愛して欲しいと言えたなら

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対価の罪

対価の罪・・・その14

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「お母さんが困るって、どうして?」

「どうしてって、別に意味はないけど、母さんって世間体とかって気にするでしょ?」

「そうはいっても、いつまでもって訳にもいかないんじゃないの?」

「まあね。でも、高校に行ってないんじゃ、どこかに就職するっていってもほとんどないし。仮にあったとしても、何かにつけて中卒って白い目で見られるでしょ?母さんと暮らしていれば家賃とか払う必要ないし、食べ物だってお母さんが作るから別にお金もかからないし。それに、バイトの方が気楽でいいしね」

「高校って、確か通信制に通ってたんじゃなかったの?」

「1年くらいは通ってたけど辞めちゃったし」

「それは聞いてたけど、どうして通信制を辞めちゃったの?」

「どうしてって、別に通信制に行きたくなかったんだけど、おやじが通信制に行けっていうから行っただけだよ」

「それじゃ亜晃君は、通信制じゃなくて普通の高校に行きたかったの?」

「そうだよ。それを、おやじが無理やり通信制に決めたから仕方なく通ってただけ」

「そうだったの・・・」

直美は、あえて、その事について深く訊こうとはしなかった。

「でも、通信制でも、ちゃんと卒業していれば就職だって出来たんじゃないの?」

「かもね、でも、おやじが商売に失敗して離婚して家を出て行っちゃったし」

「あっ、そっか」

「確かに、おやじには同情はするけど。でも、理由はどうであれ商売に失敗したのは事実だし、そのとばっちりを受けたのが僕や省吾なんだから、おやじが、もっとしっかりしていれば僕らが苦労する事もなかったんだよね」

「まあ・・・確かにね」

「母さんだって、何だかんだ言っても全然悪くなかったわけでもないでしょ?母さんにも少しは責任があるんだから、僕らの住むところや食べ物くらいは面倒見てもらわないとね」

「そう・・・なの・・・?」

「そうだよ。そうじゃなくても、一緒に暮らしてやってるんだから、僕らが母さんの世間体を守ってやってる事にもなるし一石二鳥じゃない」

一緒に暮らしてやってる・・・?

「それじゃ、省吾君も同じ考えなの?」

「たぶん、そうだと思うよ。じゃなきゃ、もうとっくに家を出て独立してるんじゃないかな?」

「そうなんだ・・・」

「でも、少しスッキリした感じ」

「どうして・・・?」

「だって、こんな話ってあんまり出来ないし、それに直美さんって口が堅いって母さんが言ってたし」

「そうかな・・・?」

違うわ・・・
それとなく、自分は、今でも父親を許していないし、
母親と一緒に暮らしているのは、母親のためであり、
母親の事を、全部が被害者だとは思ってないのだと、
さりげなく、母親の事を脅しているようにも聞こえるけど・・・。

もちろん、私が、京子に亜晃君との会話を京子に教えるだろうという事が前提になるんだろうけどね。

夏樹さんなら、こう言うわね。
口が堅い人に、わざわざ、あなたは口が堅いからなんて言わないわよって。
あっ・・・なぜか、女言葉になってしまった。

「でも、亜晃君は、お父さんに会いたいとかって思わないの?」

「別に、思わないけど・・・」

「やっぱ、男の子ってそんなもんなのかな~?」

「そういうわけじゃないけど、お金がないおやじと下手にまた会うようになったりしたら、後々困るのはこっちだし」

「どうして 亜晃君が困るの?」

「だって、お金がない親じゃ、老後の面倒を見るっていったって、こっちが被害を被っちゃうよ。それに、お金もないのに女なんか連れ込んじゃってさ。あそこを引っ越したのだって、おそらく家賃が払えなくて追い出されたんじゃないの?」

「そうなの・・・」

「それにさ、年を取って貸家住まいじゃ、この先も期待も出来ないしね。その分、こっちは持ち家でしょ?」

「こっちって、お母さんの?」

「そうだよ、持ち家だったらお金を借りる事も出来るし、売る事だって出来るじゃない?」

「まあ、確かに・・・」

「こっちだって、高校に行けなくて苦労しているんだから、そのくらいの事はしてもらわないと割に合わないよ。そうじゃなくても、母さんの顔を立てて一緒に暮らしてやってるんだからさ」

普通であれば、亜晃の話を聞いていれば頭にくるののだろうが・・・。
直美は、亜晃の考え方に頭にくるよりも、
そんな中で、日常を過ごしている京子が哀れに思えて仕方がなかった。

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