愛して欲しいと言えたなら

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対価の罪

対価の罪・・・その12

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「でも、亜晃君?どうして省吾君が後悔するの?」

「省吾は僕と違って無口っていうか、普段は何でも話すんだけど、大事な事っていうか、そういう感じの事はあまり話さないんだよね。だから、そういう事を訊かれても嫌な顔をしたり、なんで話さなきゃいけないわけ?みたいな感じの態度を取るから、僕も、一回、訊いたくらいであとは訊かなかったんだ」

「それじゃ、省吾君の方から?」

「うん。確か、おやじのところから引っ越してきて1年くらい過ぎた頃だったかな?珍しく、省吾と遠くまで一緒に行く事があってね。その時に、車の中で、ちょうど母さんはいなかったし」

「それじゃ、車の中で?」

「うん。いきなり省吾がね、(父さん壊れてたんだよね)って・・・」

「壊れてた・・・?夏樹さんが・・・なの?」

「うん。おやじと一緒に暮らしていた時は全然気が付かなかったけど、こうして離れてみると、それがよく分かるって・・・。それを聞いた時は、僕もちょっとびっくりしたんだ」

「ちょっと、信じられないけど・・・」

「僕もだよ・・・。でも、省吾から色々聞かされているうちに、思い当たるような事が思い出してみれば、けっこうあったような気がして」

そう言うと、亜晃は、省吾から聞かされた普段の夏樹の中に垣間見える異常な言動や行動を、
直美に事細かく話し始めた。

ただ、直美としては、実際に自分が夏樹と何回か話をした事があったからなのか、
亜晃の言う省吾から聞かされたという夏樹の症状がとても信じられなかった。

「信じられないでしょ?」

「ええ・・・ちょっと・・・」

「僕も最初は信じられなかったんだ。まさか、そこまで?って、正直、思ったもん」

「よね・・・」

「それに、おやじって昔からそうだったみたいだけど。弱いところとかって絶対に人には見せない人だったし、誰かに頼るとかって事も絶対にしない人だったから、きっと、誰も分からなかったと思うよ。実際に、僕も省吾に聞かされるまでは全然分からなかったし、そんな事を考えもしなかったし」

「それで、省吾君が・・・」

「うん。自分は、そんなおやじを見捨てて出てきたんだって・・・」

「そうだったんだ・・・」

「それに、おやじって人の悪口とかってあんまり言わないし。特に、家族の悪口は絶対に言わない人だから、その事が、かえって今でも省吾を苦しめているみたいだし」

「そう・・・」

「でもね、おやじってさ、その割には、自分の両親や兄弟の事は遠慮なく悪口を言うんだよね」

「そうなの・・・?」

「うん・・・。それに、おやじの両親や兄弟からは、おやじってすごく怖いって思われているみたいで、よくおやじが言ってたんだ、あいつら、いつか俺に殺されるんじゃないかって、いつも、ビクビクしてるんだぞ!って」

「まさか・・・」

「それが、どうやら、あり得ない話でもないみたいだけど・・・。おやじをよく知ってる人も同じような事を言ってたから。でも、お前のおやじは自分の家族には絶対に手を出さないから安心しろって言われたけど」

「言われたって、その、お父さんをよく知ってるっていう人に言われたの?」

「うん、そうだよ・・・」

「そうなの・・・」

「その人には、おやじの事を色々教えられたんだ。その中で一番印象に残ったのが、おまえのおやじは金じゃなくて人を選んだんだ。だから、商売に失敗したんだって!」

「それって、どういう事なの?」

「う~ん、僕も詳しい事までは分からないんだけど。例えば、ここのコンビニ。いつも、お客様のためにとか、お客様に喜んで頂けるようにとかって、何となく賢者みたいな事を言ってるけど、何だかんだいって結局は、他のお店と客を奪い合ってるんだよね。普通の人は、それが当たり前に思ってるんだろうけど。でも、おやじはそうは考えなかったみたいで、商売で成功していく人たちは、偽善者の仮面を隠す言葉を平気で使う事が出来る人たちって考えていたみたい」

「偽善者の仮面を隠す言葉・・・?」

「僕も、その意味はよく分かんないけど・・・でも」

「でも・・・?」

「その人がね、おやじの事を分かってやれ!って。お前の耳にも聞こえてきてただろ?って」

「聞こえてきてたって、どんな事なの?」

「直美さんも聞いた事があるんじゃないかな?おやじは、結婚する相手を間違えたんだって」

直美は、亜晃の意外な言葉に少し驚いた。

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