、雪子がした事は、愛奈ちゃんたちの帰る場所を壊してしまう行為なの」

「それは、分かりますけど・・・」

「ううん、分かってないわ・・・。もし、愛奈ちゃんが誰かと結婚して、子供が出来た時に、その子供に教えてあげれるはずの愛奈ちゃんの育ってきた場所も、生活してきた形跡も無くなるって事なの。あるのは、愛奈ちゃんの記憶の中にだけ、生きてきた証明が残されているだけになってしまうの」

「でも・・・それは」

「そうね。世の中には、離婚をする人たちも多くいるわよね。でもね、その大半は、何らかの事情があって、離婚という選択肢を選んでいるの。でも、雪子がした事は、そのどれでもないの。ただの、自分勝手なわがまま、雪子にだけ都合がいいだけの選択、そして、それは、雪子だけが幸せになろうとする身勝手な行動なのよ」

愛奈は、母親である雪子の行動を否定するような、裕子の言葉に少なからず驚いていた。

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