愛して欲しいと言えたなら

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対価の罪

対価の罪・・・その13

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「亜晃君は知ってたの?」

「うん、知ってた」

「そうなの・・・」

「それで、その人がね、お前のおやじは、お前の母さんと一緒になった事を一度も否定した事もないし、ただの一度だって、お前の母さんの悪口を言った事も愚痴をこぼした事もないんだぞって」

「何となく分かるわ」

「ただね、その後の言葉がちょっとね・・・」

「ちょっとって・・・どんな事なの?」

「うん。お前のおやじが、人前から消える選択肢を選ぶ事になった最後の言葉を与えたのが、お前の母さんの一言だったんだぞって」

「夏樹さんが、人前から消える・・・?」

「うん。だから、母さんと離婚したおやじのその後を知ってる人って誰もいないんだよ。特に、省吾がおやじの家を出たその後なんて僕も知らないし、省吾だって母さんだって知らないし、一度も、おやじを見かけた事もないみたいだし」

「そうなんだ・・・」

京子は子供たちには言ってないのね・・・。というよりも言えないか、やっぱり。
だって、まさか亜晃君たちの父親が今は女装して暮らしているなんて、ちょっと言えないものね。

でも、そういえば、京子も、1年くらい前までは夏樹さんの事を知らなかったはずよね。
大晦日の日に、夏樹さんが雪子さんと一緒に歩いていた時にすれ違ったから、
夏樹さんだって分かったわけだし、夏樹さんが女装をしているって事も分かったんだし。
それまでは、京子も夏樹さんの行方は分からなかったって事になるのよね。

それに、夏樹さんが言ってたけど、あの時、わざと自分が夏樹だと分かるようにしたって。
もし、夏樹さんがそういう仕草をしなかったとしたら、京子は今でも夏樹さんの行方が分からないまま。
う~ん・・・夏樹さんって、まるで忍者みたい。

「それで、京子が夏樹さんに言った一言っていうのは?」

「うん。母さんが、おやじと結婚した事を否定したらしいよ。おやじと一緒になったのは失敗だったって」

「そう、京子が、そんな事を・・・。でも、その人はどうしてその事を知ってたの?」

「だって母さん、その人に言ってたもん。それに、母さんの実家の人が誰かに言ってたのも聞いたみたいだし。とにかく、母さんは、自分の味方になりそうな人に片っ端から言ってるんだもん」

「うそ・・・?」

「そりゃ、まあ、母さんの気持ちも分からない訳でもないないけど。でも、いくら何でもちょっと言い過ぎだよ」

「そう聞かされても、ちょっと信じられないけど・・・ほんとなの?」

「ほんとだよ・・・」

「そう・・・それじゃ、亜晃君や省吾君は、そんなお母さんの事をどう思ってるの?」

「どうって、別に何とも思ってないよ。省吾も同じだと思うよ。確かに、母さんのおやじの悪口にはうんざりはしているけど、でも、その原因を作ったのはおやじなんだし、母さんは被害者って言えば被害者なんだよね」

京子が、被害者・・・。これって、夏樹さんが言ってた事じゃないの?
言葉は違うけど・・・でも、夏樹さんが言ってた、父親を憎むように仕向けているっていうのと同じ事よね?

だから、京子は、被害者の自分でいなくてならなかった・・・。
そして、それは、この先もずっと続けていかなければならなくなってしまった。

いつの間にか、京子は夏樹さんを憎むことでしか、
生きていく事が出来なくなってしまっているんだわ。

そうしなければ、夏樹さんを憎み続けなければ、京子の周りの人が離れていってしまうから。
きっと、亜晃君も、そして、省吾君も・・・でも・・・。

「ねえ、亜晃君は独立とかって考えているの?」

「独立って、家を出るって事?」

「そう・・・だって、いつまでもお母さんとってわけにもいかないんじゃないの?」

「そうかな?」

「そうかなって・・・違うの?」

「だって、僕や省吾が家を出ていったら、母さんが困るんじゃないのかな?」

京子が困るって・・・まさか・・・。

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