愛して欲しいと言えたなら

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繋がる刹那

繋がる刹那・・・その10

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直美は、省吾と話している自分に驚いていた。
というより、今、こうして省吾と話をしているうちに、
少しずつ、夏樹の考え方が、分かり始めてきたような気がしている自分自身にである。

あの時、夏樹が言った、自分の子供たちに対しての言葉の意味が・・・。
もっと言えば、夏樹は、直美との会話の中で、
悟られないように、それとなく、ある事を伝えていたのだと思った。

それが、少しずつ分かり始めた直美には、
省吾が話す言葉には、意識してか、無意識かは分からないが、
まだ、自分が損をしないように言葉を選んでいるのだと分かるのかもしれない。

いや、言葉というよりも、考え方といった方が、分かりやすいかもしれない。
今の直美には、そんな省吾の考え方が、手に取るように分かってしまうのである。

「まあ、いいわ。そのうちでも、いつでもいいから、お父さんに伝えたい言葉があるようだったら、私に連絡をちょうだい!」

「はあ・・・」

直美は、その意味を教えるべきかどうか迷ったが、
今は、まだ、何も言わない方がいいのかもしれないと思った。

自分の手を汚さないで手に入れた答えなどに、何の価値もない・・・。
この場合は、自分で苦労して・・・ではなく、自分の手を汚さないで。が、正解なのだから。

確かに、省吾は苦労はしている。
あの時から、自分の両親である夏樹と京子が離婚してから、省吾なりに、社会という世界も、
そして、その社会から見られる自分の存在価値も経験したのだろうし。
学歴がないというハンデも、お金がないという惨めさも、人並みには経験しているのも分かる。

しかし、ただ・・・それだけ・・・なのである。
それ以上でも、それ以下でもない・・・。ただ、それだけの事・・・なのである。

なす術がないわけではない。ただ、見つけようとしないだけ。
現状を打開する方法がないわけではない。ただ、その方法を探そうとしないだけ。
自分の未来に可能性がないわけではない。ただ、その可能性を眺めているだけ。
もし、すがれるのならわらにもすがりたい。その願いに、損得勘定が入り込んでいるだけ。

もし、夏樹と話をしていなければ、直美も、気がつかなかったかもしれない。
それ以前に、今、こうして、省吾と話をしてみたいとも思わなかっただろう。
省吾も、亜晃も、京子という親友の、ただの子供たちにすぎなかったはずである。

親が、我が子を気遣う繊細さと、そして、その我が子を想う心の凄みを。
今さらながらに、あの時の、夏樹の言葉の意味に、驚きと、想いの奥深さを、思い知らされた直美だった。

夏樹さんは、自分の子供たちの事を、何とも思っていないみたいな事を言ってたけど。
なるほどね。あえて、子供たちを他人として扱う事で、
親子という概念が、子供たちに及ぼす見えない悪意を断とうとしたのね。

子供である省吾君たちが、親という立ち位置にいる夏樹さんと、
もう一度関係を持とうとすれば、そこには、必ず、損得勘定が生まれてしまう。

特に、あんな、離婚の仕方をすれば尚更だろうし。
そして、それは、たとへ意識をしていなくても、
省吾君たちの心の中には、無意識の悪意が芽生えてしまう。

そんな、愚かな人間にはなって欲しくないという、
夏樹さんの、親としての優しさなのかもしれない。

ってかさ、もし、その意味に、私が気がつかなかったら、どうするつもりだったのかしら?
でも、私は、その意味に気がついた・・・。
う~ん、相変わらず、夏樹さんって謎だわ。

省吾と別れた直美は、夏樹が住んでいた貸家の見える道路に車を止めて、
いつもの缶コーヒーを飲みながら、スピーカーから聞こえてくる、いつもの曲を聴いていた。

でも、省吾君は気が付くかしら?
夏樹さんなら、こう言うんだろうな~。
気が付かなければ、それまでのお話よって。素っ気なく、きっと、女言葉で・・・。

直美は、夏樹が住んでいた貸家を眺めながら、(あそこで夏樹さんとお話をしたのよね)
そして、視線を、郵便局の方へ移すと、(さっきあそこで雪子さんとお話をしたんだわ)
などと、一人、嬉しそうに笑みを浮かべては、缶コーヒーをゴクリ、また、笑みを浮かべてはゴクリ。

私が、夏樹さんと一緒になっていたらかぁ~。
省吾君は、きっと上手くいってたと思うって言ってたけど・・・そうなのかなぁ~・・・。
と、また、笑みを浮かべては、缶コーヒーに何か話かけている直美だった。

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