愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
263 / 386
繋がる刹那

繋がる刹那・・・その3

しおりを挟む
今、聞こえたような・・・確かに聞こえたような・・・(あの、たわけが・・・)って。
でも、いったい、どこから聞こえたのかしら?

まさか、雪子さんじゃないわよね・・・?
だって、声が、全然、違ってたし・・・。
まるで地の底から聞こえるような低い声っていうか低音っていうか・・・あっ、同じ意味だった。

「あ・・・あの・・・」

「はい・・・?」

あっ、やっぱり違ったわ・・・。
さっき聞こえた声とは全然違う声だわ、きっと私の勘違いね。

「あっ、それで、あの、どうして夏樹さんが住んでいた家の前に・・・?あっ、余計なお世話でしたね」

「うふっ・・・」

うふって・・・あの・・・それでは、回答になっていないような・・・。

「それでは、私は、これで・・・」

そう言って、軽く会釈をして立ち去ろうとする雪子に直美は慌てて声をかけた。

「あの・・・最後に一つだけ教えて欲しいんですが・・・」

「はい・・・?」

「あの・・・雪子さんと京子とでは、いったい何が違うんですか?」

「えっ・・・?」

「いえ、あの・・・どうしても、その事が分からなくて。それに、夏樹さんに訊いても、ちゃんと答えてくれないっていいますか、なんといいますか・・・です。はい!」

「ふふっ・・・あなたも同じ事を訊くんですね?」

「同じ事をって、他にも・・・」

「ええ・・・でも、それは、知らなくてもよろしいかと思われますよ」

「でも、という事は、やっぱり、雪子さんと京子では何かが違うんですね?」

雪子は、少し考えてから、静かに言葉を口にする。

「あの人に気遣いをさせ過ぎたら、きっと、あの人は、自分の何かをすり減らしながら季節を過ごしてしまうのかもしれません」

「えっ・・・?」

「何か、お心当たりがありそうな?」

お心当たりと(お)を付けなくても、十分にあり過ぎるような・・・。
とはいっても、確かに、あり過ぎるくらいあるのかもしれない・・・。
雪子さんと京子の違いって、夏樹さんに気遣いをさせないか?それとも気遣いをさせてしまうか?

そういえば、夏樹さん言ってたわ。
仲が良いという間柄は、どちらかが、どちらかに合わせているからなんだって。

「すみれ・・・あの人が好きなお花さんなんですよ」

すみれ・・・夏樹さんが好きな花・・・?

「それでは、これで・・・」

雪子は、また軽く会釈をすると、丁字路の手前にある郵便局の駐車場へと歩いていく。
すみれ・・・夏樹さんが好きな花・・・
すみれ・・・すみれ・・・、あっ・・・雪子さんが行っちゃった。

雪子さん、郵便局の駐車場の方へ歩いていったけど、もしかして車で来たのかしら?
だけど、確か、夏樹さんは、雪子さんは車の運転はものすごく苦手だって・・・。

直美は、雪子が口にした(すみれの名前)の意味を考えながら、駐車場の方を見ていると、
まもなくして、一台の黒塗りのタクシーが出入り口から出てきた。

後部座席の方を見てみると、雪子が、直美の方をチラッと見ながら軽く会釈をしてくれた。
直美も慌てて会釈をすると、タクシーはそのまま丁字路を右折して走り過ぎていった。
直美は雪子を見送ると、慌ててスマホを取り出して画面をタッチした。

「あの、夏樹さん、お話しました!というより、お話が出来ました!」

「ん・・・?」

「でも、やっぱり物静かでおしとやかで優しくて、それで、それで、どうして、あんなに可愛いんですか?」

「あんた、また主語を忘れてるわよ?」

「あっ、そうですた!」

「そうですた?・・・あはは、その分だと雪子とでも、お話が出来たのかしら?」

「あっ、分かります?そうなんですよ、たった今、たった今ですよ!」

「ふふっ、その話し方だと、あんたの一番知りたかった事がやっと分かったって感じね?」

「えっ・・・?」

っていうか、どうして、それが分かっちゃうのかしら?
私は、まだ何も言ってないんですけど・・・
相変わらず、不思議な能力っていうか超能力っていうか。

「あら?当たっちゃったみたいね!」

おおお===い!
今のは、ただの勘だったんですか===?

ちょっと待ってよ。
私は、まだ、何を訊いたのかって、夏樹さんには言ってなかったはずよね?
という事は、もしかして、私にカマをかけていたりして・・・。

「雪子と京子の違いって、あんただけでなく、おそらく、京子自身が一番知りたかったんじゃないかしら?」

あっ・・・
やっぱり、当たってた・・・。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...