愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
269 / 386
繋がる刹那

繋がる刹那・・・その9

しおりを挟む
「まあ、別に隠すような事じゃないからだけど。確かに、省吾君が思ってるように、夏樹さんとは何度かお話をした事もあるし、それに、引っ越し先も連絡先も知ってるわ・・・。というより、教えられたって言った方が正解ね」

「やっぱり・・・」

「でもね、それは、私が、どうのこうのって事じゃないのよ」

「分かってます・・・母さんのためなんでしょ?」

「分かるの・・・?」

「何となく・・・父さんが言ってた事があるんです。・・・「だからって、母さんが苦労してもいいって事にはならないって」・・・」

「夏樹さんが・・・?」

「はい。母さんにどんな落ち度があったとしても、それで、母さんが苦労してもいいって事にはならないって意味だと思うんですけど」

「どんな落ち度が・・・それって、どんな別れ方をしたとしてもっていう意味ね」

「だと、思います・・・」

「そうなの・・・そういう考え方って、なんか、夏樹さんらしいわね」

「だから、父さんは、直美さんにだけは、自分の連絡先を教えたんだと思います。」

「京子に、何かあったら・・・。それが分かっているなら、どうして、省吾君はお父さんの居場所を知ろうとはしなかったの?」

「父さんが、どこに住んでいたのかは知っていました・・・。引っ越す前の場所ですけど。でも、父さんが住んでいた家の前の道路を、何回、通っても、一度も、父さんを見かけた事がないんです」

一度もない・・・?
まあ、それは確かにそうかもしれないわね。
なにせ、夏樹さんは女装して女性になっていたんだから・・・。

「でも、もう、夏樹さんは引っ越しちゃったから、どこにいるのか、分からなくなってしまったわね」

「まあ・・・そうなると思います」

「それで、どうするの?」

「どうするって、言われても・・・」

「やっぱり、京子が、お母さんが怖い?」

「いえ・・・母さんは怖くありません。怖いのは、父さんの方です」

「夏樹さんの方?どうして?」

「それは・・・」

「もしかして、許していないのは、被害者の京子の方じゃなくて、加害者の夏樹さんの方だと思ってるの?」

「いえ、被害者は、母さんじゃなくて、父さんの方だと思います」

「あら?それは意外だわ。私は、京子や省吾君たちの方が、被害者だとばかり思っていたんだけど」

「それは・・・上手く説明が出来ないんですけど・・・でも・・・」

「ふ~ん・・・なるほどね。何となく分かるわ、その気持ち。でも、それで、どうして夏樹さんが怖いって思うの?」

「それも、上手く説明が出来ないんですけど。ただ、何となく、父さんには、全部、見透かされているっていうか、全部、見られているっていうか・・・」

「省吾君たちのズルい考えや、自分たちをよく見せようと嘘をついていたとかって事?」

「ええ、まあ・・・。父さん一人を悪者にしてしまった事とかも・・・」

「ようするに、夏樹さんに対して後ろめたいってわけね?」

「まあ・・・そうなんだと思います」

 「省吾君が、そんな風に思っているんなら、もう分かってるんでしょ?この先、自分が何をすべきなのかって?」

「だから、余計に自分が情けないっていうか・・・」

「何も出来ないから?」

「現実っていうか、世の中っていうか、やっぱり、そんなに甘くはないです」

「学歴がないから、まともな会社に就職出来ない。それなら、自分でって思っても、お金がないから事業も起こせない。かといって、お父さんに頼ろうにも、今さら、頼れない自分になってしまっていた。まあそんなとこでしょ?」

「そんなとこです・・・」

「ふ~ん・・・省吾君は、まだ、気取りが抜けてないみたいね?」

「そんな事はないです・・・。この歳になっても、未だに、バイトしか出来ないんですから、今さら、格好付けけようにもつけられないんですから」

「そうかしら?私から見たら、省吾君は、この期に及んでも、まだ、自分が損をしない言葉を選んでいるようにしか思えないんだけど」

「そんな事はないです」

「そうかしら?まあ、いいわ。どっちにしても、私の問題じゃないしね」

「でも、僕は、別に自分が損をしないようにとかって、そんな風には考えていないです」

「私には、ありありに思えて仕方がないわよ・・・なぜか、分かる?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...